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連載コラム 日本料理一年生
辻調の日本料理の先生たちにも、調理師一年生の時代がありました。どんなに教え上手の先生も、一年生の時には分からないことだらけで、失敗もたくさんしたのです。そんな時代を振り返り、「日本料理一年生」のみなさんに、できるだけ分かりやすく、本物の日本料理について解説してみようと思い立ちました。「こんなにおいしいものが自分で作れるのか!」という新しい発見と喜びがきっとあるはずです。
15時間目 揚げ煮
揚げ煮
  魚の煮物、第三弾は「揚げ煮」です。これは、「煮付け」や「あら煮」に比べると、比較的失敗が少ない煮物といえます。生の材料を前もって油で揚げてから煮ると、鯵のような背の青い魚は、独特のくせが香ばしさに変わってくれます。また、油で揚げると材料の表面が固まり、「煮付け」や「あら煮」より煮崩れを防ぐことができます。
  「揚げ煮」は、魚や肉類以外にも、なす、かぼちゃ、くわい、芋類などの野菜や豆腐にも適しています。野菜類や豆腐は、そのまま油で揚げて火を通してから煮ると、こくが加わっておいしい煮物になります。でも、材料にたくさん油分が付着していると、味がしつこくなったり、調味料の染み込みが妨げられたりするので、熱湯をかけて表面の油分を洗い落とします。この操作を「油抜き」といいます。
  魚や肉類は、旨味を封じ込めるため、表面にでんぷん質の粉(小麦粉や片栗粉など)をまぶし、揚げた後で煮ることが多いようです。この場合、でんぷん質の粉が材料の中まで油が浸透するのを防いでくれるため「油抜き」はしないことが多いです。このように「揚げ煮」という料理は、ほどよく脂分が加わり、香ばしくておいしい料理なのです。
  私が、在タイ日本大使の公邸料理人であった時、現地のお客様の設宴には、この「揚げ煮」が大変好評でした。そもそも魚というものは、寒くなると人間が洋服を着込むように、脂肪分を蓄積して寒さから体を守っています。このため、寒ぶりや寒びらめ、寒ぼら、寒ぶななど、冬の寒い頃に獲れる魚は、脂がのっておいしいとされます。ところが、タイという国は皆さんご承知のとおり、東南アジアにあって年間を通じて昼間は30℃をこえる暑い国です。こういう地域で獲れる魚は基本的に脂がのっていません。そこで、油で揚げてから煮る「揚げ煮」はほどよく油分が加わっておいしかったのでしょう。
  タイで獲れる魚は、煮ても焼いても身がパサパサしていて、私にはあまりおいしいとは思えませんでした。こういう理由からでしょうか、日本食レストランでは、脂ののった鮪のトロやぶりが日本から輸入されていて、タイのセレブ達には人気です。しかし、造りが一人前2,000バーツ(日本円で約6,000円)もするのです。屋台で30バーツ(日本円で約90円)程度のラーメンやカレーを食べている一般庶民には、高嶺の花です。そこで一般のタイ人が日本食レストランで注文する人気メニューは、ノルウェーから冷凍輸入した脂のたっぷりのった鯖を、たっぷりのバターで焼いた鯖ステーキや、フライパンで焼き上げる甘辛い味付けの鯖照り焼きです。私も、鯖ステーキを一度食べましたが、脂の塊を口に入れているような感じで、いくら私が脂っこいものが好きであっても、あまりのしつこさに1/3程度でギブアップしてしまいました。
  今回ご紹介する「揚げ煮」は、仕上げに大根おろしを加えているので「おろし煮」と名づけています。揚げた鯵の切り身に煮汁が大根おろしによってしっかりと絡まり、天ぷらを天つゆで食べるようにさっぱりと食べられます。
  「揚げ煮」は「オランダ煮」ともいわれます。オランダは鎖国している江戸時代に国交のあった国で、長崎に伝わったヨーロッパの調理法です。それまで日本ではあまりなじみのなかった調理法で、油を使って揚げたり、炒めたりしてから煮る方法を「ヨーロッパ風」という意味で「オランダ煮」というようになったようです。


調理師一年目の思い出
  初めて教壇の助手をした時、担当の先生が話をされている間、魚を焼いておくように頼まれました。何度も経験して十分理解しているはずなのに、いざ教壇に立つと緊張してしまい、自分が何をやっているのか分からなくなり、大失敗してしまいました。この経験から思うのは、頭が緊張していても、体が自然に動くよう、技術は体で覚えなくてはならないということです。

日本料理 H.Y.



このコラムのレシピ

コラム担当

レシピ 鯵おろし煮

タイ語の話せる日本料理のおとうちゃん
人物 小谷 良孝
  辻調の御言持(みことも)ち
人物 重松 麻希
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