調理外来講習 M. Philippe MILLE(フィリップ・ミル氏)/ Les Crayères(レ・クレイエール)
今回、外来講師としてお越しいただいたのは、シャンパーニュ地方Reims(ランス)にある高級ホテル、Les Crayères(レ・クレイエール)のミシュラン2ツ星のメインダイニングレストランLe Parc(ル・パルク)でシェフを務めるフィリップ・ミル氏です。
ミル氏は、パリの有名レストランで経験を積んだ後、2009年にボキューズ・ドールにフランス代表として出場し、3位を獲得。2011年にはM.O.F.を受章。同年にLe parcを1ツ星へ、翌年2012年には2ツ星に昇格させるという実績をお持ちです。
また、毎年ランスで行われている、世界の調理師学校の学生を対象とした国際料理コンクール「トロフェ・ミル」の代表者として、若手料理人育成、ランスの生産者との交流にも注力されていることでも知られています。 今回、長年シェフの右腕として働かれているフランス校卒業生の日本人シェフの馬場さんも一緒にお越しいただきました。
今回は2品作成していただきました。
LOTTE ECARLATE VEGETAL CARMIN
1品目はアンコウを使った魚料理でテーマは『赤色』です。
今回使う食材はアンコウ、ビーツ、ラディッシュ、赤玉ねぎ、ぶどうです。
まず、メインのアンコウは筒状にポーションカットし、余った端はソースに使います。
ソースは鍋に有塩バターを入れてアンコウの端をしっかり色づくように炒め、焼き油を取り除きます。ロゼシャンパーニュを入れ、鍋底のうま味をこそげ取ります。ビーツのジュースと赤ワインを加えます。焼いたアンコウとハイビスカスを入れソースにうま味を移します。そこに煮詰めたビーツのジュース、シェリー酒酢、トマトウォーターを加え、最後に赤ワインの澱のピューレを加えて、すぐに漉します。
鍋に有塩バターを入れ冷蔵庫から出したての筒状のアンコウを入れます。すぐにソースを入れ、アンコウにまとわせるようにオーブンで中心温度が32℃になるまで火を通します。時々アンコウの上下を変えて均一にソースをまとわせます。
火通しの温度を確認できたらアルミホイルで巻いて形を整えるのと、反射熱で中心温度が37℃までゆっくりと上がるように温かい所で休ませます。
仕上げにソースを煮詰めて濃度をつけ、アンコウの温めと同時にソースを周りにまとわせます。
つけ合わせに移ります。
① ビーツはバンド状にしたものをタリアテッレに見立てます。ビーツのジュースにネパール山椒を加えた液体で歯ごたえを残すように火を入れます。次にビーツの端でピューレを作ります。エスプレット唐辛子、焦がしバター、赤ワインの澱のピューレ、シェリー酒酢を加えます。
② ラディッシュはロゼシャンパーニュとハイビスカスで食感が残るように火を通し、液体から出します。そのラ ディッシュにオリーブ油、シェリー酒酢、エスプレット唐辛子で味付けしピクルスにします。液体はアガーアガーを加え濃度をつけピューレ状にします。
③ 赤玉ねぎはくし切りにしてはちみつとシェリー酒酢でピクルスにします。
④ ぶどうは皮を剥きボールに入れ塩と黒こしょうを加えます。鍋に未熟のぶどうジュースと皮を入れて沸騰
させ、ぶどうの入ったボールに液体を注ぎピクルスにします。
⑤ 香草のオイル
このたくさんあるパーツを組み立てて1品が完成します。テーマとメイン食材の特徴を捉え、良い部分を最大限に生かし、たくさんの細かいパーツも丁寧な作業で下処理をしていました。
研究生たちは細かい手元の作業を食い入るようにテレビ画面を真剣に見ている様子やシェフの作業の素早さに驚いていました。
CHEVREUIL R0TI AUX HERBES SECHES RED MEET CUBIQUE, GOLDEN A L'OR ROUGE
2品目は鹿を使った肉料理でテーマは『秋から冬の色彩をイメージ』です。
まず、メインの鹿肉は背ロースの部位を使用します。鹿肉を赤ワイン、シェリー酒酢、シェフの独自の配合で作った混合スパイス(カルダモン、八角、コリアンダー、花椒)を常温の温度帯でマリネします。肉の下処理で出た、骨や余分な肉はソースに使います。
背ロースはマリネした後、全面がしっかり色がつくように油で焼き、風味を良くするためバターを加え、焦げない温度帯でロゼに仕上げます。時々手で肉を触って焼き具合を確認し、焼き上がればアルミホイルで包み温かい所で休ませます。
次にソースです。鍋にバターを入れ骨と余った肉をしっかり焼き、余分な焼き油を取り除きます。そこにロゼシャンパーニュを加え、うま味をこそげ取ります。背ロースをマリネしていた液体を入れ煮詰めます。別の鍋に焼いた骨と肉、ビーツの煮詰めたジュースを入れキャラメル状に絡むように炒めます。ここに鹿の出し汁とアルコールを飛ばして煮詰めた液体を加えさらに煮詰めて漉します。
もう一つのソースは、鹿肉の仕上げに使う混合香辛料とはちみつ、白ワイン酢のソースです。
鹿肉の表面に香辛料のソースをかけオーブンで温め、食べやすい大きさにカットします。
次につけ合わせに移ります。
① マンゴーのピューレを入れたピンクのキューブとピンクのピューレです。鍋に砂糖を入れキャラメル状になればシェリー酒酢、角切りのマンゴー、花椒を入れ弱火でコンポート状になるまで火を通します。最後に野菜の出し汁とアガーアガーを入れてしっかり火を通し、キューブ状のシリコンシートに入れ、凍らせます。
次に紅心大根をキューブの幅に合わせてバンド状にカットします。そこに白ワイン酢、リュバーブのワインを温めたものを加えピクルスにします。紅心大根でキューブを包み温かい場所に置きます。残った液体にアガーアガーを加えピューレ状にします。
② 大根サフランです。大根をバンド状にし、空洞がないように再度丸く巻きます。そこに野菜の出汁、サフランを温めた液体を入れて食感を残した状態で火を通します。液体が軽く沸騰すれば常温で大根が黄色になるまで置きます。
③ マンゴーのピューレです。鍋に鴨の脂とマンゴーの端を入れしっかりと炒めます。次にサフラン、混合香辛料を加え香りを出し、白ワイン酢、ロゼシャンパーニュ、野菜の出し汁を入れピューレ状になるまで火を通し漉します。甘味が強いのでレモンコンフィの液体を加えて味を調え、濃度が足りない場合はコーンスターチを入れ濃度をつけます。
④ 香草のオイル
それぞれのパーツを盛りつけて完成です。
今の季節の雰囲気にピッタリのジビエ料理と温かさを感じる色彩の美しさが目を惹く素晴らしいお皿だと感じました。
シェフは作業中にアシスタントをする研究生に名前を聞き、その名前を呼んで指示をしてくれていました。アシスタントの学生もシェフとのコミュニケーションに慣れ、積極的に動けるようになってきました。
初めて見るたくさんのテクニックに学生の質問が止まりませんでした。
その中でも、新しい料理を作る時に大事にしていることは?という問いに
① まず味!次にテーマに沿って美術のように描き、たくさんの色を使うことで食べる前の印象を目から伝えるように工夫する。
② 素材の味を最大限生かすように調理法を考える。
③ 口の中で様々なテクスチャーを感じられるようにする。生き生きとしたメリハリのある料理になり飽きないように。
この3つのことをアドバイスしていただきました。
ひとつひとつの回答に理由を説明いただき、説得力のある講義を受けられて新たな刺激になったと思います。本科授業や卒業制作に向けてこの考え方を生かし、より良いシャトー生活が送れるといいなと感じました。
最後にミルシェフ、馬場シェフ、アシスタントを務めた研究生と記念写真を撮りました