なぜ、ポトフは一挙両得なのか?それは、一度作ったら二度おいしい料理だからです。ポトフからは2皿の料理ができます。一つは滋味深い味わいのスープ。本場フランスでは、このスープに、煮る時に出た脂を薄く切ったバゲットに塗ってトーストして添えたり、スープだけを単独で提供する場合は、浮き実(野菜や麺類など)を添えたりします。もう一つは野菜をつけ合わせた肉料理になります。このゆでた肉には粗塩、マスタード、ピクルス、ソース・レフォール(西洋わさびと生クリームを合わせたソース)などが添えられたりします。
薬味にはフルール・ド・セル(塩の花という意味)という最初に塩田の表面に結晶化する塩が、高値ですがお勧めです。この塩の甘みが肉や野菜の味をぐっと引き立ててくれます。 |
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ポトフの古典的な作り方では、牛肉か、場合によっては家禽(鶏など)が使われますが、フランスの一部の地方では子牛、豚、さらには子羊などを使うことがあり、冬になれば、星付きのレストランでも様々な高級食肉を使った「ポトフ仕立て」の料理をよく見かけます。料理そのものは家庭料理ということもあるせいか、不思議なものですが、ビストロとかブラッスリーではあまり見られません。
フランスでポトフを注文する場合、ひとつ気をつけなければならないことがあります。メニューを見ても、「ポトフpot-au-feu」という名前だけでは探せないかもしれないからです。店によっては、「プティット・マルミットpetite marmite」か、材料を限定した場合は、「ポテpote」(主に豚肉とキャベツを使用)とか「プ・ロ・ポpoule au pot」(メインが鶏に限定される)などの名前で出ているので注意が必要です。 |
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私自身がポトフにかかせないと思っている材料に、豚肉の加工品(ベーコン、ソーセージなど)があります。あの表面の燻した香りは、スープにアクセントをつけます。あとは牛肉の自家製加工品です。これが今回紹介するポトフの大きなポイントとなります(内容はレシピで確認ください)。このような加工肉の使い方は、フランスで研修していた店で教わりました。その店は先代がシャルキュトゥリ(豚肉加工品店)だったらしく、店の地下にはその工場と保管庫が残っており、今でも年に5〜6回はそこで豚をと畜し、全ての部位を捨てることなくソーセージ、ベーコンなどに加工しており、運のいいことに、私もその場に立ち会えました。作りたてのブーダン・ノワール(豚の血で作ったソーセージ)の味は今でも忘れられません。 |
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話が飛びましたが、これまではフランスのお話。ここからは現実的な話をしていきます。日本で、冬に体が温まり、鍋、とくれば、このポトフに匹敵する料理はやはり「おでん」でしょう。ただ、おでんをまともに作ろうと思ったら結構大変だと思いませんか?まずは出しを引くことから始め、具材は一つ一つを別に下準備し、最後にやっと一つの鍋に全ての材料を合わせて煮るからこそ、あの旨さがかもし出せるのです。今回のポトフの作業量の少なさといったら、このおでんとは比べものになりません。簡単すぎてびっくりされるかもしれません。 |
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なにはともあれ、鍋一つでできるというお手軽さ。しかもキッチンを汚さずに、おいしく、本格的なフランスの味をだせるとあれば、調理人と主婦という2足のわらじをはく私としては、「時には、ちょっとおしゃれな料理を作りたい」と思っている世間の奥様方にぜひお勧めしたい一品です。このお手軽鍋料理にバゲットとチーズ、赤ワインがあれば、寒い夜の演出はばっちりです。
メインとスープができちゃう「一挙両得」。この料理について考えれば考えるほど、手軽で無駄のないあまりの完成度の高さに感心してしまいます。 |
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