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辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。 |
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フリュイ・コンフィ。簡単に言えば、フルーツの砂糖漬け。ウサギの形をしたパンで目に使われている真っ赤なドレンチェリーもそう。これ、日本ではあまりいいイメージではないですよね。味も香りもなく、ただ甘いだけ。下手をしたらそっと取り除かれてお皿の隅に追いやられてしまう。
でもそんなフリュイ・コンフィもここフランスでは、パティスリーやショコラトゥリー(チョコレート専門店)で見かけるのです。言わずもがな、コンフィズリー(糖菓専門店)には色も形もさまざまなフリュイ・コンフィがよく並んでいます。しかも多くがフルーツの色や形を留めていて、一目見ただけで何のフルーツかがわかります。パリの有名な高級食品店にもフリュイ・コンフィの詰め合わせがショーウィンドウいっぱいに並んでいて、人目を惹いていました。
日本と何が違うのだろう?
フリュイ・コンフィといえば・・・アプトだ!
時は8月、朝はかなり涼しくなってきたリヨン地方を抜け出し、通称太陽道路を南へと下る。アヴィニョンで高速を下り、プロヴァンス地方の小さな町アプトへ。強烈な太陽が照りつけ、全てが色鮮やかに、そして気候も夏に逆戻り。暑い!
アプトの町に入るとすぐに、色鮮やかなフリュイ・コンフィ屋さんが私たちを迎えるように並んでいた。うわ! 丸ごとメロンの大きいこと。まるでハロウィンのかぼちゃみたい! 店中どのフルーツも色鮮やかでホントにきれい。
これは是非とも作ってる所を見たいと、お願いしてみたのですが…大量の熱いシロップを扱っていて危ないからダメと断られてしまいました。アプトの観光案内所で聞いてみても、かなり工業化が進んでいるようで、昔のように自家製でコンフィを作っているお店はアプトでも3軒しかないそうです。紹介してくれたアプトの町外れにある大きな工場でフリュイ・コンフィの作り方を学べました。ここのフリュイ・コンフィ、なんとフランス校の授業で使っているものでした。さて、「学べました」と歯切れ悪く書いてしまいましたが、訪れた週末は見学が出来ず、ビデオで製造工程を見せていただきました。
そこでアプトの産業博物館にも立ち寄ることにしました。ここでは昔使っていた器具や現在の機械、また製造工程のところどころを実際の器具を使っての展示や、歴史などを紹介していました。工場と博物館で仕入れたコンフィの歴史とメロン・コンフィの作り方を紹介します。
フリュイ・コンフィの歴史は非常に古く、紀元前2000年頃、砂糖が普及するずっと前に、ギリシャやエジプト、中国で、ハチミツ漬けのフルーツが食べられていました。プロヴァンスで作るようになったのは中世になってから。この頃、コンフィのような砂糖を大量に使うお菓子は富と権力の象徴として晩餐会では重要な位置を占めていました。南仏はあまり豊かな土地ではなく、クリームやバターを使ったパティスリーよりも、太陽の光をたっぷり浴びたフルーツをハチミツで炊いたり漬けたりしたコンフィズリーやそれを使った菓子が発達しました。この頃からコンフィの基本的な作り方は変わっていません。
コンフィづくりの第1はフルーツ選び。よく熟れていて味と香りのつまった、それでいて実がしっかりとした新鮮なメロンを選び、元の形を残すよう丁寧に皮と種を取り除きます(それぞれに大きさも形も異なり、人の手で剥くため、1つに約15分もかかるらしい)。次に糖度の低い(始めは30%位)、熱いシロップに漬け込みます。数日後フルーツをいったん取り出し、煮詰めなおして糖度の上がった熱いシロップに再び漬け込む、という作業を繰り返します。こうして1回に3%くらいずつ徐々に糖度を上げて糖液を中まで浸み込ませると、フルーツ中の水分が糖液に置き換えられていくのです。最終的には70〜75%くらいの糖度に仕上げます。この徐々にというのがポイントで、一気に糖度を上げてしまうと、周りに濃い糖液の層が出来て中心まで浸み込まなくなったり、強い浸透圧により脱水作用がおこりフルーツがしわしわで固いものになってしまったりします。そして再結晶防止と品質維持のために転化糖を加えてゆっくりとシロップを冷ましていき、さらに1ヶ月間そのまま漬け込んでコンフィを安定させます。その後シロップから引き上げ、エグテという製品はそのまま(周りがベタベタしている。糖度は72%前後)、グラッセという製品は仕上げに糖衣で覆います(周りがべたついていないので箱詰めなどに。糖度は75%前後)。この一連の作業はとても時間がかかり、丸ごとのメロンで3〜4ヶ月もかかるそうです。
これだけ手間暇かけているのでやっぱり高い! たいがいは贈答用か観光客がお土産に買っていくそうですが(たしかにみんな買っていた)、フリュイ・コンフィが1年で一番売れるのがクリスマス。トレーズ・デセール(13のデザートの意)といって、プロヴァンスではクリスマスに13種類のデザートを食べる慣わしがあり、アーモンドやヌガーと並んでフリュイ・コンフィも外せない一品です。
アプトでは毎週土曜に大きな市が立ち、プロヴァンス中の名物が所狭しと並びます。中でもプロヴァンスのフルーツはイキイキしていて大きくておいしそうで、ついつい買ってしまいます。アプトからアヴィニヨンへ向かう道路際にはメロン畑があり、『メロン売ってます!』の看板に惹かれ寄り道を。メロン畑も見せてもらい、香り高いメロンを1.5ユーロでゲット! ホテルへ帰る車中はメロンの香りでいっぱい。味はもう最高。実がしまっていて、味がすごく濃くて…こんなにおいしいメロンが取れるからおいしいコンフィが出来るんだと納得しました。
実際にアプトのフリュイ・コンフィを食べてみると、フルーツそのものの香りや味が残っていて、食感もそれぞれで違うことに驚きました。太陽をたっぷりと浴びたおいしい新鮮なフルーツを使っているからこそ、この味は出せるんだと感じました。お菓子の中の生のフルーツは、味や香りが周りの生地やクリームに流されがちですが、こんなに味のしっかり残っているコンフィならお菓子の中に入れても、その存在がすごく活かされるだろうと思います。確かにすごく甘いけど、以前のただ甘いだけというイメージは払拭できました。中でもメロンのコンフィは見た目も味も大満足!
この旅行でいろいろと買ったコンフィをフランス校の製菓シェフのキャメラ先生に見せたら、「自分では買わないし、コンフィだけでは食べないね」なんていいながらパクパクとメロンとパイナップルのコンフィを平らげました。学生さんたちにもおすそ分けしたけれど、1番食べていたのは間違いなくキャメラ先生でした。
あまったコンフィはアルコール漬けにして、来年のフルーツケーキに使います。間違いなくおいしいはず、今からとっても楽しみです。 |
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