STEAM教育チャレンジ(8)大分県「宇宙と科学の高校生シンポジウム」~月産食材×大分特産品で月面メニュー開発に挑戦!~
辻調理師専門学校は東京学芸大学と連携してSTEAM教育に取り組んでいます。
STEAM教育チャレンジ(1)~(6)は東京校、(7)は大阪校での取り組みでしたが、今回は大分県での学外教育プログラムのレポートです。
2023年1月28日(土)大分県教育センターにて「宇宙と科学の高校生シンポジウム(SSHS)」が開催されました。このシンポジウムは、スペースポート(宇宙港)の設置計画を推進中の大分県が、すべての大分県内の高校生を対象に開催した教育イベントです。
午前中は、「宇宙とSTEAM教育の未来」と題されたトークセッションがあり、続いて、約半年間、学校や学年の枠を超えた高校生たちが"実社会"に結びついた社会課題の探究を行ってきた成果の発表会があり、さらに、アメリカ航空宇宙局(NASA)から第一線で活躍する日本人技術者の方を招き、世界の宇宙産業の"いま"を語ってもらう特別講演がありました。
そして午後は、高校生たちが4つのグループに分かれてのワークショップで、宇宙開発にともなう様々な問題の解決に向けて、STEAM教育の考え方を取り入れて、チャレンジするという、とてもアクティブな内容でした。辻調グループからは、西洋料理 秋元真一郎先生、日本料理 野中覚先生、教育研究センター 山田研先生、迫井が講師として参加し、「月産食材×大分特産品で月面メニュー開発に挑戦!」というワークショップを実施しました。そして、辻調グループ以外も、「ロケットを飛ばそう!」、「VR体験を通して、宇宙での微小重力実験を考えよう!」など、宇宙に関する誰もがわくわくしそうなワークショップが繰り広げられ、高校生たちは自分の希望するワークショップへとそれぞれ参加しました。
ところで、辻調グループは昨年度に続き、今回2回目の同イベントへの協力 となります。昨年度は、「月面料理人になろう!~」というタイトルのワークショップを担当したのですが、コロナ対策のため、対面ではなく、オンラインでの実施となり、後日受講した生徒さんにレジピを提出してもらうという形になりました。しかし、今年度は、高校生の皆さんと対面し、調理実習もあるフルバージョンのワークショップが開催できました。以下が今回のSTEAM教育を取り入れたワークショップの概要です。
~設定ストーリー★大分の友人が月面生活者に~
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時は西暦2035年、大分で育った皆さんの友人が、月に飛び立ち生活し始めて、半年経った頃です。そろそろ、大分の料理が食べたくなってきているかもしれません。そして今回、皆さんは友達に自分たちの考案した料理をプレゼントできる機会を得ました。月面で提供するにふさわしい料理であれば、皆さんは友達にプレゼントして食べてもらうことができます。
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というような設定で、STEAMの7つのステップを活用して、「大分食材×月産食材」で大分らしい宇宙食を考案していきます。ちなみに、「7つのステップ」とは、東京学芸大学との連携の中で培われた、私たちがSTEAM教育を実践する上での基本的な考え方です。
↓↓野中先生の熱演、月面ストーリーに耳を傾ける高校生の皆さん
〜月面料理提供のための7つのステップ〜
1.私にとっての「ありたい姿」を描こう
「あなたはどんな料理を友達にプレゼントしたいですか?」
「料理を通してどんなことを友達に伝えたいですか?」まずは自分の思いを描いてみましょう。
2.私たちにとっての「ありたい姿」を描こう
グループメンバーでそれぞれ発表し合い、共感したり、納得したり、疑問に思えば質問しながら、「月面で生活する友達にどのような料理をプレゼントしたいのか、料理を通して何を伝えたいのか」私たちにとっての、思いを描いてみましょう。
3.現状を認識する
「月面で生活する友達に料理をプレゼントする」ということを実現するために、まずは現状の宇宙食のことや、月面での食事環境のことを知ることが大切です。それらについて調べてみましょう。
・現在の宇宙(日本食)はどうなっているか?
・どのような種類があるか?
・どのような食べ方か?
・どのような残渣やごみの処理か?
・食事について、地球と月とで違いはあるか、あるならどんな違いか?
↓↓現在の宇宙食や宇宙日本食、そして常温保存可能なそれに近しい食品たち
4.問題を特定する
「私たちのありたい姿」と先ほど調べた現状とのギャップから、現実の問題を特定します。つまり、私たちが「月面で生活するみんなにプレゼントしたい料理」と「月面で提供する料理に求められている条件」のギャップを見つけ出します。
・月面で提供できる食材や調理法でできる料理か?
・月面で生活する友達に、健康的においしく食べてもらえる料理か?
5.問題の原因を探究する
問題の原因を探るため、「なぜ?」などの問いを立て、データを集めたり、分析したりします。
・なぜ月面でこの食材や調理法の料理は提供されていないのか?
・どこに衛生的に問題がありそうか?
・栄養的にどのような問題がありそうなのか?
6.課題を設定する
問題の原因を踏まえて、「私たちのありたい姿」に向けて、どのような〇〇であるべきか、などの問いを立て、その問題を解決するための効果的な課題を設定します。
・月面では、どのような料理が提供されるべきなのか?
・その提供のために私たちは何ができるか?
7.課題を解決する(現状を認識する)
実際に、創造したアイデアをプロトタイピング(試行・試作)し、失敗したら、原因を探究して、探究と創造を繰り返します。
・月面でこの食材を提供するためにはどうしたらよいのか?
・月面でこの調理法を利用するにはどうしたらよいのか?
・月面で安全で健康的な料理を作るにはどうしたらよいのか?
今回、月面での料理提供までをこのようなSTEAMの7つのステップにまとめて皆で考え方を共有しました。
↓↓メニュー考案について紹介する秋元真一郎先生。高校生の皆さんに加え、教育関係者も共に学びます。
今回はこの7つのステップをぐっと圧縮したプログラムを疑似体験してもらう「ワークショップ」を実施しました。具体的には、「大分食材×月産食材で新月面メニュー開発に挑戦しよう!」のタイトルの元、大分の郷土食「じり焼き」を調理実習で作りました。「じり焼き」には、同郷の友人に、大分を思い出して、ホッと心が和んで欲しい、そんな思いが込められています。
ところで、「じり焼き」とは、豊後大野市をはじめ、大分市近郊、県内全域で食べられていた、小麦粉と水をゆるく溶き合わせ、焼いて食べるおやつです。黒糖で味付けするのが一般的のようですが、サツマイモやカボチャなどの餡を包んで食べることもあるとか。聞いただけでも、素材の味を生かしたおいしいおやつであることが想像できますね。中にトッピングする具材次第では、おやつにも食事にもできそうです。ちょうどクレープのような存在ですね。
また、今回、「大分県の特産品」として選定したのは、地元企食品メーカーさんの「鹿肉の赤ワイン煮」と「猪肉のサムライ煮」。大分県の緑豊かな肥沃な山々で地元の猟師さんが仕留めた鹿肉や猪肉を、じっくり煮込んだ、常温で保存、流通可能なジビエのレトルト食品です。田畑を荒らしてしまうことから、捕獲されることの多いジビエ(鹿や猪)ですが、命あるものとして美味しく食べてあげたいですよね。また、鹿肉は鉄分も豊富で、とても栄養価の高いお肉なので、限られた食材になりがちな月面ではきっと大活躍してくれること間違いなしです。その他にも「しいたけ」、「すだち」、「みかん」といった「大分県の特産食材」を揃えました。
次に「月産食材」です。現在、8品目の食材を月で栽培することが予定されています。その8品目とは、「米」、「レタス」、「さつまいも」、「じゃがいも」、「大豆」、「トマト」、「きゅうり」、「いちご」で、今回その中から「さつまいも、いちご、しいたけ、大豆」の4種を利用しました。
↓↓月産食材8品目。月で栽培できることが分かっている食材です。
さあ、いよいよ「じり焼き」の調理実習です!7つのステップでは「試行・試作」を繰り返して課題解決を図る最後のステップです。と、そこで、使用する調理器具について秋元先生より一言アドバイスがありました。「月面では、水はとても貴重な存在です。地球では何気なくやっている洗い物も、水を使用しますよね。月面では極力少なく抑えなければなりません。そこで今回考案したのがこちら。」何とペットボトルを利用する方法でした。水の入ったペットボトルに粉を入れ(水は一部、他で使用し、粉を入れる空間ができたもの)、皆でシェイクして、そのままフライパンへ流し込みます。これなら、通常使用するボウルや洗いにくい泡だて器も使用せずに済みますね。
↓↓洗い物を少なくする工夫。ペットボトルをシェイクします。
次は、フライパンで焼く工程ですが、皆、楽しそうに焼いています。思わず笑顔がこぼれます。調理する側も笑顔になる、それもまた大切なことですよね。
↓↓上手にひっくり返せました。月は1/6Gなので、ゆっくり舞い、ゆっくり降りてきそうですね。
生地が焼きあがったら、好きな具材をトッピングし、くるくるっと巻いて完成です!食べる際にも、洗い物をできるだけ出さないよう、紙の包装紙にスルッと上手に滑り込ませ、皆でおいしく、笑顔で試食しました。中には、はじめての具材の組み合わせにチャレンジした生徒さんもあり、新たな味の発見に、何とも言えない、いい表情で!試食してくれました。「月面で暮らす友達もホッと心が和んでくれるかなぁ」
↓↓完成した「じり焼き」。トッピング次第でいろいろ楽しめそうです。
↓↓お肉とフルーツを合わせたようです。
初めての味に驚いたようですが、実際、そんな味の料理もあるので今回いい経験になりましたね!
試食の後は、グループで振り返りです。改めて「大分の特産品×月産食材×大分の郷土料理」について、ディスカッションしてもらいました。「やせうま」、「とり天」、「団子汁」、「ホットできる=あたたかいもの」など、様々な意見があがっていました。プロトタイピング(試作)を経て、創造~探究に更にチャレンジして欲しいと思います。
↓↓振り返りのディスカッション。創造と探究を繰り返します。
大分に限らず、全国各地に郷土料理は存在します。今回のSTEAMを活用した月面メニュー、ぜひ他の都道府県の皆さんともチャレンジしてみたいです!大分県の高校生の皆さん、教員関係者の皆さま、ありがとうございました!
辻調理師専門学校 迫井千晶