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連載コラム Food風土エスパーニャ
ここ数年、世界のグルメたちが注目しているスペインの食事情。進化するヌエバ・コシーナ・エスパニョラ(新スペイン料理)、スペインワインのイメージを一新するボデガ(ワイナリー)、変容するタパス(ピンチョス)と、話題には事欠かない。先頭を切るのは若い世代のニューリーダーたち。しかし、器は変わってもそこにはいつもスペインのエスプリが潜んでいる。いまやフランスやイタリアにまで強い影響を及ぼし始めたスペイン料理、その今を取り上げる。レシピでは、筆者がおすすめするスペインの代表的な家庭料理を紹介。
ARZAK (アルサック)〜新時代のバスク料理
 バスク地方の中心サン・セバスチャンSAN SEBASTIANは、19世紀の終わりから20世紀の初めに王族の保養地として栄えた場所です。帆立貝の貝殻のように湾曲したコンチャ湾bahia de la Concha沿いにひらけた街は、スペインでも美食の街として知られています。料理の中心は、なぜマドリッドで無くここなのか。それは、スペインに4軒ある3ツ星のうち2軒がここにあるからです。また、サン・セバスチャンは、最近日本でも知られてきたピンチョスPINCHOSの本場でもあります。

レストラン外観  そのサン・セバスチャンに、16年間3ツ星を守っているレストラン『アルサック』があります。シェフのファン・マリ・アルサックJuan Maria Arzakは、現在のスペインを代表する料理人。ボキューズ・ドールのスペイン代表の審査員を務めたり、スペイン料理の後継者養成を目的として、国内外のたくさんの調理師学校の研修生も受け入れ、講演や催し物の世話役、本の出版と精力的に活躍しています。また、バスク地方の伝統料理を守る一方で、1970年代後半にヌエバ・コシーナ・バスカ(新バスク料理)を提唱した一人でもあります。

ファン・マリ・アルサック 100年以上続くレストラン『アルサック』の始まりは、現シェフの祖父母が営む小さなバールでした。この店を彼の父母がレストランに改造し、母親がシェフとして伝統的なバスク料理を出して評判を呼び始めます。ファン・マリが9歳の時に父親が亡くなりましたが、母親は悲しむ間も無く一人でこのレストランを盛りたて、婚礼パーティーや宴会が出来るほどに育て上げました。ホテル学校と兵役、外国での研修を終えたファン・マリは、1966年頃から店を手伝いはじめます。かつては家業を手伝うつもりの無かった彼ですが、母親の付きっきりの懇切な指導と周りの影響によって料理に目覚め、持ち前の好奇心と探究心で新しい料理を創作するまでになり、その評判は高まっていきました。


卵の花仕立て、ガチョウ脂風味のトリュフ、ダット入りチョリソのムース添え
FLOR DE HUEVO Y TARTUFO EN GRASA DE OCA
CON TXISTRRA DE DATILES
卵の花仕立て、ガチョウ脂風味のトリュフ、ダット入りチョリソのムース添え
《半熟卵とトリュフ》《チョリソとパンとベーコン》と言う伝統的組み合わせを再構成した料理。卵は白トリュフオイルとガチョウ脂とともにラップで包んでゆでてある。卵の下のパラパラが、チョリソとパンとベーコンを炒めたもの。横のクリーム状はデーツとチョリソのムース。スプーンの上は季節のきのこ。


色が変わるヤリイカのスープ
CALDO DE TXIPIRONES EAMBIANTE
色が変わるヤリイカのスープ
ゼラチンで固めた新鮮なイカスミでかぼちゃを包む。皿を客席に運んでから、お客の目の前でスープが注がれると一瞬にして鮮やかなオレンジ色が現れる。


客席 『アルサック』は1989年にミシュランの3ツ星を手に入れました。他の3ツ星のレストランと比べて外観や内装はやや見劣りするものの、かつてと変わらず暖かい家庭的な雰囲気を感じさせてくれます。地元の人が気軽にバーでお酒を飲み、気を張らずに食事そのものを楽しめる店。サーヴィスを担当するのは、もう何十年も勤めていると思われる女性です。ここバスクでは女性のサーヴィスが多く、これはバスクの伝統だそうです。黒いワンピースにレースの胸当てのついた大きなエプロンは他のレストランでもよく見かけます。私が訪れたときは、ソムリエ以外の男性サーヴィスは一人も見かけませんでした。ウェイティング・バーの彼の本が展示販売されているスペースの隣には、彼が推薦するサン・セバスチャン周辺のピンチョスの店の紹介ペーパーが置かれていました。自分たちができる形で地元へ貢献。この土地にこだわるファン・マリの姿勢が見られます。

桃とメロンのスープ 伝統的なバスク料理に、新しい要素を取り入れる。ファン・マリの提唱した「新しいバスク料理」とは、バスクの材料でバスクの調理法をベースに開発するものです。今は姿を消してしまった素材や料理、技法を見直し、料理に組み込んでいく試みであって、新しい素材や新調理法に手放しで飛びつくものではありません。その彼の料理が、1990年代半ばから、さらに形を変え始めました。それは、『エル・ブリ』の登場と、娘のエレナElenaがいっしょに料理をするようになったからです。

エレナ・アルサック 4代目にあたるエレナは、フランスのグラン・メゾン(有名レストラン)で修業し、8年ほど前から『アルサック』の調理場に入り、現在はシェフを務めています。英語、フランス語をはじめ6ヶ国語を話す小柄で聡明な才女です。彼女の料理は、フェラン・アドリア(『エル・ブリ』)の影響を強く感じさせながらも、彼とは違う路線を歩んでいます。ポリシーは「創造的で美味しい」。ゼラチンや寒天の使い方、色々な材料を粉末にして調味料として用いる独特のテクニックに、彼女の個性が表れています。今、ヨーロッパで注目の新しいジェネレーションの女性シェフと言えば、フランスのレストラン『ピック』のアンヌ・ソフィー・ピックと、エレナ・アルサックでしょう。エレナの新しいセンスと、それを受け入れてさらに進化するファン・マリの柔軟な精神は、バスク料理に再び新たな局面をもたらしつつあります。

Restaurant ARZAK
Alto de Miracruz 21, 20015 SAN SEBASTIAN
Tel:(34)943 27 84 65  http://www.arzak.es/


このコラムのレシピ

コラム担当

レシピ パエーリャ

辻調グループ校 西洋料理教授
人物 肥田 順
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