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辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。 |
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“パスティス”それは私がこよなく愛するお酒の名前です。最近では日本でも珍しくなくなったとはいえまだまだ知らない人も多いでしょう。今回はこの“パスティス”を紹介します。
まず、パスティスを知るためにはパスティスの元となったアブサン(absintheアプサント)というお酒を知る必要があります。
アブサンとは
アブサンは、18世紀にフランスの医師ピエール・オルディネールがスイスでニガヨモギの群生地を見つけ、ニガヨモギを主成分とした薬用酒として開発、販売されました。薬理効果としては、抗炎症作用、解熱作用、鎮静作用などです。
その後、1797年にアンリ・ルイ・ペルノー(後にペルノー・フィス社を興す)にレシピが売却され、リキュールとして商品化され、1840年頃からフランスで大ブームとなりました。アルコール度数は高く60〜75度、主成分はニガヨモギですが、風味付けにアニスを始め、10種類以上の香草、薬草が加えられました。
しかし、ニガヨモギの香味成分ツヨンが向精神作用を引き起こすことが19世紀に判明しました。長期飲用することにより、幻覚や妄想、精神錯乱などを伴う中毒症状が問題となり、1915年、アブサンの製造、流通、販売が禁止されました。
その後、1981年にWHOがツヨンの残存許容量を中毒に影響しない数値でニガヨモギのリキュールへの使用を承認しました。2005年3月1日には、アブサンの製造が正式に復活しました。
パスティスの誕生
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手前からスターアニス、リコリス、フェンネル |
製造禁止になったアブサンの代替品としてポール・リカールによってアブサンの製法を改良して生み出されたのがパスティスです。原料は、スターアニス、フェンネル、リコリス(フランス語ではレグリース)などで、これらをアルコール度数96度の中性スピリッツに浸漬して蒸留します。それに、水、キャラメルを加えてアルコール度数45度のリキュールとして製品化したのがRICARD(リカール)です。
その後、ペルノー社など、アブサン製造元であった多くのメーカーで製造されるようになりました。現在、RICARDと同様にパスティスの代名詞的存在なのがPERNOD(ペルノー)です。しかし、ペルノーはEUの規定によると、原料にリコリスを使用していないためパスティスではなく、アニス酒ということになります。もう1つ、日本ではあまり知られてはいませんが51(サンカンテアン)というパスティスもフランスでは有名です。また、マルセイユで作られるパスティスで、アニスの主成分アネトールが1リットル当たり2グラム以上含有されるものにはPASTIS DE MARSEILLE(パスティス・ド・マルセイユ)と表示することが認められます。
パスティスの面白い性質として、水を加えると白く濁ります。これは、水を加えたことによってアルコール濃度が低下し、不安定になった精油成分がその周りに膜を作り光を乱反射させるため、白く濁って見えます。
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左からペルノー、リカール、51 |
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左はパスティス。これに水を加えると右のように白濁する |
パスティス発祥の地マルセイユへ
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マルセイユの港 |
パスティス好きとしてはパスティス発祥の地マルセイユに行かないわけにはいきません。いざマルセイユへ。私の住むリヨンから南へ車で約4時間、どこまでも広がる青い空、痛いくらいの日差しを感じ、陽気な漁師たちの歌声が聞こえてきました。フランス第2の都市、マルセイユに到着です。
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ラ・メゾン・デュ・パスティス |
早速、マルセイユにあるパスティス専門店に行ってみました。その名もLa Maison du PASTIS(ラ・メゾン・デュ・パスティス)。95種類ものパスティスやアブサンが売られていました。自家製のパスティスも量り売りされているほどです。自家製のパスティスの中にbleu(青色)のパスティスもありました。なぜ青い色をしてるのか、理由を聞いてみたら、ただ色をつけたかっただけ、フランス人の遊び心だと笑顔で答えてくれました。
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店内に並ぶパスティスやアブサン |
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量り売りしている自家製パスティス |
フランス人、特にマルセイユの人たちはパスティスが大好きです。お店の方に話を聞くと、アニス独特の香りと味が清涼感を感じさせ、熱い夏さっぱりと渇きを癒してくれるため、マルセイユの夏にパスティスは欠かせないとか。また、香り付けに使用しているリコリスは、乾燥させた甘草の根ですが、フランス人の大好きな風味で、子供の頃からよくおやつ代わりにしがんでいるそうです。
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左からトマト、モレスク、ペロケ |
パスティスは普通、水割りやソーダ割りでアペリティフ(食前酒)として飲みますが、ほかに地元マルセイユの人たちに愛されている飲み方があります。ベースは水割りですが、
- グレナデンシロップを加える「トマト」
- アーモンドのリキュール(シロップでも可)を加える「モレスク」
- ミントのリキュール(シロップでも可)を加える「ペロケ」
という3つの飲み方です。普通、水割りで飲む場合は、パスティス1に対して水は5。もちろん、ストレートやロックでも飲みます。また、アペリティフとしてレストランなどで飲むだけでなく、カフェで時間に関係なく飲みます。どれだけフランス人に愛されているかがわかりますね。もちろん、パスティスを好まないフランス人もいます。
お店の方が、これが一番お勧めだよと言って出してくれたのが、Jean Boyer(ジャン・ボワイエ)のパスティスです。それほど大きなメーカーではありませんが、昔ながらの製法で時間をかけ丁寧に作っています。
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ジャン・ボワイエの
パスティス |
さまざまな香草や香辛料をスピリッツに浸漬して香りを移し、水を加えてから自然に沈澱させて澄ませる方法で作られています。香草や香辛料の種類や組み合わせでいろんな種類のパスティスがあり、中には80種類もの香草、香辛料を浸漬して作られるパスティスもあるそうです。
この製法はフランスでもここジャン・ボワイエでしか行われていません。そして、このパスティスはロンドンで開催された世界ワイン・スピリッツコンクールで1998、99年と2年連続で金賞を取りました。今回、味見をしたのは、田舎風パスティスPastis de Campagne(パスティス・ド・カンパーニュ)ですが、香りも味もさすが時間をかけて作っているだけあって、全ての香辛料、香草の味、香りがまろやかにまとまっていてバランスよく嫌味がありません。甘すぎず、すっきり飲める感じです。パスティスが好きな人には一度試してほしい一本です。
パスティス工場を見学したかったのですが、お店の方に聞くと、どこのメーカーも見学するのは難しいということでした。残念・・・。
お店を出て、私もカフェでパスティスを頼みテラスで一杯。なんとも気持がいい。マルセイユでパスティスが生まれたのもうなずけます。この暑い夏に清涼感のあるパスティスがたまらなく合うんですね。港を眺めながらパスティスを飲んで、マルセイユを全身で感じていると、隣のレストランからおいしそうな香りがマルセイユの風に乗って私に届きました。それはマルセイユの名物料理、Bouillabaisse(ブイヤベース)の香りでした。
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二人前のブイヤベース。魚に突き刺さっているのはフェンネル |
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ブイヤベースのスープ。パンにのっているのはアイヨリ |
この料理を知っている人も多いと思いますが、ご存知でしたか? このブイヤベースにはパスティスが欠かせません。料理の香り付けにフェンネルなどの香草を使用するため、同じ香りを持つパスティスを香りの補いとして使用します。ブイヤベースは濃厚な魚のスープなのに、フェンネルやパスティスのさわやかな香りがしつこさを感じさせず、何杯でも食べたくなるおいしさです。さすがパスティス。
どうですか、パスティスの魅力が伝わりましたか? 今まで飲んだことのない人はぜひ1度飲んでみてください。でも正直に言いますと、初めてパスティスを口にした時、おいしいと思う人は少ないかもしれません。日本人には馴染みのないフェンネルやアニスの風味は、受け入れにくいものだと思います。でも2回、3回と飲み続けているうちに、不思議と心地のいいものに変わっていき、好きになるでしょう。
今、製造されているパスティスやアブサンに、中毒性はありませんが、飲みすぎには注意してくださいね。私も含めてですけど・・・。
それでは、パスティスに乾杯。
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