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マーボー豆腐(麻婆豆腐)は清の同治元年(1862年)に四川の成都で、陳さんの奥さん(中国語で「老婆」)が創り出したものです。この奥さんの顔にあばた(中国語で「麻」)があったので、麻婆豆腐と呼ばれた。というのがマーボー豆腐のいわれです。
四川は成都にある「陳麻婆豆腐店」が元祖といわれています。大いに繁盛したのか、移転して店構えもすっかり立派になりました(写真右)。ただし、この店のマーボー豆腐は油っこくて、香辛料、辛味も強すぎるので、中国人好みといえるかも知れません。
マーボー豆腐は四川を代表する料理のひとつのようで、四川のあちこちの料理店で出され、家庭でもよく作られていますが、それぞれ独自の味をもっています。
中国でも四川以外の人に出す場合は辛さを控えるとか。特に山椒の辛さが強烈です。山椒の辛さを中国語で「麻」といいますが、舌が麻痺するほどの痺れがあるのに、一定の時間がたつとさっとその痺れが飛ぶのは「麻酔」の「麻」に通じると妙に納得したものです。 |
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辛味のもう一つの特徴、豆瓣醤についてですが、ご自分で作られるなら、四川のピー県で作られる「ピー県豆瓣」を是非使っていただきたいですね。塩味、辛味の強い日本の豆瓣醤に比べると、ピー県豆瓣は辛い中に味噌の旨味をもっています。空豆、「ニ金条」という種類の唐辛子に塩を加えて一年以上発酵させますが、毎日棒でかき混ぜ(写真左上)、雨が降れば傘をかぶせ、晴れると傘をとって日に晒します。このように手をかけて作られる豆瓣醤は、袋(写真左下)に書かれているように「川菜之魂(四川料理の魂)」そのものといえるでしょう。 |
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1988年冬、本場四川省で初めてマーボー豆腐を食べた。どうしても食べたかった念願のマーボー豆腐は強烈な山椒の香りとともに食卓に運ばれてきた。崩れていないどっしりした豆腐が、赤黒い油の中に漂っていて、見ているだけで強烈な辛さを感じる。もともと辛さに弱い私は、恐る恐る一匙を一気に流し込んだ。予想通り一口で舌全体を麻痺させ、この刺激は初めての体験となる。中国料理の奥深さを再認識させ、天狗になりかけた私にあらためて、原点にある食文化に触れる大切さを知らせた。興味本位でうわべだけの知識はその本質を見失う恐れがあると教えた。
哲学的なことを考えた翌朝、トイレで再びマーボー豆腐を食べたことを思い出さざるを得なかった。この感覚は15年経った今でも鮮明に覚えています。 |
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