フランスに来て、最初にお菓子をつくって感じた日本との材料の違いは、乳製品です。特にバターはすばらしい芳香があり、濃厚な味わいで口溶けがよく、焼き菓子などに使うと、なんともいえないうまみを感じます。 |
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その中でも特に最良とされるAOC(原産地管理呼称)に認定されているバターが2つあり、1つはエシレのバターで有名なブール・デ・シャラント=ポワトゥ、もう1つはノルマンディー地方のイジニー=シュル=メール村で作るブール・ディジニーです。というわけで今回はノルマンディーを訪れ、バターとバターが主役のお菓子についてご紹介いたします。 |
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まず日本のバターと違う点は、フランスのバターのほとんどが発酵バターであることです。発酵バターとは乳酸菌発酵させたもので、ヨーグルトのようなわずかな酸味があり、香り高いバターです。今回訪れたノルマンディー地方には工場で生産されるものばかりでなく、自家製のバターをつくる農家が多くありました。その農家の人に話を聞くと「工場製のバターが昔ながらの良質な風味を失っているから、農場製のバターの人気が徐々に高まっているんだよ。昔ながらの味を求める人が多くなったからね。」ということでした。食べてみると、やはり香りが違う。いい感じに少しくせのあるこくが、舌に残るように感じました。それに、この時いっしょに食べた買ったばかりのバゲットは、すでに半分になっておりました。本当におしいというのは、そういうものかもしれませんね。 |
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さて、一般にバターの作り方は@クリームの分離、A殺菌、B冷却保存(エージング)、C攪拌(チャーニング)、D水洗、E加塩、F練成(ワーキング)、G包装の段階に大別できます。このうち、農家製のバターは@の分離させたクリームをAの殺菌を省略して8日間「寝かせて」、充分にエージングした後で作ります。このバターは生バター(ブール・クリュ)と呼ばれ、殺菌するとその土地独自の「土壌」が含むバクテリア菌を殺してしまい、その土地が生む「風味」を失わせてしまうのに対して、殺菌をしない生バターは風味が生きているといいます。ただこのバターは日持ちがせず、10〜15日で味が落ちるとのことで、日本でこのバターを食べることは難しいようです。 |
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バターを主役にしたお菓子には焼き菓子が多く、やはりバターそのものの味が残るようなシンプルなものが多いようです。フランス全国的に有名なバターのお菓子のひとつにガレット・ブルトンヌと呼ばれる平たい円形のお菓子があります。日本でよく知られているのは小型の厚焼きですが、こちらでは大小、また厚い薄いもさまざまあります。ブルターニュ地方の最西端にあるポン・タヴァン村のものが特に有名です。 |
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クイニーアマンというお菓子は日本でも一時流行ったブルターニュ地方の郷土菓子です。ブルトン語で「バターのお菓子」という意味で、イーストを使った生地にバターをたっぷり折り込んで、砂糖を手粉代わりに使って作ったものです。店によってパイのようにサクサクしていたり、パンのように中がしっとりしたものもあります。どちらも表面はカリっとカラメリゼされていることと、甘じょっぱい独特の味が共通しています。また、キャラメル・ブール・サレと呼ばれる有塩バター入りのキャラメルがありますが、これもバターの持つ上品な味とほんのり効いた塩味が忘れられないおいしさです。僕は、このキャラメルが日本でも流行りそうな予感がします。ガレットやクイニーアマンのように塩気の効いたフランスのお菓子に対して、日本には塩昆布を添えるぜんざいや、砂糖醤油のおかきなどがあり、甘じょっぱい味を懐かしいと感じ、おいしいと思う人が多いと思うのですが・・・。 |
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話がそれてしまいましたが、ここで紹介したお菓子はいずれも良質のバターなくしては、おいしいものは作れないでしょう。料理においても「良質のバターさえあれば、たとえどんな場所にいてもおいしいフランス料理ができる」とか「バターは他の材料では代用できない大切な材料だ」と言う料理人がたくさんいて、その重要性を唱えています。ノルマンディーで農家の数は減り続けると聞いていますが、豊かな牧草地で草を食べて育った牛から搾った牛乳で作られる、土地の風味を持つ伝統的な良質の旨いバターは、これからも消えることはないはずだと思います。 |
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