肥田 |
みんなそう思ってるって・・・この料理は実はピラミッドで出していたとか。ボキューズはポワンに教わってきたのかな。 |
杉山 |
初めのころはムースではなくて、香草をはさんだだけでパイに包んでいたらしい。それでソース・ショロンでなくて、ブール・ブランのような簡単なソースを添えていたのを、だんだんかえていったみたい。そういう変化にボキューズの料理に対する考え方が現れていると思うな。どうやって客を驚かしてやろう、楽しませてやろうかという遊び心のようなものが料理をエスカレートさせていくのを感じますよ。 |
肥田 |
いろいろなレストランに研修にいって、いろいろ経験したけど、ボキューズは仕事がきついのがナンバー1か2に入るんじゃない
かな。この料理のすずきの下処理もたくさ んしたけど、冬でも外でね。ボールに熱い お湯をもっていって、手をつけて感覚を戻しながらしてたな。 |
杉山 |
ちょうど塀のとこに大理石のテーブルがあって、下水がそばのソーヌ川につづいているんですよね。 |
肥田 |
そうそう。手がかじかんでるから、掃除してい
るすずき がぱっとこぼれるとね、下水からソーヌ河につるつるっといくんですよ。
うんと寒いとなんか気がついたら20本のうち5本くらい すべっていって、そしたら掃除が早く 終わる、ということをしてる人もいたよという、それくらい寒かったなという話。で
も料理はやっぱりおいしいよね。ルゥ・ア ン・クルートにしても、スープ・オ・トリュフに しても、上手というかしっかりしたおいしい
料理を出していると思う。 |
川北 |
見た目はなんていうこともない、シンプルな料理でも、どれをたべても旨いのは素材ですか。 |
杉山 |
ボキューズは、「キュイジーヌ・デュ・マルシェ(市場の料理)」と銘打って本も出しているけど、素材を大事にするとかそういうのはポワンの教えでしょう。いい材料を使ってその味をいかすことが第一で、むやみにたくさんの材料を組み合わせない。つけ合わせや飾りは最小限にするとか。自分の料理はそういう意味で「新しい料理(ヌーベルキュイジーヌ)」であり、本物の料理なんだと言っていますね。 |
木下 |
この間、本を読んだら、ボキューズがレジオン・ドヌール勲章をもらった頃は、ゴー・ミヨがボキューズのことを、ヌーベルキュイジーヌの法皇ってよんでたんですって。その後から、ゴー・ミヨはアラン・サンドランスやロビュションを発掘してきて、ヌーベルキュイジーヌが流行しだして、斬新さという点ではボキューズより進んだ人がでてきた。そしたらボキューズは180度転換して、今度は先頭きってあたらしいも古いもない伝統の料理がいいんだって言い出した、なんて書いてありましたよ。 |
杉山 |
ヌーベルキュイジーヌというのは、70年代後半に大流行で、もうだれもかれもがいかにつぎつぎと新しい料理を供するか競争みたいになってたね。そのヌーベルキュイジーヌを理論的に支えたのがガイドブックのゴー・ミヨ。だけどゴー・ミヨも80年代になると「ヌーヴェル」という表現を避け始めたね。ボキューズはそれより常に先をいってたわけか。 |