近頃はイタリア料理の風に押されてフランス料理が低迷していますが、少しずつ新しい風が吹き始めているようです。ここでは、フランス料理に日本料理の素材を取り入れて新しい味の組み合わせを生み出そうとする試みを中心にみてみようと思います。 |
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まず、アメリカはニューヨークで2軒のレストランを持っているデイヴィッド・ブーレイ氏の料理を紹介しましょう。このシェフは2002年に来日して、本校で講習会を開きました。その時の印象では、彼は、素材からリデュースされたものを集めて、最終的に実現したい味に向けてそれらを組み合わせていくという手法をとっていました。料理を自分で一度分解して味や香りの決め手となる要素を別々に取り出し、改めてそれらを組み立て直すという試行錯誤を何度も繰り返しながら料理を完成させています。
そのようなブ−レイ氏が取り入れている日本の食材は、ねぎ、ゆず、白ごま、木の芽、穂じそ、しょうがなど、どちらかというと香りづけのものが主でした。これら日本やエスニック、あるいは中国料理などの素材を斬新な発想で取り入れて複雑で洗練された味わいの料理に仕上げているブーレイ氏は、ニューヨークでトップシェフの座を守り続けています。 |
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それでは、日本のフランス料理界ではどうでしょうか。和食の素材を味や見た目を含めて、いかにしてフランス料理にうまく取り入れていくかを模索しながら生み出した料理を提供しているレストランが多いように思えます。
たとえば、牛乳にスモークをかけてトロっとさせ、わさびを少し加えてミキサーで泡立てたものを、ラングスティーヌのカルパッチョにかけるというオードブルがあります。あるいは、料理に添える野菜に、日本の洋野菜だけではなく和食の野菜である京にんじん、山芋、さつまいも、小いも、オクラ、大根、れんこん、水菜、菊菜などを選んでフランス料理風にアレンジしたり、またソースにも日本の調味料である醤油はもちろん味噌、梅肉などを使って、今までのクラシックなフランス料理を原点として新しい食材だけを求めていた時代とは少しスタイルの違った、異文化圏の料理を融合させようとするフュージョン的な料理が出てきているように感じられます。 |
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このような日本の傾向は、フランス料理の伝統的な料理法の枠から飛び出て、広い意味でフランス料理と呼べる料理を作る若い料理人が増えてきたからではないでしょうか。一口にフランス料理といっても、各国の料理のいいところを取り入れてフランス料理のエスプリでまとめようとする人、伝統を忠実に守る人、常に新しい発見を求めて進む人など、アプローチの仕方やコンセプトに個性をあらわしながら料理を作る人が多くなってきた結果だと思われます。 |
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さて、ここでは、和の食材との新しい味の組み合わせの例として、ひじきを使ってみました。ひじきをピュレにして、フランス料理の基本的な白ワインベースのソース(ここではヴェルモット酒を使っています)と合わせてみました。 ひじきの姿や形、口当たりはどこにもないのに、海藻独特の磯の香りがするのが特徴です。このソースは魚料理と合わせると結構いけると思います。他にも、このひじきのピュレをポルト酒とフォン・ド・ヴォを煮詰めたソースに加えると、豚肉などの肉料理にも合うのではないでしょうか。 |
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