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連載コラム 日本料理一年生
辻調の日本料理の先生たちにも、調理師一年生の時代がありました。どんなに教え上手の先生も、一年生の時には分からないことだらけで、失敗もたくさんしたのです。そんな時代を振り返り、「日本料理一年生」のみなさんに、できるだけ分かりやすく、本物の日本料理について解説してみようと思い立ちました。「こんなにおいしいものが自分で作れるのか!」という新しい発見と喜びがきっとあるはずです。
5時間目 味噌汁を作る
豆腐と若布の赤味噌仕立て
  私たち日本人が海外旅行をすると、3日目あたりには日本食のレストランを捜し求め、見知らぬ街を徘徊してしまうようです。日本人が比較的多く旅行をするハワイやグァム、バンコックなどのホテルでは、朝食に味噌汁などの和食を提供してくれる所も増えてきましたが、まだまだ、欧米風の朝食に現地の料理がプラスされた形式が多いようです。食料品の持ち込みができない国もあるので、インスタントの味噌汁や梅干などをバックの底に忍ばせておいても、入国の際に取り上げられたり、高額の税を払わされたりするので注意してください。
  昨年、タイ人の教え子がいる北アフリカのチュニジアに巡回指導に行きました。現地には日本料理店は1軒もありません。到着して4日目、「先生、そろそろ日本食が恋しくなったでしょう。」と、教え子が昼食に天丼と味噌汁を作ってくれました。日本食に飢えていた私には、この時の味噌汁がどれほどおいしかったことか!!ウキウキしながら、「中に入っている貝はどういう名前?」と、作ってくれた本人に聞きましたが、「さぁ、何でしょう?」との返事。ええーっ!?と少しびっくりしましたが、ほっと安らぎを感じるおいしさで、彼のやさしさに、強く心を打たれました。日ごろは何気なく食べている味噌汁も、失って初めてそのありがたみを感じるものです。
正体不明の貝の味噌汁でしたが、涙が出るほどおいしかったです。
正体不明の貝の味噌汁でしたが、涙が出るほどおいしかったです。
  日本人にはかけがえのない味噌汁ですが、汁の実は本来淡白なものが多いようです。浅蜊や蜆などの貝類は、素材自体からよいだしが出ますが、若布や豆腐といったものを使う場合はだし汁が必要です。もちろん以前に説明した昆布と鰹の一番だしで、おいしい味噌汁はできますが、今回は煮干しを使っただし汁でチャレンジしてみましょう。煮干し(だしじゃこ)のだし汁は、昆布と鰹の一番だしより濃厚です。煮干し(だしじゃこ)は片口鰯(かたくちいわし)の幼魚を煮たものなので、少しの渋みや魚のくせが出ます。なので、一般に「おすまし」と呼ばれる清汁仕立てには向きませんが、味噌汁に使うと、味噌の風味もある程度強いのでおいしくできます。このだしは、麺類やおでんのように濃厚なだし汁を必要とする料理に用いられ、最近では、ラーメンのスープの材料として使うこともあるようです。
  味噌汁の味噌は、1種類だけよりも、2〜3種類を合わせた方が確実においしくなること、知っていましたか?今回若林先生が使っている「赤だし用味噌」とは、八丁味噌に代表されるかたい豆味噌(赤色で辛口)を柔らかく使いやすく加工した味噌で、辛口の信州味噌などが混ぜてあります。基本的に、色、味、生産地などが異なる味噌を組み合わせると味わい深くなります。また、汗をかく夏場は辛みを勝たせ、寒い冬は甘みを勝たせる配合にするとよいでしょう。
  味噌が決まれば、いよいよ味噌汁を作ります。汁の実は、豆腐や若布のような淡白なものには辛口の味噌、里芋や大根などの根菜類には甘口の味噌、浅蜊や蜆などの貝類には赤味噌や豆味噌がよく合います。味噌汁の塩分が気になる人は、里芋、さつま芋、じゃが芋、ほうれん草、春菊、蓮根など、カリウムを多く含む材料を使えば、体内のナトリウム(塩分)の排泄を促して血圧を下げてくれます。ただ、腎臓に疾患のある人は、カリウムも塩分も控えなければならないので要注意です。里芋、大根、ごぼうなど火の通りにくい根菜類は味噌を加える前に、だし汁だけでやわらかくなるまで煮ます。コクをつける油揚げなども先に加えた方がよいでしょう。すぐに火の通る豆腐や若布、なめこなどは味噌を溶き入れた後に加え、再び、ほんの少し煮立てて火を止めます。このほんの少し煮立てた状態を「煮えばな」といい、味噌汁が一番おいしい時です。熱々の味噌汁をいただくためにも、あらかじめ、椀は湯で温めておいてからよそいます。最後に七味唐辛子や粉山椒といった香りのものを振り入れると、風味が格段とアップします。七味唐辛子や粉山椒以外にも甘口の味噌には溶き芥子、魚や肉の味噌汁には薄く切った生姜、根菜類には柚子もよいでしょう。
  でも、一番大切なのは、食べる人のことを考えて、心を込めて作ることです。ご飯や汁は、「盛る」というより「よそう」といいます。この言葉には、「飾り整える」という意味があり、食べ物を美しく、おいしそうに整えるという日本人の気持ちが込められているのです。

調理師一年目の思い出
学生時代は入学と同時に全員同じ包丁を購入しますが、毎日使って研いでいると刃が減ってくるので、だんだんと物足りなく思えてきます。職員1年目、自分で選んだ包丁が欲しい!と思い立ちました。一人では不安だったので先輩達についてきてもらい、初めて包丁屋さんに行きました。何度も、手に取ったり、光にかざしてみたり……。自分なりに一生懸命選びました。家に帰ってからはうれしくてたまらず、取り出しては眺めていました。後輩から「新しい包丁が欲しいです!」という言葉を聞くと、この時の気持ちが懐かしく思い出されます。

日本料理 M.A.



このコラムのレシピ

コラム担当

レシピ 豆腐と若布の赤味噌仕立て

タイ語の話せる日本料理のおとうちゃん
人物 小谷 良孝
  辻調の御言持(みことも)ち
人物 重松 麻希
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