川北 | 層にしてから1、2日置いたらもどると思うでしょう。もどるんだけど、こしのあるもどりかたになってしまう。ブイヨンを煮詰めてから生クリームを入れるか、ブイヨンと生クリームを合わせてから煮詰めるのとどっちがおいしいかというと、煮詰めてから入れるほうがおいしいのと同じです。無理に水分を与えるのじゃなくて自然にもどっていくのがいい。僕らは日本に帰ってから、ぬれブキンをかぶせてみたりしたけど、うまくもどらない。湿気を与えるのじゃなくて、生地が必要なだけ水分を吸い込むのでないと。 |
水野 | 湿気のある地下のワインカーブの横にマルジョレーヌをつくる部屋があったね。製菓の部屋は上にちゃんとあって、ほかのお菓子とか、コーヒーといっしょに出すプティフールなんかはそこでつくるけど、マルジョレーヌの生地だけはそこへ行ってつくる。 |
川北 | 生クリームが今みたいな工場生産のものと違って、脂肪分が一定していなかったからかもしれないけど、クレーム・シャンティイには、こくをつけるためにバターを加えてる。横で見てると一瞬分離したような感じになってたりするけど、それがまたいいわけ。日本人は生クリームはきれいな状態でないといけないと思ってるから、なめらかにしようとしてかえって重くなる場合が多いです。 |
水野 | プラリネを入れたり、バターを入れたり、チョコレート味のと、3種類もクリームをつかっているんですね。プラリネっていうのは昔フランスキャラメルってあった、あの味みたいで・・・なつかしい味がする。 |
川北 | むつかしいお菓子なんですよ。クリームと生地のバランスが微妙だし、生地も同じ条件で置いておいても、うまくもどるときと、もどらない時があって。ある日はきれいにもどってるけどある時は逆にぱりぱりになってたり。 |
杉山 | レストランのデザートらしい繊細なお菓子だよね。いろいろな味がうまく1つにまとまって、すっきりシンプルに仕上がっている。 |
水野 | ピラミッドのデザートでマルジョレーヌのほかにというと、タルト・オ・シトロンがありましたね。えーとレモンのタルトというんだけど、それよりアーモンドの風味がたっぷりという感じの・・・ |
川北 | ああ、フランジパーヌというクリームをつかっていたからねぇ。アーモンドパウダーとバター、砂糖、卵を同量ずつ使うこくのあるクリームです。そこにレモンの皮と果汁が入っていて。タルト形にパイ生地を敷いてそのクリームを詰めて焼く。 |
水野 | それからタルト・タタンがあったね。普通のつくり方より簡単につくるタタンなんだけど、これもよく出ていたね。 |
川北 | タルト・タタンは温かいうちにアイスクリームを添えて出したりしていました。あとはプティフールと、フルーツ。お客さんによって特別なものをつくったりした場合もあったかな。 |
杉山 | どれをとっても料理の印象をこわさないように考えてあったんでしょうね。表面は飾らないけど味で勝負という感じですか。タルトも見た目は素朴というか、家庭料理風でもあるけど、レモンとアーモンドの味のバランスとかすごく洗練されていたんでしょう。 |