www.tsuji.ac.jp 辻調グループ校 学校案内サイト www.tsujicho.com 辻調グループ校 総合サイト blog.tsuji.ac.jp/column/ 辻調グループ校 「食」のコラム



・ピラミッドの味
・フランス料理の変遷
・世界最高のデザート

・パリから地方へ








ピラミッドの味

水野 今回の料理はピラミッドのメニューの中から、チュルボ・オ・シャンパーニュ(ひらめの蒸し煮、シャンパン風味)です。これはフランス料理の基本といえる料理で、だれが食べてもおいしいと感じるのではないかなと思って選びました。
杉山 はぁ〜、これぞフランス料理!旨いなぁ・・・・。近頃のフランス料理と比べると、ぐっとソースを凝縮していく仕上げ具合ですね。
水野 フランス料理は煮詰めていく仕事が多いでしょう。煮詰めてこくを出して、つぎにどうするかというと、生クリーム、バターが不可欠で、そしてこの料理はシャンパンの風味ですごくうまくまとまっている。口の中でさわやかにサーと溶けていくソースのなめらかさと、シャンパンの香りが残っているというのは、ポワンがつくっていた当時の人には、驚きだったかもしれないね。つくりたてはほんとうに旨くて。ピラミッドへ研修に行って、はじめてこれを食べた時は感動しましたね。
川北 そういえば、うちの学校はピラミッドへ研修に行った人が多いですね。
水野 そうね、僕が一番初めでしょ。そのあと川北先生が行って。あと、永作、守木、分林、片山と続きました。それで片山君のとき、1986年にマダム・ポワンが亡くなったのかな。
川北 僕が行ったころもこの料理がピラミッドのスぺシャリテだったなぁ。
水野 マダム・ポワンが毎日メニューを書いていて、魚料理はチュルボにするかソモン(鮭)にするか、ソル(舌びらめ)にするか。でも年間通して主にチュルボのこの料理だったと記憶してます。
川北 見た目はなんていうこともない、シンプルな料理だけど。これが旨いのは素材ですか。
水野 もちろん素材のよさも決め手。それに材料の組み合わせの妙ですかね。フュメと白ワイン―ここではシャンパンですが―それにエシャロットというのは魚料理の三種の神器。そこにトマトが加わる。トマトはそのほのかな酸味で全体の味をまとめて、主材料のチュルボの味を持ち上げてくれます。
杉山 トマトは入れすぎると味が出過ぎるとこがあるけど、適量入れると、ほかの出し汁やお酒の「かど」というか、強いところをカバーしてマイルドになる。
水野 今日使ったチュルボはフランスから空輸したものなんですが、日本のヒラメと違ってしっかり火を入れても固くならないでしょう。

杉山 日本の天然ヒラメと比べると、身の締まりがちょっとゆるくて、そのぶん、脂肪をよく含んでいるから、火を通していく素材としてはすごくいいですね。日本のひらめでやると、身が締まりすぎてしまう。ぱさつきが出てきがちじゃないですか。時季にもよるけど。
水野 生のときには身が締まっていない感じ、でも火を入れるとしっかり締まる。ピラミッドで修業していたころは、かなりしっかり火を入れていたんです。
杉山 その頃ピラミッドに入ってくるチュルボの鮮度はどうでした?もう25年くらい前になりますか。チュルボに限らず魚介類全般に新鮮なものが手に入っていましたか?
水野 1973年に行ったから、今から25年くらい前。そのころはもうリヨンの市場からいい状態で入ってきたね。それで冷蔵庫に魚用の引き出しがあって、毎日氷を取り替えて保存しておく。やっぱり魚は氷づめで保存してるのがいいみたいですね。
杉山 日本では活け締めして神経とか血管を切って、そこで組織の変化を止めたものがいいということになっているけれど、フランスではそれはしませんね。水揚げしてそのまま自然と来るから、火を通す調理にはむいているのかも。
水野 チュルボの煮汁に使うシャンパンですが、甘口、辛口、ブリュット(極辛口)と色々ある中で、今回は辛口を。ランソンの辛口を使っています。僕は好きなんですよね、ブリュットはちょっと辛口過ぎるというか。
杉山 シャンパンというのは独特のさわやかな酸味とフルーティな香りがあって。ぜいたくよね、飲んで旨いのは料理に使っても旨い。
水野 杉山先生は授業中、料理に使うワインの試飲はよくされるそうで。よいワインの時は特にとか・・・(笑)。
杉山 いやほら、やっぱり飲まないとソースの味がわからないから。飲んで味を確かめとかないとソースの仕上がりが予想つかないでしょう。ねぇ?
川北 (笑)

水野 ともかく、そのおいしい煮汁をさらにぐっと煮詰めて、生クリームを入れる。生クリームはドゥーブルではなかったね。
川北 フルーレットでもないんでしょう。
水野 契約農家の人がビドンという、牛乳を入れる大きい缶のようなものに入れて持ってきていました。だんだん日にちがたつとちょっと発酵してくるのか、フルーレットのようだったものがドゥーブルのようになってきて。
杉山 たしかにそういうのを使うともう、旨いだろうなと予想させるものがあるよね。
水野 バターもその農家のちょっと発酵しているような風味のあるバターでした。
杉山 ピラミッドの話をもう少し聞かせて下さい。当時のシェフといえばギー・ティヴァルさんですが、料理はポワンをそのまま受け継いでいたんですか。僕はピラミッドで仕事をしていないから、もうひとつよくわからないけど。
水野 僕もポワンが死んでから15年くらいしてから行ったから、どのくらい継承されていたかわかりませんが。ポワンの下にポール・メルシエという人がいて、ギーさんはその人から仕事を教わったそうです。
杉山 そのギーさんのつくるピラミッドの料理をはじめて食べたのは?
水野 ピラミッドに研修に行って、着いた時にまずはごちそうになりました。その時はおどろきと感激がいっぺんに!こんなに旨いものが、この世の中にあったのか、これからこんな料理を勉強するのかって。鱒(ます)のムースにソース・ペリグーというトリュフ入りのソースをかけたのが最初に出て。これは形がプリンみたいな感じでね、ピラミッドのムースは、いま日本でいうすり身じゃなくて、卵生地なんですよ。トリュフなんて、聞いたことがあるけれど・・・という感じで。それを食べて、チュルボ・オ・シャンパーニュを食べて、肉は鴨が出てきたかなんかで、デザートにはガトー・マルジョレーヌ
杉山 ピラミッドのスペシャリテのオンパレードやね。それから研修はどうでしたか。
水野 昔は今みたいに情報過多じゃないし、フランス料理も最近のようにすごく幅広くじゃなくて、メニューの数が限られた狭い中で仕事を覚えていくわけだから、あんまり目移りもしなかったし。これだけしっかり覚えておけばもう俺は結構これで自信つけられるんじゃないかっていう、そういう予感がしてね。決してあせらなかった。ヴィエンヌっていい町だからね、どこかのんびりした気分で修業ができました。



ドゥーブル
少し発酵して半固形状になっている濃厚な生クリーム

フルーレット
液状の生クリーム















ポール・メルシエ
ポワンのもとで料理長をつとめ、彼の死後も7年間ピラミッドの調理場をあずかった(1962年没)



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