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連載コラム とっておきのヨーロッパだより
辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。
なぜこんなに美味しい? 自然派ワイン
ラピエールさん

ラピエールさん

  ヴァン・ナチュレル(自然派ワイン)は、星つきレストランのソムリエも目の色を変えて熱弁してくれるほど今、フランスでも注目を浴びています。それもそのはず、初めてそのワインを口にした瞬間から心地よい気分になり、私は一口で虜になってしまいましたそのときの感動は今も忘れられません。私の出会いとなったヴァン・ナチュレルは、フランス校(シャトー・ド・レクレール)のあるボジョレー地方のワインですが、その中でも高品質のワインを産む地域としてAOCのお墨付きを受けた土地、モルゴンという村でマルセル・ラピエールさんが醸造しているワインでした。(ボジョレーにはAOCで認められた村が10地区あります。)
  早速、醸造家マルセル・ラピエールさんにお願いして話を聞かせてもらうことにしました。
  まず、ヴァン・ナチュレルというには、一般にぶどうを有機農法で栽培(ビオロジー)するか、あるいはさらに天体がぶどうの木にもたらす影響を考慮して栽培(ビオディナミ)しなくてはなりません。ラピエールさんはビオロジーとビオディナミの両方の畑を持っています。
  そして、そのぶどうを秋に収穫し、ワイン造りが始まります。ボジョレーではマセラシヨン・カルボニックという、皮も柄も付いた房ごとの状態でぶどうを密閉タンクの中に入れ、ぶどう自身の重みで果実が潰れ果汁が流れ出し、自然にアルコール発酵するのを待ってワインを造る方法をとります。
  ラピエールさんの所ではその後、必ず果汁を樽に入れ替えてさらに発酵させ、およそ半年から1年寝かせて飲み頃になってから瓶詰めするそうです。これらの作業は醸造家によってさまざまです。
14℃以下で保存、と表示したラベル

14℃以下で保存、と表示したラベル

  この瓶詰め時に一般的に、保存料として添加するのが酸化防止剤(亜硫酸)です。ワインは熱に弱く、酸化防止剤を使用しない場合、11〜14℃での保存が絶対になります。酸化防止剤はワインを熱から守り、酸化を防いでくれます。また、不純物を取り除きワインをより透明にするためにフィルターにかけます。ラピエールさんの所では基本的にそれらを使用しません。酸化防止剤を使用しないワインは保存に気を使わなくてはなりませんが、それさえしっかり守れば使用しなくてもワインは生き続け、より美味しくなるとも言われているのです。瓶詰め後、数十年寝かせたものも飲ませていただきましたが、なんともよい香りに、口に入れたときの心地よさは先日飲んだものよりもさらなる深みのあるものでした。自然の力を感じ、うっとりしてしまいます。
  ヴァン・ナチュレルを語る上で重要な地域にロワール川流域があります。そこには、どこに行っても必ず話題になる方がいます。ジャン=ピエール・ロビノさんです。ラピエールさんも一目置くロビノさんにラピエールさんの所で会うことができ、ロビノさんの所へ伺って畑を案内していただきました。
通常の畑   通常の畑(左の写真)と同じ時期の自然派の畑。雑草の花が咲いている

通常の畑

 

通常の畑(左の写真)と同じ時期の自然派の畑。雑草の花が咲いている

  写真を見ていただければわかりますが、同じブドウ畑でも、有機栽培している畑は一目ですぐにわかります。まず、土の状態が違います。通常の畑は固くて1枚の板のようになっていますが、自然派の畑の土は手でもつかめるほど柔らかく耕されているのです。なぜなのか聞いてみると、「人間は病気になれば早く直すために薬に頼りますが、まずは病気にならないたくましい健康な体作りを心がけることが大切。ぶどうの木も同じで、たくましい木になり、薬に頼らないことが大切なのです。ただそのためには人の手助けが必要です。ナチュラルでなければならないので農薬を使いません、肥料も厳選します。そのためほっておくと虫がついたり、病気にかかったりしますので、耕して土を柔らかくします。気温が上がれば上がるほど根はどんどん下へ伸びていって強くなります。そこからたくさんの栄養を吸い上げ、丈夫なぶどうが育つ。その強い根を作るために土を掘り返し空気を入れて土中に生息するミミズやバクテリアが住みやすい環境を作り、土壌を豊かに活発にしなければならない」そうです。
  耕す回数は決まっていませんが、状態を見て定期的に行います(7月訪問時で5回)。この作業はぶどうの木を傷つけないように掘り返さなければならないので、想像するだけでも大変です。機械で耕すそうですが、傾斜の激しい土地では手で行われているそうです。
自然派の畑の土   耕耘機で土を耕す

自然派の畑の土

 

耕耘機で土を耕す

  もう1つ大きく違うのは雑草がはえていて、かわいい花が咲いていることです。肥料に気をつけ、除草剤を使用しないためこのようになっています。見ている方は“綺麗ね!”なんてのんきなものですが、この何年かはフランスの夏は猛暑、日中は40℃を越します。耕したり、ぶどうの成長を妨げる雑草を抜いたり、とてもじゃないけれど体が持ちません。彼らは懐中電灯をつけ、日が上がる前の朝方や日没後の夜に仕事をしています。かなりの愛情を持って自然派ぶどう達は育てられるのです。
  その甲斐あってぶどうは見るからにたくましく美しく、ワインの方も美味しいに決まっている!! そんな期待を胸に、次はお待ちかねの試飲です。訪れたのは7月の太陽が照りつけるとても暑い日の午後で、期待はするものの飲んだら気を失ってしまうかもしれないと思いつつ案内していただいた場所は山を横堀にした洞窟風カーヴ。中に入るとびっくりするほど涼しく、外の暑さが嘘のよう。自然のクーラーが利いているのです。ここでも自然の力。そこにワインの入った樽がずらっと整列していました。ロビノさんのところでは最低18ヶ月は樽で寝かせゆっくり発酵してゆくのを待ちます。その後、瓶詰めをしてさらに約1年置きます。
ぶどう(シュナン・ブラン)   洞窟のようなカーヴ

ぶどう(シュナン・ブラン)

 

洞窟のようなカーヴ

  彼のワインはフィルターをかけないので澱が溜まります。ロビノさんはそれを取り除くのにルミュアージュという作業をしています。瓶を斜めに傾け、澱が瓶口に集まるのを待ち、その後栓を抜き、勢いで澱も飛ばすのです。そこで、なぜ勢いがあるのかです。この方法はシャンパンの澱を取り除くのに行う作業と同じで、炭酸ガスがあるから出来ることです。そう、醸造中に発生する炭酸ガスが通常では消えてしまうのですが、これらのヴァン・ナチュレルには残るのです。そのためにこの方法をとり、自然の力のみで澱を取り除くことも可能なのです(澱を残したままのものもあります)。また、その炭酸ガスは瓶内のワインの酸化を防ぐという役目も果たします。
ロビノさん

ロビノさん

  各種飲ませていただきました。彼が初めて造ったワイン、土地の違い、樽で発酵中のもの、瓶詰め後のもの、中でも一番衝撃的だったのがすべてを手作業でおこなうという特別なワインで、その名もキュヴェ・スペシャル(特別ってことです!!)。香りをかぐと土や木の香りがあまりに強くびっくりしました。緊張しながら口に入れると・・・さらにびっくり、香りからは想像できないフルーティーな味わいが喉の中で広がって行きます。一言では表現できません。ヴァン・ナチュレルはこのような香りからの想像とはまったく違う味を醸し出すことがあり、とても魅力を感じる所です。
ロビノ家栽培の白インゲンサラダ

ロビノ家栽培の白インゲンサラダ

  昔、ワイン造りを主にしている農家はぶどうが不作の時のために、畑の一部にじゃがいもやその他の野菜を育てて生活をしていました。ロビノさんはその原点に近づこうと実際に無農薬野菜を栽培しています。また、完全無農薬を目指そうとぶどうの若木も育てていました。
ぶどうの若木。3年後に実がなる

ぶどうの若木。
3年後に実がなる

  なぜ彼らはより仕事の大変な自然派を選んだのでしょう? 答えはどの醸造家に聞いても同じ『美味しいから!』 美味しいワインを皆に飲んでもらいたい、もちろん自分も飲みたい。美味しいワインを求め、たどり着いたのがヴァン・ナチュレルだっただけです。原点に戻る、余計なことはしない、自然との共存だったのです。自然と仲良く、時に闘いながら生きる彼らの表情には特有の優しさがあり、“美味しい上に体にも地球にもよい、最高でしょ!”といつも笑顔で話す彼らの造るワインは特有の香り、味を醸し出し、心に残るワインを造り出しているのです。
  (彼らが言うには酔っても後には残らない、2日酔いはしないらしいです。本当かどうかはお試しください。)



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人物 細井 奈緒子
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