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北京料理、上海料理、四川料理、広東料理、点心と5つのジャンルを、それぞれ担当の厨師(料理人)、点心師(点心専門家)が、中国での体験を交えながら料理の作り方とそれにまつわる話を紹介します。まずは、基本的な料理から始めましょう。
1988年の3月14日小阪先生を隊長として、松井先生、横田先生、私の一行4名は上海、揚州、南京、成都、重慶、広州、香港への食べ歩き研修旅行に出発しました。文化大革命が終結して10年余り、中国はまだまだ渾沌としていました。時間通りに飛行機や電車は来ない、レストランの予約は誰も聞いていない・・・・・・。几帳面な我々日本人、これでまともに終着点まで到達できるのでしょうか。
第一到着点の上海は雨が降れば道路はぬかるみ状態。和平飯店のジャズを聞き、「オールド上海」とつぶやき、舗装のされていない泥道で佇んでしまいました。
上海から電車に乗り込んだのはよいけれど、車内放送もなく、窓ガラスが汚れているので、田畑らしきものは見えるのですが、ぼんやりしています。駅名もはっきり分からないのでどこを通っているのか見当がつきません。車掌らしき人に聞くと「南京はここよ」というので、急いで降りて、セーフ、セーフ。小阪先生の手帖紛失には慌てましたが、何とかなり、旅行は続行。レストランに行くと、予約していた料理より数段おちるものが出てきたりして気持ちが少し落ち込んできました。
南京から成都までは空の旅です。飛行機が到着しないので皆待っているのですが、何時来るのか誰もわかりません。やっと来た飛行機は空中分解しそうなほど古そうです。そういえば、中国では飛行機がよく落ちるのだと不安が頭によぎりましたが、乗るのを躊躇していてはマーボー豆腐の故郷には行けません。「不入虎穴、焉得虎子(虎穴に入らずんば虎子を得ず)」。おっかない空中小姐、機内食の硬くて食べられないサンドイッチにもめげず成都にたどりつきました。
成都の自由市場
成都駅前の広い広い自由市場に人民服を着た人々が溢れていました。怖かったのは彼らの目つき。まだまだ自分自身を守るのが精一杯だったのでしょう。当時中国人が使っていたのは、くしゃくしゃで数 字も読めないような人民元。
四川は香辛料が豊富
一方、外国人は手の切れるような兌換券で買い物をします。小阪隊長がおもむろに兌換券の束を取り出すと、人々が周りを取り囲み、目つきは更に鋭くなりました。我々隊員は関わり合っては大変と、ソロソロと後ずさりして逃げることにしました。
目的のひとつであったマーボー豆腐の元祖といわれる「陳麻婆豆腐店」は残念ながら工事中で行けませんでした。成都の何軒かの店でマーボー豆腐を食べたのですが、不思議なことに、どの店も同じ味なのです。伝統を守るというのはこのことかと思っていたのですが、最近、成都に行った人は口を揃えて「マーボー豆腐は一軒一軒味が違う」といわれるのを聞くと、中国の自由化はこんな分野にも影響を及ぼしているのかと考えこんだりしています。
また、戸外の茶館(?)では、木に鳥籠を吊るし、その鳴き声を聞きながら、蓋碗でお茶を飲んでいる老人達。一方、若者達は子供を背負って自転車で通勤です。
食べ疲れた一行。中央が私。
自転車が洪水のように流れています。中国の果てしない未来に続く巨大なエネルギーを感じましたが、こちらは予想を超えた辛い料理に結構まいっていました。癒されたのは、同仁堂の薬膳料理。人参燕窩(朝鮮ニンジンと燕の巣のスープ)、虫草鴨子(冬虫夏草とアヒルの煮込み)、烏参鴿蛋(ナマコとハトの卵の煮込み)、茯苓包子(ブクリョウ入りの饅頭)など滋養があり胃に優しい料 理の数々。 そして、今回ご紹介する東風飯店の「野菜の煮込みあんかけ四川風」でした。キュービックパズルのような飾り切りをしたチシャトウ、ダイコン、ニンジンがあっさり塩味で、 野菜の旨味が際立っていました。
東風飯店の
「野菜の煮込みあんかけ四川風」
四川の味の特徴のひとつとして「麻辣(山椒と唐辛子の辛さ)」 が挙げられます。今でこそ、痺れるような辛さの四川山椒が日本に運ばれてきますが、当時は日本で味わうことができず、自由市場で一粒食べてみてその強烈な痺れには衝撃を受けました。
ラフな服装をしていたとはいえ、人民服の中ではかなり目だっていたのですが、広州、香港と下ってくると、今度は反対に田舎からでてきたようで、またまた浮いていました。食事はだんだん外国人である私達の口に合ってきて、最終地点の香港では料理はもちろんのこと、サービスもすごいとつくづく思いました。 今、思い返すと、驚くべき発展を遂げた中国のここ20年の歴史の一端を体験できたのは幸せでした。また、この貴重な体験を通して得たものを、授業に少しは生かせたのではと思っています。
このコラムのレシピ
コラム担当
野菜の煮込みあんかけ四川風
迷料理人 湖南(コナン)
谷康行
中文之星
福冨奈津子
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