フランス料理にはバターだけでなく、植物油も必要不可欠です。リヨンの郊外にある辻調グループ校フランス校の実習でも例外ではありません。オリーヴ油、ひまわり油などを使って肉や魚を焼いたり、ぶどうの種油を使ってソース・ヴィネグレットを作ったり。また、魚のマリネ、肉のソース、サラダやチーズの香りづけにくるみ油、はしばみ油などを最近はよく使っています。この油、何の気なしに使っていたけどすごく香りがいい。どこで、どうやって作っているのかとラベルを見ると69430 BEAUJEU FRANCE(ボージュー・フランス)と書いてあるではありませんか。フランス校の郵便番号が69400、同じローヌ県で売っているのかと、エメ・ナレ先生に聞いたところ、「学校から30分位のところにあるよ。売っているだけじゃなくて作っているんだ」と教えてくれました。早速見学の予約をお願いすると快く承諾してくれました。 |
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ボージューを地図で探してみるとフランス校のあるリエルグ村から北に28km、こんな近くにあったとは。車で走ること30分、ボージョレーワインの10地区のクリュのひとつブルイイを越え、ボージューに入った町の一番奥に今日見学する『HUILERIE BEAUJOLAISE JEAN-MARC MONTEGOTTERO』がある。ここでの社長のジャン=マルク・モンテゴテロ氏(以下マルク氏)と材料の買い付けやマーケティングを担当しているMIREILLE ARTHAUD(以下ミレーユさん)が出迎えてくれた。 |
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この店はマルク氏のご両親が1981年に古い金物店を買いとったもの。買ってから裏庭に19世紀の油工房が見つかり、息子のマルク氏は当時大学生で農業を勉強していたため、油の工房に興味を持ち、そこにあった100年前の石臼をよみがえらせ、さらに6年かかって油作りを勉強しました。そして、現代的な工場生産の油ではなく、昔ながらの方法で作る上質な油にこだわり、独自の製油法を完成させたそうです。 |
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当初は農家からくるみ、はしばみを持ってきてもらい、それを油にして農家に返すという仕事をしていましたが、1987年から材料を購入して本格的に作り出し、現在は12種類の油を作っています。松の実、アーモンド、ピスタチオ、ペカンナッツ、くるみ、はしばみ、ピーナッツ、アルガンの種、けしの実、アブラナの種、菜種(セイヨウアブラナ)、ゴマの油です。アブラナの種の油は50年間作られていなかったものを、シャンパーニュ地方ラングル高原の農学者によってよみがえっためずらしい油だそうです。アルガンはモロッコの南西部、サハラ砂漠の西端、灼熱の太陽と渇いた大地に驚異的な生命力で生育するアルガンの木の実の種子を油にしたもの。全く知らなかった油があって驚き、ワクワク感がこみ上げてきました。 |
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早速マルク氏が工場を案内してくれました。訪れた日は土曜日で、油を搾っているところしか見ることができなかったのが残念でしたが、丁寧に説明をしてくれました。ここではくるみ油の作り方を説明します。 |
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材料: まずはよい材料の調達。フランスのくるみ産地ドフィーネ地方とペリゴール地方産のくるみを選んでいる。他の材料もフランス産が多いが、質のよい材料は外国産も用いている。産地については別表を参照。 |
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ペースト状にする: くるみは殻や皮などを取り除き、細かく砕く専用の機械にかける。「やわらかいくるみやはしばみなどは石臼は使わないんだ。機械で十分にペースト状にできるからね。でも固い種実は石臼を使わないとペースト状にはならない。そして、今日はくるみ油を作ると決めたらそれ以外の油は作らない。また入荷したくるみをすべて油にするまで、毎日同じ油を作る。すべて油にすれば大掃除をして、次の原料を油にしていくんだ」とマルク氏。1日に約100kgから、多い時で600kgの原料を油にする。入荷した原料の量によって作る量が変わるそうだ。ローストして作る油(アーモンド、菜種、ゴマ)は前もって煎ってからペースト状にする。
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加熱する:
ペースト状にした材料を20kgずつ加熱する。加熱といっても煎ったりするわけでなく、少量の水を加えて煮るように温める。「この火を入れるのが非常に重要なんだ。油に職人の個性が出る作業で、私の場合、鋳物の分厚い窯を使い、手と機械を使って混ぜながら底が焦げ付かないようにデリケートに扱うんだ」と、マルク氏は言う。加熱することによって風味、香りが増し、油が表面に浮いてくる。加熱時間は20分から45分と材料によって異なるが、60℃以下に温度を抑えなくてはならない。 |
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圧搾する: すぐに圧搾する機械にかける。ここでの注意しは押しつぶしすぎないということ。いい油を作るには、なるべく不純物を抽出しないようにする。「この搾りかすを見てごらん。断面がきれいで均一な色をしているだろう。均一に火の通った証拠なんだ」とマルク氏。残った搾りかすは、お菓子などに使う粉を作っている(菓子用のほか、ものによっては飼料、釣り餌などに利用)。油を1リットルの作るのに、くるみを2kg使う。科学的な薬品等は使わないのかという質問に、「ラベルにVIERGE(ヴィエルジュ。ヴァージンの意)と書いてあるだろう。一切科学的な薬品を使わず、原料をそのまま搾った油だけに表記できるんだ。」
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ろ過: ろ過をする機械に通してタンクに入れる。「VIERGEと表記するためには、ここで必ず紙を使って漉さなければいけないんだ。それをタンクに入れ、不純物を沈殿させるために3日から4日その状態で置き、最後にもう一度紙を使ってろ過をするんだ。」そして最後に瓶詰する。
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見学が終了すると、ミレーユさんが油を並べて待っていました。なんと油のデギュスタション。オリーブ油では経験がありますが、いろんな種類の油の味比べは初めての体験でした。
丹念に材料を選び、時間を惜しまず丁寧に作った油。それぞれ香り、味がすばらしく仕上がっていました。さすが、CONCOURS GENERAL AGRICOLE
DE PARIS(1870年からパリで行われている家畜と農産物のコンクール)で2002年、くるみ油で金賞をとったのもうなずけます。味見の仕方は、まずナッツ類から行い、味の薄いものから徐々に強いものへ。松の実の油から始まり、アーモンド、ピスタチオ、ペカンナッツ、くるみ、はしばみ、ピーナッツの順で行いました。次に種実類で、アブラナの種、けしの実、アルガン、菜種(セイヨウアブラナ)、ゴマの順。中でもアブラナの種油は、キャベツやカブの味がして、ピリリと辛いのには本当に驚きました。それぞれの油に合う、食材、料理も紹介してくれました。(表参照)
香り高い油を作ることにこだわって、情熱を注いでいる人がこんな身近にいたとは。自分の油をぜひ味わってもらいたいという熱意にも感動しました。フランスにはまだまだたくさんの人が信念を持ってすばらしい物を作っているようです。またそういう人に出会うために、フランス中を駆け巡りたいと思った日でありました。 |
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原料 |
1リットルの油に必要な量 |
産地 |
特徴や相性 |
松の実 |
2kg |
スペイン、中国 |
シャンピニョンの香り。甲殻類のスープの香りづけに。 |
アーモンド |
2.5kg |
季節に応じ、スペイン、アメリカ、フランス:プロヴァンス |
アーモンドの甘い香りが特徴。サーモンマリネの香りづけや、帆立貝のポワレの仕上げに。 |
ピスタチオ |
2.7kg |
イラン |
香り、味が口の中に長い間残るのが特徴。フランボワーズ酢とのドレッシングで、アボカドやエビのカクテルサラダに。バルサミコ酢とのドレッシングで、アンディーブとスモークサーモンのサラダに。 |
ペカンナッツ |
2kg |
アメリカ、北メキシコ |
くるみとアーモンドをあわせた香り。米のサラダの香りづけに。 |
くるみ |
2kg |
フランス:ドフィーネ地方、ペリゴール地方 |
香りがすばらしく、免疫系強化、脂肪代謝や皮膚の再生を促し、ホルモン収支を正常にする働きがある。アンディーブ、シコレ・フリゼ、タンポポの葉のサラダのドレッシングとして。火を通したジャガイモ、インゲン豆、レンズ豆の香りづけに。 |
はしばみ |
2.2kg |
フランス:ロット県、ガロンヌ県 |
くるみほど色は濃くないが、旨味、香りがバランスよく、不飽和脂肪酸のオレイン酸を多く含有。すべてのサラダのドレッシングとして。加熱したジャガイモ、野菜、魚にバターをのせる感覚で。山羊のチーズを焼いた上に香りづけとして。 |
ピーナッツ (ロースト) |
3kg |
南アメリカ、中国 |
コクのあるピーナツバターの香り。トマトサラダのドレッシングとして。チーズを使った料理の香りづけに。 |
アブラナの種Navette (ナヴェット) |
3.2kg |
フランス:マルヌ県からコート・ドール県の間 |
菜種油によく似ている。キャベツ、カブの風味がするのが特徴。野菜のスープ、ポトフ、クリュディテに。 |
けしの実 |
5〜6kg |
フランス:ピカルディ地方 |
フローラルの香り。サラダ菜のサラダ、けしの実を使ったパン、チーズの上に香りづけとして。 |
アルガンの種子 |
2.6kg |
モロッコ |
ジビエの肉の香り。ビタミンEを豊富に含み、オレイン酸とリノール酸のバランスがよい。ピーマンのグリエのサラダ、ジビエの肉を使ったテーリーヌのサラダに。 |
菜種(セイヨウアブラナ) (ロースト) |
3kg |
フランス:アン県 |
キャベツの風味。ジャガイモ、ビーツのサラダやリヨン名物『セルヴェル・ド・カニュ』の風味付けに。 |
ゴマ (ロースト) |
2.6kg |
ブルキナ・ファソ、マリ共和国 |
日本人にはなじみのある油。オリエンタルな風味に仕上げたい料理に。 |
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