スポーツ観戦好きの私、今年も一杯やりながら楽しい時間をすごしております。野球選手がビールをかけあう姿をみて、季節を感じたりする人いるのではないでしょうか?
日本の野球界ではビールをかけあうのが定着していますが(*1)、大リーグやF1レースでは「シャンパンファイト(*2)」といい、シャンパン(フランス、シャンパーニュ地方の発泡性ワイン)でお祝いしています。もったいなーい!と、批判する意見もありますが、頂点を極め、その緊張感から解放されて労をねぎらいあい、仲間と喜びを爆発させ、来年もがんばろう!という姿は勝利した者の特権なのでしょう。
そんな選手達の姿を見ると思い出すのがスペインの闘牛場です。私も飲まずに浴びてきました。
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パンプローナの屋台 |
数年前の暑い夏、闘牛を見に、サンフェルミン祭という、スペイン北部の町パンプローナで7月におこなわれるお祭りを見に行きました。「牛追い」で有名なこのお祭り、1週間ほどおこなわれますが、毎朝、その日の闘牛に出場する牛(500kgを越す本物の闘牛用の牛、角もある)を闘牛場まで追い込むのに、町の路地を牛と人が疾走し、怪我人多数、時には死者も出るといいます。牛追いが有名ですが、このときの「闘牛」はスペインからトップクラスのマタドールが集合する“オールスター戦”らしく、「期待、大」です。
町のあちこちには、食べ物、飲み物やお土産の露天が立ち並び、祭りの雰囲気を盛り上げています。そして、すり鉢状の闘牛場は、白のシャツにズボン、赤いスカーフを首や腰に巻いた人たち(この祭りの正装)で埋め尽くされていました。
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生ハムがたくさん下がっていました |
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赤いスカーフを首や腰に巻いた、 祭りの正装の人たち |
呑んで飲みまくるこのお祭り期間、町中でもあちこちで昼も夜も関係なく酒が飲まれていて、中には早々に酔いつぶれて路上で寝ているおじさんも。闘牛場の中も競技が始まる前から生ハムなどをつまみにやり始めています。
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闘牛場全景 |
ダフ屋で購入した、2階の西日の当たる格安席(日当たりの場所で値段が違う、日陰が高い)で、興奮して酔いの回ったスペイン人のど真ん中、今にも爆発しそうな観客の異様なざわめき、少々恐怖を感じるほど。
そこで多く飲まれていたのが、どうやらサングリアらしく、柑橘類とワインの香りがただよい、容器から透けて赤ワインであろう液体、オレンジの実が見えます。自分の家で作ってきたのでしょうか、4〜5リットルくらいのバケツというかポリ容器でもってきてがんがん飲んでいるのです。
なにやらアナウンスがあり、どうやら開始の合図、みんな総立ち、チーフを振り、ラッパ、太鼓に合わせて何か叫んでいます。「早くやれー、いつまで待たせるんだー」といっているかは知りませんが、開始前から周りのおじさんたちは大興奮。
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超満員の闘牛場 |
闘牛は、最初は馬に乗った者が槍で猛牛にダメージを与え、それからマタドール登場。よく見るマント(?)でひらり〜、とかわして疲れさせ、最後は脊髄にめがけて剣を刺し、止めを刺します。ひとつひとつの攻撃で大歓声、失敗するとこれが大ブーイング。最後止めを刺したときには興奮のピーク、衝撃波のように内臓に響くほどすごい歓声でした。
われわれも興奮してきたころ、周りは爆発しかけてきたようで、食べ途中のリンゴ、鶏の骨、バナナの皮、かじりかけのパン、それにサングリアのなかに浸かっていたオレンジ、と上から降ってくる、降ってくる。今まで見たことのあるサングリアのオレンジは薄い輪切りばかりですが、ここではお父さんの手作りっぽく半分に切っただけで、それを手で握りつぶしワイン漬け込んできたようで、これが当たると、グッシャリくるので心地悪い。どうしていいか、とりあえずあきらめて、一緒に盛り上がって楽しいけど服が大変だ、と話していると、下のお客を見たらしっかり傘差している人もいたりして、われわれはべとべと。隣のアメリカ人らしい夫婦はしかめっ面。
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サングリア、冷やしてどうぞ |
終盤、観客は爆発、とうとう赤い雨が降ってきました。バケツでもってきたサングリアをぶちまけ始めたのでした。日のあたる安い席はどこもワインかサングリアかは知りませんが興奮がお酒の雨とかわり、初め白だったみんなの服装も赤に染まっていくのでした。日陰の値段の高い席はとても平和。そう言えば、さっき町中で見た酔いつぶれたおじさんたちは、ワインをかぶって全身真っ赤。「血を流して倒れてる!」と見間違えてびっくりしたのですが、その答えの1つがこれだったとわかりました。「サングリア」の名前は、スペイン語で「血」を表す「サングレ」からきていることを思い出しました。
闘牛場のど真ん中のわれわれも、頭から赤いワインとオレンジの香りにそまったことは言うまでもありません。最後はポリ容器まで飛んでくる始末。飲まずに浴びてきました。準備万端の下のお客さんたちは、なんとカッパを着ていました。隣のアメリカ人らしい夫婦は、逃げました。
この祭りで闘牛場でお酒を浴びるのはお決まりの行事ではないでしょう。このときはただ興奮した勢いで起きたことだと思いますが、予想もしない経験でした。
テレビを見ながら思い出した夏の出来事、今夜は浴びないで味わいたいと思います。
*1:ビールかけ
日本のプロ野球の優勝チームが祝勝会でビールをかけあい思いっきり喜んでいる姿を見かけますが、はじまりは1959年南海ホークスが優勝した祝賀会での出来事とのこと。アメリカでシャンパンファイトを経験していた選手が突然ビールを横にいた選手かけ、周りの選手もつられてビールをかけはじめた。当時、それは予想外なことなので、会場(ホテルと思われる)側も相当な被害を受け、球団は弁償をしたというエピソードがのこっています。
ちなみに身体が冷えることは選手によくないので、かけるビールは常温にしたり、目にはいってもしみないように薄めたり、準備する側もいろいろ気を使っているようです。あの一瞬に何百本のビールが流れて消える。用意する人、片づける人たちご苦労さまです。
*2:シャンパンファイト
モータースポーツ、大リーグなどスポーツの表彰式や祝勝会で勝利を祝いシャンパンをかけあうこと。1950年、大リーグのあるチームが100敗目(記録的な大敗)を阻止したことを祝ったことが始まりとか、1960年代にモータースポーツのスポンサーのシャンパンメーカーが表彰式にシャンパンを提供したとか、始まりについては諸説あるようです。
日本では80年代日本でF1レースが行われた頃から広く知れ渡るようになり、1992年冬季オリンピックのノルディック優勝の日本チームは表彰式でやっています。自前のシャンパンらしいですが。
F1レースでは1999年までは公式スポンサーのモエ・エ・シャンドン社、それ以降はマム社のシャンパンが表彰式のシャンパンファイトで使われているとのこと。
大リーグでは、選手関係者だけでなく、ファンと一緒にシャンパンファイトをして優勝を喜ぶところが日本と違うところでしょうか。ファンをほんとうに大切にするベースボールの精神がこういう所にも見ることが出来ると思います。
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