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美食の黄金時代といわれた19世紀には、フランス料理はパリを中心に発展した。20世紀に入ると交通網の発達や自動車の普及にともない、人々はパリから離れた土地にも美食の宝庫が存在することに気づきはじめた。1920年代のパリで活躍したニニョンとほぼ同時代、フランスの一地方の小さな町に、世界中から客が集まる美食の殿堂を築いたのがフェルナン・ポワンである。 | |||
| <ポワンの時代> その代表的な料理人が、フェルナン・ポワンなのである。ポワンは、料理の簡素化を究極までおし進め、従来までのフランス料理を根底からくつがえし、現代のフランス料理に大きな影響を与えた。 エスコフィエが料理の王様なら、ポワンは料理の神様とまでいわれ、1930年頃から、フランスはもちろん、世界中の料理人から尊敬され、名声を博している。 ポワンには、他の偉大なる料理人達と同じような著作はなにひとつない。あるのはヴィエンヌという片田舎のレストラン・ピラミッドだけである。このレストラン・ピラミッドは、ポワンが1923年開店したもので、まもなく、名実ともに世界最高のレストランにのし上がった。これは、各国の王侯・貴族、高官などがポワンの料理を食べに、この片田舎までぞくぞくと詰めかけていたのをみれば納得がいくだろう。 現在は、妻のマダム・ポワンがあとを継いでいるが、ポワンが生きていた当時と変わっているものはなにもないといわれるくらい、ポワンの料理をそのまま再現している。今もなお、世界一のレストランの名声を維持しているのである。 (『ピラミッドのメニューブック』より「フランス料理の系譜とF・ポワン―ポワンの時代はすでにはじまっている―」辻静雄著) | ||
<ポワンの覚え書き> 「料理人は、自分の仕事に無関心になったとたん、その評判を落としてしまうものだ。」 「料理において、不注意というものは、取りかえしのつかぬものである。」 「すばらしい食事は、交響曲のように調和がとれていなければならないし、ロマネスク様式のように構築されていなければならない。」 「つけ合わせというものは、釣合いが取れていなくてはならない。ネクタイと背広のように。」 「バターを!バターをよこせ!いつもバターを!」 「すばらしい料理というものは客を待っていてはならない。すばらしい料理を待たなければならないのは客のほうである。」 「人間は機械ではない。料理人だって疲れることはある。しかし、客はそんなことは少しも思ってみないものだ。」 「よく訓練を受けた料理人というものは、料理長に対すると同様、皿洗いの人にも丁重に接するものである。」 「スタッフを統率するのに必要なのは、古株の経験と、若手の熱意をうまくかみ合わせることである。」 「はじめてはいったレストランでは、食事をする前に、まず料理人と会わせてほしいとたのみ、握手することにしている。というのは、その料理人の手がやせていれば、おいしいものは食べられっこないからだ。さらにいえば、もしその料理人がやせていて、幸せそうに見えなければ、逃げ出す以外に救いはない。」 「腕の良い料理人は、自分の学び取ったもの、つまり自分の個人的な経験のあらゆる結果を自分のあとに続く世代に伝える義務がある」 |
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