REPORT

代表 辻芳樹 WEBマガジン

サンティ・サンタマリア[第4回]

Chef’s interview

2008.11.28

聞き手:辻芳樹(辻調理師専門学校 理事長・校長)

●あなたの著作(「el gusto de la diversidad-el mundo culinario de Santi Santamaria」 2002刊)の中には料理だけでなく各地で影響を受けた人たち、私自身も尊敬している世界中の料理人について、コメントが記されているページがあります。なぜ、このような構成にされたのですか。
  まずひとつは、そのシェフたちは素晴らしい時をともにすごした仲間であり、私が多くを学んだ人たちなのです。例えば私の親友であるオリヴィエ・ロランジェに関してどのように書いたかを訳してみましょう。「・・フランスのカンカルにある『メゾン・ド・ブリクール』というレストランのオーナーシェフで、香辛料を多用して、非常に斬新な味付けをし、本人は科学も勉強していた料理人でもあって、まさに彼の店は3つ星の価値がある。料理に関してはラディカルで、どういうものを出せばお客に喜んでもらえるかを常に考えつづけている、絶対に3つ星の価値があるし、今年はきっと3つ星をとると期待している。」となっています。

*『メゾン・ド・ブリクール』は2006年に三つ星の評価を獲得したが、2008年ロランジェ氏の申し出によって三つ星を返上。2008年12月15日を持って閉店することになった。なお、ロランジェ氏はその後も「料理人の道は歩み続ける」と述べている。

●ロランジェ氏は実に近代ソースの天才だと思います。
  香辛料の使い方が素晴らしい。ただ闇雲に香辛料を用いるのではなく、きちんと計算した上で様々な香辛料を使っています。

●先ほどの話の中でスペインにおいても都心部ではもはや"家庭料理"というものは崩壊しつつあるということでしたが、今後は"家庭料理"めいた料理を主体としたレストランが現れると思われますか?
  家庭の香りというのは、かつてなら小さな町には夕げの香りというのがあって、「ここの家ではパエリアを作っているな」と言うことがすぐわかる芳しい匂いをかぎながら家に帰り、家に帰るとそこにも美味しそうな香りが漂っていました。このような香りが消え去りつつ今、私自身がそれをお客様に提供していく必要があると思っています。これはスペインの料理業界としてどうかということではありませんし、他の料理人が私と同じように思っているかどうかも分りません。ただ、私自身はそう思っているということです。

●料理だけでなく、レストランの雰囲気も同様に大切にされているのもそういう理由からですか。
  今、話しました香りの大切さということは抽象的で、自分の料理のベースとなる基本的な感覚のようなもので、自分のレストランをそういう香りを満たそうとか、家庭風にしようということではありません。実際にレストランを「家庭的」な雰囲気で満たせば人気を呼ぶことはわかりますが、現時点ではそういう風に自分の店を作りこんでいくつもりはありませんし、サーヴィスを家庭的にしたりということも考えていません。そういうことではなく、自分にとっての料理の原点の、最も大事な部分がそういうところにあるということなのです。

●サンタマリアさんのレストランの経営において、御夫人の役割とはいかなるものでしょうか。
  私の場合、まずレストランと住居が同じ場所にあります。父は亡くなりましたが、母は健在ですので、家族生活とレストランが一体になっていることがあります。妻だけでなく、家族全体の協力が無ければ、今のレストランをつくりあげていくことはできなかったと思います。妻は家族のことも考えなければならないし、レストランに関しても接客に重要な役割を果してくれています。
  住居と店が一体ということもありますし、自分の性格もありますが、まず朝起きて料理のことを考え、調理場に降りて料理を作り、昼寝をしてまた料理のことを考え、夕食の後もまた料理のことを考えるということで、常に料理漬けなのが問題かも知れません。
  店が休みの月曜日は友人たちを招き、やっぱり料理を作っています。ふと考えてみると自分の時間があまりに料理ばかりに費やされているのは少し寂しいと思い、徐々に画家や建築家、詩人などとの他のジャンルの人たちとのつきあいを広げていっていますが、やはり中心にあるのは食卓で、食卓の周りで会話が動いていくわけです。結局料理から離れることができません。料理人になる前に私が一番好きだったのは絵を描くことでした。もちろん趣味の域を出るものではありませんし、展覧会などにも出品したりしていませんが、もし、その世界にものめり込み、その世界の人たちとも同様に深くつきあっていると大変なことになったことでしょう。
  私が「バルセロナで絵の勉強をしたい」と言った時、両親と親戚が集まって大反対をしましたので断念したわけですが、今思うと人生は自分に正しい答えをくれたと思っています。

●10年後、15年後に何かを残すとしたら何を残したいと思いますか。自分の足跡をどのように残したいと思いますか。
  自分の料理、自分のレストランは自分の人生そのものなので、人生と同じように少しずつ小さくなって少しずつ消えていくと思う。何年かたてば、今客室が3つあるとすればそれが2つ、1つと減り、お客さんも限られた人だけが来て、その人たちのために料理を作るようになる。その他に自分ができるのは、カタルーニャの若い未来の調理師に、自分の職業人としての経験を語ってあげたい。調理師学校の教師は現場の経験を持っていないことが多いので、自分の経験を語るとことで自分がやってきたことを伝えていきたい。私の場合、ホテルのレストランのシェフではなく自分の店で仕事をしてきた者ならではの職人としての経験を伝えられると思う。
  もちろん、まだまだ引退はしませんが。
  その前に2つのレストランをやりたいと思っている。ひとつはバルセロナの空港の近くにある新しくできたビルの上に来年開くエヴォ(エヴォリューション、進化のエヴォ)というレストランと、もう1軒はトレソールというヴァカンスの島?のレストランを開き、合計4軒の店をもつことになるが、私はすべてのレストランに顔を出そうとは思っていない。私がいるのはあくまでサン・セローニ村にある自分のレストランで、サンティ・サンタマリアの料理を食べたい人には、その私のレストランに来てもらいたい。料理のコンセプトとしては4軒に共通するコンセプトでやって、そこから若い料理人が私のコンセプトを学んで旅立っていってくれるといいと思う。

Restaurant 『El Raco De Can Fabes』
Saint Joan 6 Saint Celoni,08470 Barcelona, Espagna
+34-(938)672 851

12月の<今月の顔>は、先日来校されましたシドニー(オーストラリア)『Tetsuya's』オーナーシェフ 和久田哲也氏のインタビュー。和久田氏の半生、料理の考え方など盛り沢山の内容になっています。お楽しみに!