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辻調の日本料理の先生たちにも、調理師一年生の時代がありました。どんなに教え上手の先生も、一年生の時には分からないことだらけで、失敗もたくさんしたのです。そんな時代を振り返り、「日本料理一年生」のみなさんに、できるだけ分かりやすく、本物の日本料理について解説してみようと思い立ちました。「こんなにおいしいものが自分で作れるのか!」という新しい発見と喜びがきっとあるはずです。 |
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今回は、「鰹(かつお)」を使って「たたき」に挑戦してみましょう。鰹は江戸初期の俳人、山口素堂(やまぐち そどう)が「目には青葉 山ほととぎす 初松魚(がつお)」という俳句によんだように、5月ごろにとれる初鰹が重宝がられています。江戸っ子は借金をしてでも手に入れて食べたとされます。現在の貨幣価値に換算すると、一尾がおおよそ\40,000だったともいわれますが、当時は「初物を食べると75日長生きできる。」といわれ、特に「初鰹は10倍の750日も長生きできる。」とされていたので、みんなこぞって初鰹を買い求めていたようです。
今年は初鰹の時期は過ぎてしまいましたが、脂ののった鰹を使って今回は「たたき」を勉強しましょう。さて、みなさんは「鰹のたたき」や「牛肉のたたき」など、魚や肉の表面を火で炙って中が生の状態のものを「たたき」と思っていませんか。表面を火で炙ったお造りは「いぶし造り」とか「焼き霜造り」といいます。「たたき」とは、火で炙ったものを造り(平造りや切りかけ造りなど)に切ってからポン酢をふりかけ、刻んだ青ねぎ、青じそ、茗荷といった薬味をかぶせるように盛り、包丁の腹(側面)で軽くたたき、ポン酢や薬味の風味を魚や肉になじませたものをいいます。
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生の鰹の身には、このような寄生虫が ついていることがあるので、 その場合は取り除きましょう。 |
鰹は、そのまま造りにするより「たたき」にするほうがおいしいといわれます。これは、表面を炙ることで、鰹の持つくせが香ばしさに変わり、皮と身の間にある旨味のある脂肪分を食べられる上、表面をたたくことで身がしまり、鰹のうまみ成分であるイノシン酸がにじみ出て、全体がおいしくなるからです。
「鰹のたたき」は、土佐(高知)の名物として有名です。かつて、土佐の殿様が贅沢を戒めるため、刺身を食べることを禁止したところ、庶民の間で、表面を炙って中は生の鰹を「焼き魚」として食べたところ、とてもおいしかったというのがはじまりだとか。その後、薬味などに工夫を加えて今の形になったようです。
では、「鯵(あじ)のたたき」はどうでしょう。「鯵のたたき」は表面を焼かず、鯵の上身(じょうみ)を包丁でたたくように刻んで薬味類を混ぜたもので、これは上身を「たたき刻む」ということからついた名前のようです。
また、このコラムを執筆中、たまたま日本料理主任教授のH先生が通りかかられ、「おぅ、小谷さん、書いてるなぁ。『鰹のたたき』は土佐地方ではじまった料理のようにいわれているやんか。それを否定するわけじゃないけど、いろいろ調べたらな、鹿児島県の薩摩地方で『鯵のたたき』のように鰹の上身を包丁でたたくように刻んで、いろいろな薬味類を混ぜたものがはじまりという説もあるらしいで。」とのこと。
ところで、鰹の漁に出る漁師さんは出漁中のおかずに、鰹を食べるそうですが、毎日お造りやたたきでは飽きてしまうので、いろいろと工夫をしているようです。その中の一品を紹介しましょう。鰹は身が柔らかなので「節おろし」という方法でおろしますが、この場合、中骨に身がかなりついてしまいます。この身をスプーンでこそげ取り、ねぎや生姜、青じそといった薬味とともにマヨネーズと少量のポン酢で和えると、ちょっとした料理になります。熱いご飯の上にのせるとご飯がすすみますよ。
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