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連載コラム カフェ・マニアックス
ようこそ。ここは、コーヒー・フリーク専用のカフェです。
カフェ飯とか、お菓子とか、ワインとかで癒されたい方は、ほかのコーナーへ、どうぞ。
抽出・焙煎のノウハウ、栽培、産地、科学、歴史、伝説、耳寄りな話、ちょっとおいしい話、うわさ話、こわい話etc.……、コーヒーのフルアイテムをとり揃えてマニアックに語ります。コーヒー好きの方なら、プロ・アマ問わず満足していただけると……。
コーヒーのたどった道(2)
ブルボン、ロブスタ、そして再びモカ

もうひとつの道(ブルボン)
ブルボン(グアテマラ) 1715年、フランスはコーヒーの苗木をイエメンから持ち出し、インド洋上の火山島ブルボン島(現レユニオン島)への移植に成功、18世紀前半にはマルチニック、ハイチと並び称される一大生産地になります。19世紀から20世紀前半にかけてブラジルの主要コーヒー品種となったブルボン種は、18世紀後半にこの島から伝えられたといわれています。
 ブルボンは、後に歴史家ミシュレが「この火山の大地で育ったコーヒーは摂政時代、新たな精神の時代に投ぜられた爆薬である」というほどの存在でしたが、19世紀初めには名声はともかく、生産量はごく少なくなっていたようです。
 ブルボンはティピカに比べると小粒で、やや丸みを帯びた長方形の豆。ブラジルでは1960年ころまではほぼブルボン種。隔年収穫で生産性も悪いのですが、ティピカと同じく味・香りとも優良でブラジル、中米で復活の機運にあります。

災厄、そしてロブスタの登場
ティピカ(左)とロブスタ(右) 19世紀に入り、コーヒーが大衆化して、その需要が伸びるにしたがって、コーヒーの生産地域も拡大してゆきます。しかし、1861年、ウガンダ、エチオピアで発生したさび病(葉が枯れる病気、コーヒーの癌といわれる)は、1869年にスリランカ、インドを襲い1876年にはジャワ、スマトラに達して、これらのコーヒー大生産地を数年で壊滅させてしまいます。以後、スリランカは紅茶に切り替わり、ジャワ、スマトラも高地以外でのコーヒーの栽培を断念することになります。
 こうした事態を背景に、病害虫に強く、熱帯低地でも生産できるコーヒーとして登場したのが、ロブスタ種(カネフォーラ種の亜種)とリベリカ種です。両者ともに19世紀終わりに発見され、20世紀初頭から生産が始まった新しいコーヒーです。
 ロブスタはアラビカ種に比べ、角がとれたふっくらとした形状で少し慣れればすぐ判別できます。独特の煎り麦臭があり、酸味がほとんどないのが特徴です。西アフリカ、ジャワなどが主な生産地でしたが、近年はヴェトナムで大量に生産されています。一般的にはインスタント、あるいはブレンド用に使われ、アラビカに比べ低級品とされています。
 リベリカ種は特徴的なひし形の豆ですが、生産性が悪いためほとんど生産されず、主に交配用の種になっています。

再びモカを巡って
 モカをルーツとする、ティピカとブルボンが20世紀の初めまではコーヒーの大半を占めていたこと、そのため、たぶんコーヒーの価値基準の形成にモカを含む3つのアラビカの品種が大きな役割を果たしてきたこと、これは決してなおざりにできないことです。スペシャルティ・コーヒーを初めとする高級市場を見すえて、生産性を重視した改良品種をからティピカ、ブルボンに回帰しようとする農園が増えているのも、コーヒーの価値指標がここにあるからでしょう。
 一方、もし人類が最初に利用したコーヒーがロブスタであったら、低級品とされるこのコーヒーの評価がまったく違ったものになっていた可能性もあります。何がコーヒーらしいとされ、何がコーヒーとして美味しいとされるのか、こうした価値判断にコーヒーがどんな経緯をたどって現在に至っているかが大きく影響しているはずです。
 いま手に入るモカのコーヒー豆は、ものすごく怪しげで貧相です。立派な他のコーヒーに混ぜると大半はハンドピックされて捨てられてしまっても仕方がない、そんなコーヒーです。いつの時代も最高のコーヒーのひとつとして尊重されながら、19世紀半ばのフランスのコーヒー書「イストワール・デュ・カフェ」も、20世紀初めの「オール・アバウト・コーヒー」も、1980年ころ取材した日本のコーヒーの名店の店主も、みな昔のモカは良かったと口を揃えます。短絡的に考えると、モカの品質はどんどん悪くなっていることになるのですが・・・。
 たぶん原初のモカも同じような姿だったのではないか、つまりもともとコーヒーは怪しげな物として人間の前に在ったのではないか、そんなことを想像しながら、先人たちに倣って私も、昔のモカは良かった、などと言っておきます。

写真・生豆提供:バッハ・コーヒー


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