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連載コラム とっておきのヨーロッパだより
辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。
愛され続けるりんごのお菓子 〜タルト・タタン〜(2)
〜行って来ました!〜
   9月13・14日の2日にわたり行われたタルト・タタン定期市(ドゥジエーム・フォワール・オ・ペイ・ド・ラ・タルト・タタン12ème FOIRE AU PAY DE LA TARTE TATIN)。車を降りる時に感じた少し冷たい秋の風やよく晴れた抜けるような青空が雰囲気づくりに一役買っています。以前訪れた時と打って変わってこの日は町中人であふれていました。移動遊園地も来ており、とても活気あふれる雰囲気です。


ディスプレイが面白い   チーズ屋   ソーセージ・コンクールで多数受賞している名店

ディスプレイが面白い

 

チーズ屋

 

ソーセージ・コンクールで
多数受賞している名店


〜あ!見つけた!〜
   会場に入り、奥へ進んでいくとなんと!資料でしか見たことがないLichonneux(リショヌー)に出会ったのです。リショヌーとは正式名称をLa CONFRERIE DES LICHONNEUX DE TARTE TATIN (ラ・コンフレリー・デ・リショヌー・ドゥ・タルト・タタン) と言います。
   以下資料によると:リショヌーとは『タルト・タタンを守る協会』で、ソローニュ地方でタルト・タタンの消費を促進する活動を続けており、主な美食関係の見本市すべてに参加する。毎年春にタルト・タタンの試食会を行い、原点となったルセットを祝し、尊び、保存に努めている。会員の正装はかつての農民の装いとする:青い仕事着、赤いスカーフ、黒い帽子、100年ほど前までは木靴をはいていた。
   なんと彼らはこの会場でタルト・タタンの実演をしていました。もう本当に驚きました!! なぜなら資料に書いてある通りの格好で、私の目の前にいるのですから。協会の皆さんはタルト・タタンが大好きでとても親切に色々なことを教えてくれました。リショヌーの会長であるジョエルさんは笑顔で話しかけてくださり、『今日は本当に忙しい。でも年に一度の祭りだからね!』とウインクするのです。次から次へ訪れる人々にタルト・タタンの説明をゆっくり、優しく説明する姿はとても温かく、親切でした。


観光案内所においてあったリショヌーの写真   リショヌーのみなさん   リショヌーの会員を示す陶器のメダル

観光案内所においてあった
リショヌーの写真

 

リショヌーのみなさん

 

リショヌーの会員を示す
陶器のメダル


リショヌーが実演していたタルト・タタンの作り方
 ・約25cmのマンケ型に溶かしバターを80g入れる。
 ・砂糖をその上から80g入れる。
 ・皮と芯を取り除き4等分にしたりんご(品種はゴールデン:重さにして約1.6kg分)をきれいに並べていく。
 ・200℃のオーブンに入れて30分焼く。
 ・余分な水分を抜き、りんごの底に焼き色をつけるため、オーブンから取り出してプラック(鉄板。下からガスで熱している)の上に30分おく。ときどき型をゆすってりんごが型につかないようにし、底の焼き色を確認する。
 ・型より一回り大きく伸ばしておいたブリゼ生地をりんごの上にかぶせ、再びオーブンに入れて約30分焼く。
 ・粗熱を取り、ひっくり返したら出来上がり。

タルト・タタンをゆすっているところ   型の底についているりんごの焼き色を確認している様子   試食用に切り分ける直前

タルト・タタンを
ゆすっているところ

 

型の底についているりんごの
焼き色を確認している様子

 

試食用に切り分ける直前


   学校で作る場合、りんごに火が入り、型に隙間ができたらりんごを追加して作っていたのですが、リショヌーの実演ではりんごを追加せず、また、初めに入れたりんごの位置を途中で変えないのです。するのは型をゆするだけ。できあがったタルト・タタンはあめ色のつやを帯びており、中心部にはほんのり白い部分が残っています。作り立てのタルト・タタンは温かく、りんごの酸味と甘味のバランスは最高! 試食分に用意されたものを私は3つも食べてしまいました!! だって美味しいんですもの!

〜会場で見た面白いもの〜
クレープ・タルト・タタンを作っているところ

クレープ・タルト・タタンを
作っているところ

   まずはショーソン・ポム・タタン。一般的に知られているのはショーソン・オ・ポムといってパイ生地の中にりんごのコンポートが入っているものですが、これはタルト・タタンに使われる、キャラメリゼされたりんごがぎっしり詰まったもの。リンゴには若干の酸味が残っていて、また、生地の表面にはグラニュー糖がまぶしてあり、ザクザクした食感がとても美味しいです。

   そして次にクレープ・タルト・タタン。その名の通り、クレープ生地でタルト・タタンに使われるキャラメリゼされたりんごを巻いた温かいデセールです。表面を焼き直してあるので、クレープ生地はパリッと、中のりんごは温かく柔らかい。ショーソン・タタンに比べると、酸味よりもむしろ、キャラメルの甘苦さを強く感じました。
   この2種類は同じお店が出しているので使っているりんごは同じはずです。それに、食べる温度が違うので(それとも食い意地が張っているから?)、両方ともあっという間になくなってしまいました。

ショーソン・ポム・タタン   クレープ・タルト・タタン

ショーソン・ポム・タタン

 

クレープ・タルト・タタン


   次に発見したのがりんごのベーニェ(揚げ菓子)。これはりんごの輪切りスライス(芯をくりぬいて2mmくらいに切ったもの)を発酵生地にぎゅっと押しつけるように成形されている。そうすると中央の芯をくりぬいた部分から生地が押し出されてりんごが埋まった形になると言うわけです。なんとも面白いのですが、いざ買ってみると・・・おや? 揚げ上がりにりんごだけがめくれて外れてしまいます。それでも店の主人は平然とした顔で『はい! 2ユーロだよ』と言うのです。買って行く人も全く気にしていない様子。とにかく揚げたてが一番!ということで私もモグモグ・・・多少油くさいですが今日は天気もいいし、ここはフランス! 外での祭りとなればこれがノーマルだな、と妙に納得。口の端をグラニュー糖で汚しながら食べ続けます^^

ベーニェの成形。これを油で揚げた後、グラニュー糖をまぶす   買ったベーニェ。アツアツをいただきます!

ベーニェの成形。これを油で揚げた後、
グラニュー糖をまぶす

 

買ったベーニェ。
アツアツをいただきます!


   ところでタルト・タタンを売っている店でりんごの品種をたずねてみたのですが、答えはゴールデンかガラの2種類のみ。理由は、美味しいから、とか昔からこれで作っているから、だそう。でもこれ以上の理由はやはりないので納得。キャラメルのしみこみ具合や使っている生地の種類が違いますが、どの店も自信満々に売っています。そこには笑顔があり、注文をするだけではなく、やりとりを楽しむ会話があります。そして皆、根っから陽気で心地いい人達ばかりなのです。

   よく晴れた日曜日の午後、ラモット=ブヴロンで過ごすこのひと時は忘れられない時間になりそうです。



 

コラム担当

辻調グループ校 製菓部
人物 長谷川 陽
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