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連載コラム 和のおいしいことば玉手箱
日本には、昔から言い伝えられてきた「おばあちゃんの知恵袋」のような、食に関する言葉がたくさんあります。これらの言葉は、科学的にもきちんとした根拠があり、道理にかなっているということがほとんどです。ここでは、これらの食に関すること わざや格言などからおいしさを再発見してみます。
鴨が葱を背負って来る
鴨(かも)が葱(ねぎ)を背負(しょ)って来る 鴨(かも)が葱(ねぎ)を背負(しょ)って来る
解説

「鴨(かも)が葱(ねぎ)を背負(しょ)って来る」
 鴨が葱を背負ってやって来た、つまり鴨肉に葱までついて手に入り、すぐに鴨鍋が食べられるということから、相手の行動が自分の思惑通りで、都合がよいことを意味する。
 鴨が突然現われ、しかも葱を背負っていて、すぐに鍋にしてくださいといわんばかりである。こんなうまい話は、そうそうない。人がうまい話を持ってくる、おまけにその話の中には二重三重にうまい話が入っていることのたとえである。しかし、そんなうまい話は落し穴がないとも限らないので、用心することも必要だろう。
 鴨は冬に北方から渡来する代表的な渡り鳥であるが、さほど人を恐れない性質で、比較的容易に捕獲できることから、「鴨にする」「いい鴨」などといわれ、勝負ごと、賭(か)けごと、あるいは詐欺(さぎ)などで、食いものにするのに都合のよい相手を指して呼ぶことにも使われる。
 「鴨が葱を背負ってくる」のことわざのもとになった「鴨鍋」は、薄く切った鴨肉に、葱をたっぷり入れた鍋である。この鴨と葱の取り合わせは、非常に相性がよい。鴨は冬に脂がのって大変おいしくなる。この鴨が手に入る厳寒期に、葱はちょうど甘みと柔らかさが増す。わかめとたけのこの「若竹」、ごぼうとどじょうの「柳川」などに匹敵する、相性のよい出会いものといえる。

 特に現在、野生の真鴨は狩猟期間が決められていて、本州では11月15日〜2月15日までの3ヶ月、北海道では10月1日〜1月31日までの4ヶ月の限られた時期にしか手に入れることができない。このように、天然の真鴨は入手時期が限られる上に、獲れる量も少なく高価なため、料理屋では真鴨と家鴨の雑種である「合鴨」をよく利用している。

 最近、「合鴨農法」ということばをよく耳にする。水田にたくさんの合鴨を放って、合鴨に害虫を食べてもらい、泳いだり、くちばしで稲の根元をつつくことで耕してもらい、おまけに糞尿を肥料にもできるという仕組みである。鴨を水田に放飼する農法は、約400年前の安土桃山時代に軍略的な意味も含めて始まったようだ。豊臣秀吉が飛び立つ鴨の羽音で、敵の夜襲を知ることができるとして推奨したのである。この農法は近畿を中心に行なわれ、戦後は真鴨から家鴨に受け継がれていたが、農業の近代化にともなって時代遅れの農法として影をひそめていた。ところが昨今、農薬や化学肥料が人体に悪影響を与えるとして問題になり、昔ながらのこの農法を見直そうという動きが出てきた。そこで、真鴨や家鴨に代わって、合鴨を水田に放つようになったのである。この合鴨は稲が収穫されて役割を終えた秋には、食用として出荷されてしまう。何やらもの悲しく思えるが、自然に放ったりすると生態系が壊れるために、あえて食用とされるようである。

 今回の「鴨なんばんうどん」だが、関西では通常「鴨なんばうどん」と呼ぶ。では、「なんばん」と「なんば」の違いはいったい何なのか。漢字では、「南蛮」と「難波」と書くが・・・。

 「南蛮」という言葉はもともと、古代中国で周囲の異民族に対する蔑称として使われていたが、日本では狭義でポルトガルやスペインのことを指す語として使われてきた。それは、16世紀に種子島に漂着したポルトガル人や、キリスト教を伝えたスペイン人が、日本人にとってはじめて接するアジア人以外の外国人、つまり異民族だったからである。のちに、南蛮貿易を通じて新しい食べ物がもたらされ、唐辛子を「南蛮こしょう」、とうもろこしを「南蛮きび」、カステラやボーロ、金平糖などは「南蛮菓子」と呼ばれた。また、珍しい異国風の調理法にも「南蛮」の語が当てられた。たとえば、油で揚げるという手法はもともと日本にはなかったものなので、野菜、魚や鳥類などを油で炒めたり、揚げたりしてから煮たものが「南蛮煮」といわれたり、南蛮物である唐辛子や葱を加えて煮たものも同様にそういわれた。このほか「南蛮」は南方方面から渡来した異国人や物を総称したり、異風・奇異なものに至るまでかなり多方面に使われた。

 一方、「難波」という言葉は、大阪の古称である「なにわ(難波・浪速・浪花)」が変化したもので、現在は大阪市の中央区一帯を指して呼ばれている。一説によると、このあたりではかつて葱を多く生産していたために、葱を使った料理を「なんば(難波)」と称するようである。それならば、「鴨なんばうどん」と呼ばれるのもわかる。ところが、江戸時代に書かれたある書物を調べてみると、大坂(現在の大阪)の有名な青物類について産地別の名産が列記されており、それには天王寺の蕪、木津のにんじん、今宮の青葱と並び、難波村の大根やにんじんなどが有名と書かれている。しかし、そこには「難波の葱」とは書かれていない。摂津西成郡難波村は大坂近郊の畑場八ヶ村のひとつであり、稲作には不向きであったが、多くの野菜類はとれたようだ。ただ、葱の代名詞になるほどの葱が栽培されていたとは考えにくい。

 大阪人は「よろしおます」を「よろしおま」、「まいどありがとうございます」を「まいど」と言うように、とかく言葉の語尾を省略する習慣がある。多分、前出の「南蛮煮」も「南蛮(なんばん)」の語尾が詰まり「難波(なんば)」になったと思われる。

 今回の「鴨なんばんうどん」のかけだしに、かつお節と昆布でとった一番だしでは、あまりにも上品過ぎる。そのため、だし汁はうるめ鰯から作られたうるめ節を加えて少し煮出して、コクを出したものを使っている。また、合鴨胸肉についている、手羽の付け根の肉の部分をさっと熱湯にくぐらせ、味つけしたかけだしに加えて、かけだしから湯気が立つような火加減で、静かに沸騰させた状態をしばらく保つことで、コクとうまみが加わり、調味料は角が取れてまろやかな味わいになっていく。合鴨の肉は、片栗粉をまぶして熱いかけだしに加えることで、表面がコーティングされ、うまみの流出を防ぎながら、やわらかくさっと煮あげている。


このコラムのレシピ

コラム担当

レシピ 鴨なんばんうどん

タイ語の話せる日カレのおとうちゃん
人物 小谷 良孝
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