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連載コラム とっておきのヨーロッパだより
辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。
魅惑の国、ギリシャの地中海料理
   去年の夏のヴァカンスで、ヨーロッパ屈指の観光地「ギリシャ」を訪れました。神話に触れながらの散策、紺碧のエーゲ海と美しいビーチ、青空に映える純白の街並み・・・。ゆったりとした時間を過ごしながら、食べ歩きもしてきました。その中からギリシャ全土で食されている基本的な料理などをご紹介します。と言っても、食べ物のことだけ知っていてもダメ!その国についても少しは知っておかないといけませんね。ということでギリシャのことを少しだけ勉強しましょう。
   まずは国土から。
   ギリシャはヨーロッパの東南部、バルカン半島の南端にあり、トルコやイタリア、ブルガリアなどと隣接しています。日本の約3分の1の面積なので、あまり大きくはないですね。山と島が多い地形で、島の数は約3300あるそうです。
   続いて文化について。
   公用語はもちろんギリシャ語。アルファベットはギリシャ文字を改良したもので、英語やフランス語などで使用されている多くの単語も古代ギリシャ語からきています。αβΩぐらいなら分かるけど、ζλΨΘになるとハァ〜?って感じ。けど、安心して下さい。英語やイタリア語も通じるし、嬉しいことにフランス語も通じるんです(注:地方によっては通じないところもあります)。なので、どうにかコミュニケーションはとることが出来ました。いうまでもなく古代ギリシャ文明が生まれたところですから、学問や民主主義、演劇、芸術、そしてオリンピックなどの基礎を築いたのもギリシャなのです。

   それではいよいよ、ギリシャ料理について。
   数年前に日本で流行った地中海料理をご存じの方も多いと思います。 それに含まれるのですが、どちらかというと南フランスやイタリアよりもトルコ料理の影響を受けているようです。はるか昔はオスマントルコの支配下に置かれたり強制住民交換もありましたが、なんといっても近隣国なので同じ料理文化が育つのですね。
   特徴はオリーブ油やハーブ、トマトやナスなどの夏野菜、ヨーグルトなどをふんだんに使っていることです。年中通して気候がいいので本当に美味しい野菜が育ち、エーゲ海では新鮮な魚介類が獲れます。そして降り注ぐ太陽の下で育ったオリーブから上質なオリーブ油も作っています。 年間消費量は世界一で、一人当たり約20リットルになるそうなのでビックリ。
   続いてお店について。
   フランスのビストロに当たるのが【タベルナταβερνα】といいます。日本では食堂にあたり、伝統的な料理が食べられるのでお勧めだし値段もお手頃。海岸沿いに軒を連ねている場所もありますが、そこは観光客相手。街なかの地元の人達が集まってそうなお店がいいですね。
   そしてレストランが【エスティアトーリオεστιατóρειο】です。ここはちゃんとテーブルクロスが敷かれており、メニューもそれなりに揃えてあります。
   やっぱり旅に出たら、その土地の料理を堪能したいですよね。それならタベルナで雰囲気も味わいながら食事をするのがベスト。そしてギリシャの人々は食べることが大好き。お店によっては伝統的なギリシャ民謡やブズキという民族楽器の生演奏を聞きながら、深夜まで楽しく踊り続けるというのも珍しくはありません。
   それではここからはメニュー紹介です。
   どこのタベルナにも必ず揃えている伝統料理ですが、店や地方によっては多少レシピが違うものもあります。自分で色んな店を食べ歩いて、好きな味を探すのが一番かもしれません。

ドルマーデス 
   挽き肉とお米などのファルスをブドウやキャベツの葉でくるみ、酸味の効いた煮汁で蒸し煮にしたもの。ドルマというのが「詰められた、詰めたもの」を意味します。各地方によって詰め物や味、形などが違うそうですが、円筒形が一般的です。北部ギリシャでは「armia アルミア」という乳酸発酵したキャベツの葉で作ることもあるそうです。歴史は古く、オスマン朝以前の文献にも残っており、現代のロールキャベツの原型かもしれませんね。熱くても冷たくても美味しく、缶詰めでも売られています。

タベルナで出てきたドルマーデス   おみやげに買った缶詰ドルマーデス

タベルナで出てきたドルマーデス

 

おみやげに買った缶詰ドルマーデス


タラモサラタ 
   日本でもお馴染みだと思います。日本ではたらこを使いますが、ギリシャではボラやコイの卵を使って作ります。ほぐした塩漬けの魚卵、じゃが芋のピュレ、玉ねぎのみじん切り、オリーブ油、レモン汁を和えたものです。ルセットによっては水でふやかしたパンも入るとか。

トマーテス・イエミステス 
   トマトの中身をくり抜いて、肉やお米を詰めてオーブンで焼いたもの。他にズッキーニやナスなども同様に調理されていました。地中海料理の代表的一皿です。

タラモサラタ   トマーテス・イエミステス

タラモサラタ

 

トマーテス・イエミステス



ムサカ 
   ナスと挽き肉(ミートソース)、ベシャメルソースを数段重ねて、オーブンで焼いた料理。層の間に油で揚げたじゃが芋やピュレが入ることもあります。アラブ料理の影響を受けており、東地中海ではポピュラーです。元々はナスと挽き肉を焼いただけのものでしたが、ベシャメルソースをかけるようになったのは20世紀の初めだそうです。

スヴラキ 
   羊や牛肉、魚の切り身や海老を「スヴラ=串」に刺して、炭火で焼いたものです。ギリシャ風バーベキューといった感じでしょうか。本来は串に刺した子羊の丸焼きのことなのですが、今では串焼き料理の総称です。レストラン街では店のショーケースに色んなバリエーションのスヴラキを並べており、お客さんが選んでいる姿をよく見かけます。

ムサカ   スヴラキ

ムサカ

 

スヴラキ


ザズィーキ

ザズィーキ

ギーロ 
   ご存じドネルケバブです。トルコ料理の影響でしょうか、街のあちらこちらで売っています。フランス同様、ファーストフードとして定着していますね。

ザズィーキ 
   ヨーグルトに胡瓜、にんにく、オリーブ油を混ぜたものです。ソースやディップとして扱われ、パンやスヴラギに付けて食べると一段と美味しくなります。上質のオリーブ油が味の決め手ですね。

フェータ 
   ヤギや羊のミルクから作られる圧縮タイプのチーズです。保存するために食塩水に漬けているので、発酵は進みませんが塩味が利いています。今までドイツやデンマーク産のフェータもありましたが、2007年10月15日以降はギリシャ以外のフェータは名称変更をして売らなければいけなくなりました。これで日本でも安心してギリシャのフェータを食べることが出来ます。そのまま食べることもありますが、料理としてはギリシャ風サラダや【サガナーキσαγανακι】といってフェータをオリーブ油で焼く、または油で揚げたりしたものがあります。写真はシンプルにレモンだけを添えてありますが、トマトを加えて軽く煮込んだものや、魚介類が入ったものもあります。

ギリシャ風サラダ   サガナーキ

ギリシャ風サラダ

 

サガナーキ


「ミトス」ビール

「ミトス」ビール

ビーラ 
   ビールのことです。写真は「Mythos ミトス」というギリシャを代表するビールで“神話”という意味。1997年5月にギリシャのテッサロニキで、初めてギリシャのビールとして生産されるようになりました。アルコール分5%、淡い麦色をしており苦味が程よく残ります。

クラシ 
   ワインのことです。ギリシャワインの歴史はとても古く、紀元前5000年頃にはオリエントからギリシャに伝えられ、技術革新や品種改良が行われたそうです。ギリシャ全土において詩人、哲学者、彫刻家などの作品や考古学上の発見を通じてもワイン製造について語られています。ヨーロッパのワイン発祥の地はギリシャなんですね。
   ぶどうの品種はギリシャ固有のもので約300種あるそうです。アシルティコ、コツィファリなどなど…。覚えるのが大変そうですが、現在では主に30前後の品種から作られています。
   そして、1981年にEUにより以下の3つのカテゴリーの分類が制定されました。
   O.P.A.P. ・・・ フランスでいうA.O.C.(原産地管理呼称)
   O.P.E. ・・・ 甘口あるいはデザートワインやマヴロダフネという品種から作られるもの。
   テーブルワイン ・・・ さらに下記の3つに分かれます。
トピコス・イノス ⇒ ヴァン・ド・ペイ(地酒)
エピトラペジオス ⇒ 自己ラベルワイン
レツィーナ ⇒ ギリシャのみで作られるトラディショナル・アペラシオン
                  (伝統的呼称)
   クルタキスやブターリといった大手ワイナリーが上質でリーズナブルなワインを大量生産するようになったので、日本でも知られるようになり始めました。

レツィーナ

レツィーナ

レツィーナ 
   松ヤニの香りのついた白ワイン。少し黄色っぽくて透明感があり、アルコールをストレートに感じます。松ヤニの味は想像できないかもしれませんが、ジンに近いと思います。はるか昔、アンフォラと呼ばれる壺や山羊の皮袋にワインを入れ、粘着力のある松ヤニで栓をしていたそうですが、自然に溶け出してワインに香りがついたそうです。現在では白ワインと同じ製造過程の途中で松ヤニを加えて作られており、加える松ヤニの量は1ヘクトリットル当たり1kg以下とされています。テーブルワインのカテゴリーに含まれ、ギリシャだけに生産が認められているため、トラディショナル・アペラシオン(伝統的呼称)を持っています。

ウゾと氷水

ウゾと氷水

ウゾ 
   ギリシャを代表するリキュールで食前酒として飲まれており、ウゾ専門のバーも見かけることがありました。19世紀のオスマントルコからの独立後、レスボス島を中心に蒸留が行われたため発祥の地とされており、1932年からは銅製の蒸留器を使用した生産方法となっています。ブドウの搾りかすから造られ、特有の香りはアニスを加えているからです。必ずと言っていいほどコップ1杯の水(または氷)と共に提供され、水で割ると白く濁るのが特徴です。ウゾを飲みながら前菜をつまむのが幸せですが、アルコール度数は40度前後あるので飲みすぎには注意して下さいね。

ギリシャコーヒー「エリニコ」の道具。片手鍋に水、砂糖、コーヒーを入れて、手前のレードルや泡立て器でかき混ぜます。

ギリシャコーヒー「エリニコ」の道具。
片手鍋に水、砂糖、コーヒーを入れて、手前のレードルや泡立て器でかき混ぜます。

エリニコ 
   ギリシャコーヒーのことで、入れ方はトルココーヒーと同じです。まずは片手鍋に人数分の水と砂糖を入れて火にかけます。続いてコーヒー豆(一人前山盛り一杯)を加えてゆっくりかき混ぜます。そして、沸騰したら火を止めてカップに注いで終わり。ドロッとした状態で提供されますが、コーヒー豆が沈むのをしばらく待ってから上澄みを飲んで下さい。

   初級編いかがでしたでしょうか? まだまだギリシャには知らないことが一杯あります。もう一度行けることが出来たら、今度は中級編としてご紹介したいと思います。その前にギリシャ語を勉強しなければ・・・。
   さあ、美しいエーゲ海と島々が誘っていますよ〜。夏のヴァカンスはギリシャで決まりですね。


 

コラム担当

西洋料理 助教授
人物 小池 浩司
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