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辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。 |
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フランス人は資源を大事にします。公共の場の手洗い場の水はボタンを押すと一定時間だけ供給される仕組みのところがほとんどです。廊下や階段の電灯も一定時間点灯すると自動的に消灯する装置がついています。ですから「シャワーで髪や体を洗うときには、一旦シャワーを止めてから洗いなさい!」と子供の頃から厳しくしつけられるそうです。フランス校の職員の中には牛乳パックや空き缶を濯いだために「水道代を何だと思ってるんだー、1m3で4ユーロもするんだぞ!」と叱られた人もいるようです。しかし、ポロねぎについている土を溜水で洗い流すと「土が落ちないから流水で洗いなさい!」と怒られます。土を落とすのは衛生の面から流水でないといけないのです。個人営業で大きな庭を持っているレストランは草花の水まきに、野菜を洗った水をバケツに貯めておく習慣があるようです。
水道代の話ですが、フランスで「水は1m3(=1000ℓ)で約4ユーロ」そして1世帯1日の平均使用量が150ℓ(フランスの子供向け資料から引用)となると月々の支払いは
150ℓ×30日=4500ℓ=4.5m3 4.5×4ユーロ=18ユーロ
ということになりますね。
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水の軟化装置 |
近年では水の軟化装置のおかげで蛇口をひねってそのままその水を飲めるようになりましたが、それでもボトルに入った水は生活の必需品のようですね。フランスといわず世界中の美食家たちの傍らには、必ずボトル入りの水があるのではないでしょうか。ちなみにこの装置、化学反応で水道水のカルキを除去するのですが、飲み水にするためというより、水道管やボイラーにカルキが溜まって詰まるのを防ぐのが主な目的のようです。
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バドワのボトル各種 |
さて、フランスのスーパーマーケット(以下スーパーと略)には、たくさんのミネラルウォーターが売られています。店によって品揃えは違いますが、ガス入り・ガスなし合わせて10種類前後置いていて、20m程の幅の棚はペットボトルで埋め尽くされています。たくさんのミネラルウォーターの中でも今回は我々日本人にとって馴染みの少ないガス入りの水にスポットを当てましょう。
日本にいる間はガスの入ったフランスの水といえば「ペリエ」しか知りませんでした。しかしフランスのレストランや街角のビストロで食べ歩いていてもガス入りの水を頼んで「ペリエ」を出されたことはありません。スーパーにはたくさん置いてありますし、カフェにもありますが、食事のときには「バドワBADOIT」という水がよく出てきました。あまりにもよく出てくるのでどんなところで採れるのかと気になり調べると、採水地は「サン・ガルミエ」という町で、リヨンから60kmほど離れた場所でした。
ガス入りの水は「いったいどんな具合に湧き出ているのだろう? そしてその水はほんとにシュワシュワしているのだろうか?」という好奇心と共に現地へ向かいました。
サン・ガルミエは山地に挟まれた谷間の町で、名水の出現を予感させる緑豊かな美しい場所という印象を受けました。
バドワの工場内には見学コースがあり、一般に向け公開されています。不定期ですが日時は予め決まっており、予約すれば誰でも見学が出来ます。私も予約をして、参加しました。見学はガイドの方が見学コース内に設置されたパネルを示しながらバドワの歴史について説明するという内容。そのお話を引用すると以下のようになります。
ここの湧き水の存在は、ローマ支配の時代からすでに知られていて、現代に至るまで多くの人が利用してきましたが「オーギュスト・サテュルナン・バドワAuguste Saturnin BADOIT」という人が、この源泉を入手して「バドワ」の名前で商品化してからその名が広く知られるようになりました。ずっと単独の企業でしたが今では大手食品メーカーの傘下に収まっています。そのおかげか、1980年代以降売り上げは急激に上昇し毎年約300万ℓ売り上げているそうです。
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バドワ氏の胸像 |
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バドワの売上変遷 |
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名水のメカニズム 2つの山に挟まれた谷間の地に水は溜まる |
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バドワの水小屋 |
そんなに急激に産出量を増やしたら枯れてしまうのでは?と訊くと「1000年かけてサン・ガルミエの地底に溜まった水です、したがって今汲んでいるのは1000年前の水なのです。すぐにはなくなりません」と自信ありげに答えてくれました。
バドワの源泉はその工場のそばにある小屋の中にあり、一般に開放されていますが、時間の制限があります。
月〜金曜 7:30〜18:30 (冬季は〜17:30まで)
土曜 7:30〜12:00
その小屋では多くの人が空のボトルをケースで何本も持ち込み、水を汲んでいました。見たところ1本汲む毎に後ろの人と交代するのがルールのようでケースで持ってきている人はかなり時間がかかるようでした。
しかし小屋には注意書きが貼ってあり、「水を汲むときには許可証が必要です・・・許可証はサン・ガルミエの住民でなければ取得できません・・・」と書いてありました。本物の「バドワ」はこの街の住民のみがタダで手に入れることが出来るのでした。せっかく空のボトルを用意したのに残念と思ったら、全くダメというわけではなく、ここを訪れた人は誰でも1本だけは入れさせてもらえます。
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バドワの蛇口 |
さて源泉は湧いているのではなく汲み上げているのでした。そして源泉の水は、手洗い場のようにボタンを押さないと水が出てこない仕掛けで管理されていました。そこから汲んだ「バドワ」はシュワシュワしていたかといいますと、炭酸を感じるものの、いつも買って飲んでいるものよりずっとおとなしくやさしい炭酸でした。そうコレこそが本物。商品化しているものはフィルターで不純物をろ過しているので、その過程で天然の炭酸は抜けてしまい、ボトル詰めにする前に炭酸を添加するそうです。市販のガス入りの水はまったく天然そのままというものはなく、抜けた分のガスを加え本来の持ち味を甦らせるか、あるいはもともと持っていた以上のガスを添加することでさらに清涼感をアップさせているのです。ここバドワの工場では瓶入りだけでなくペットボトルも製造しています。ペットボトルはスーパーなどで一般に販売される分で、瓶入りはレストラン用として製造しています。
そしてもう一点紹介したい水は、最近は日本でも知られている「シャテルドンCHATELDON」という炭酸水です。オーベルニュ地方の田舎町、シャテルドン村に源泉があります。
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シャテルドンの道標と シャテルドンのボトル |
1650年にルイ14世は、王の健康を配慮する主治医によりここの水を献上されました。以来、オーベルニュからヴェルサイユまで運ばれるようになり、この水はやがて「太陽王の水」呼ばれるようになりました。年間約100万ℓしか採取しないので希少価値もあり、日本のレストランでは1本3000円の値段をつけている店もあると聞きます。そういったところから日本では「水のドン・ペリ」などというあだ名を付けられているという話を現地の人にすると「本当に!?」みたいな反応でした。
シャテルドンは緑の多い谷間の土地ですがサン・ガルミエよりも小さな谷間でひっそりとした村でした。そして源泉は村外れにある工場の中にしかないのでした。源泉は工場により管理されています。私は工場を訪ねましたが、関係者以外の立ち入りは固くお断りしているとのことでした。
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谷間の地シャテルドンは小さな村 |
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シャテルドンの工場。看板など一切ない
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シャテルドンの工場からあふれる水をいつもこうして汲んでいるおじさん |
しかしそんな私を見た近所の石切工場の人が教えてくれました。「工場から余った水が出てくるところを教えてやるよ」といい、シャテルドンの工場のそばの草むらへ行き、半地下になっている階段を指し、「工場からあふれた水がここから出てくるんだ。俺はいつもこれを飲んでいる」と教えてくれました。とってもありがたい話なのですが、その水からは炭酸を感じることは出来ず、かわりに水道管のさびの味を強烈に感じました。
町へ戻り小さなスーパーに入りました。そこにはケースに詰まれたシャテルドンがたくさん。そして今までフランス中で見た中で一番安く販売していました。価格は1ℓで1.5ユーロ。それでも先述の「バドワ」が6ℓ入で約3ユーロ程度だとすると3倍くらいするので、水としては非常に高価ですね。
日本でよく知られる「ペリエ」は強い炭酸でバチバチくる爽快感が運動後に飲んだりお酒を割ったりするのには適していますが、食事と合わせると刺激が強すぎるようです。バドワとシャテルドンは共通して水の硬度がとても高いのですが、そのせいか、食事中に口の中をザックリ流してくれるように感じます。そして何よりもやさしい炭酸が、次の一口、次の一皿を快く迎える手助けをしているように思えます。その点が多くのレストランで出されている理由でしょうか。
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