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料理のチカラプロジェクト

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【辻静雄食文化賞 受賞者インタビュー②】villa aida 小林寛司氏

イベント

2020.08.28

2020年8月4日、第11回辻静雄食文化賞贈賞式をオンラインで実施しました。
新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、交流や歓談のための場を設けるのは難しい状況となってしまいましたが、この度は受賞関係者のみなさまにお話をうかがうことができました。

今回は、第11回辻静雄食文化賞 専門技術者賞を受賞したvilla aidaオーナーシェフ 小林寛司氏へのインタビューの様子をご報告します。
聞き手は辻静雄食文化賞 小委員会委員・料理通信 編集主幹 君島佐和子氏です。


―まず、受賞にあたっての小林シェフの言葉をご紹介します。

受賞にあたって
技術の捉え方が大きく変化したのだと思います。
今回の受賞は、農業の繁閑と共に培ってきた食の技術という視点で評価されたのではないかと受け止めています。
技術とは、その時代における最も重要な課題を担うもの。
例えば、自動車産業の技術は、かつて速く走ることを実現し、
燃費や環境負荷を軽減し、そして今はドライバーや歩行者の生命を守ることに生かされています。
料理における技術のあり方や意味も、そのように変化すべきではないかと思っています。
健康や自然や環境とは無関係な調理技術はもう必要とされない。
農業の営みを理解し、体が求める食を理解することが大切だと思っています。
「ヴィラ アイーダ」 小林寛司
―"技術の捉え方が変わってきている"というのは、今回の選考会でのテーマのひとつでもありました。
小林シェフの技術は「自然と共にある毎日の営みが磨く技術」だと思います。
農業をやっているということがポイントなのではなく、農業をやっていることによって磨かれる技術です。
では、実際にどのように行われているのか。
下記の3点について話をお聞きしながら、小林シェフの料理人像に迫ります。
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1.畑から味をつくる――種蒔きから始まる調理法
2.自然を映し、自然を超える表現
3.1人で造る、2人で営む――最小単位の最大効果
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1.畑から味をつくる――種蒔きから始まる調理法

―和歌山県岩出市の田園風景の中にあるヴィラ・アイーダ。
その周囲に畑と田んぼがあるわけですが、どのくらいの面積を耕しているのでしょうか?

約600坪の畑と田んぼで約150種の野菜、ハーブ、米を育てています。元々米農家なので、そこから派生したと言いますか。お米は自分たちで食べる分と出荷する分と、レストランで使う分を全て賄っています。

―畑仕事とレストラン仕事がどう絡み合っているのか、1日の仕事の流れをお話し頂けますか?

朝はまず収穫ですね。その日取れる野菜を収穫して、レストランで使う分と加工に回す分、あまりに多い分は友人シェフに送るよう仕分けます。
それから仕込みをして、12~1時ぐらいからお客さんを招いて、ランチが4~5時ぐらいまで。終わってから、今の夏の時期はまだ明るいので畑の手入れをして、日が暮れてから次の日の仕込みをします。
年間通して、だいたいこんな感じです。


―ハウスはよく茂っているように思うのですが。

普通の農家さんから見ると、すごく荒れている畑かと思います。種を撒いてから枯れるまで、野菜の一生と付き合うと同時に、同じ場所・同じ季節に取れるものは、お皿の上で相性がいいなということが、畑仕事をしているとわかって来るというか、そう感じてきたということがあります。
野菜作りについては、こういう料理を作りたいからとか、苦みのある野菜を入れておこうとか、根菜ばっかりでも困るからとか、同じ大根でもいろんな品種を植えてみたりだとか、そういうことはあります。基本は、本当にレストランのための畑なので。
できるだけ長い期間使えるようにと思って野菜を作っているのですが、最近は温暖化で暑くなり、難しくなっているのでうまくいかないことが多いんですが。

―大量にとれた場合はどうされるのでしょう?

まずは、友人シェフに送ります。トマトなんかは、うちで使う分は夏に1年分を保存しておきたいと思っているので、トマトソースにして瓶詰め加工したり、ドライトマトやケチャップにしたりとかして保存しています。


2.自然を映し、自然を超える表現

―畑の野菜がどのようにして皿の上で花開くのかをお話し頂きます。
例えばトマトも、採れるものは毎日変わりますよね?

今年、トマトを15種類植えました。何種類も植えるのは病気対策もありますが、新しい料理の発想が、新しい料理ができるじゃないかなという課題といいますか。もしこんなのができたら、どう料理するんだろうという楽しみでもあります。
採れるものは毎日同じではないから、今日は柔らかいから生で行こう、ちょっとかたくなってきたから火の通し加減を変えてみようという感じで。火を入れると味も変わるので、仕立ても変わって来る。畑によって鍛えられるというか、教えられるというか。



―こちらはそのトマトを使った料理ですが、どう調理されていますか?

トマトをそれぞれ1個ずつ6種類と、1番下にはクリーム。冬に柚子をくりぬいて、味噌とクルミを詰めて作った保存食の柚餅子がありまして、それとクリームを合わせたソースを一番下に敷いて、トマト、ハーブ、エディブルフラワーをのせたものです。トマトは湯むきして、塩とオイルとビネガーで和えています。
トマトの種類の違いと柚餅子クリームがポイントで、新しい味というか、今までになかった感じかなと思って、気に入って作っています。

―夕顔も作っているそうですね。
それをかんぴょうにするそうですが、何がきっかけで取り組み始めたのでしょうか?

3年前、夕顔をたまたま植えて、たまたまできました。どうしよう、機械もないしと、包丁で見様見真似でかんぴょうを作ったんですが、今まで食べていたものとまったく違うものができたので、いいなと思って今年もまた作りました。
たまたま植えたのというのは、春頃、夏に作れる野菜の種類を調べていたときに、夕顔というのがあって、ちょっと植えてみようかなという。旅先でも、種屋さんは見るようにしています。
市販のかんぴょうよりもナチュラルというか、薄さも自分たちで調節できますし、もどさなくても、そのままで昆布みたいに食べられます。



―そしてこちらがそれを使った料理ですね。

一番下は黒米、アワビとキクラゲ、干したかんぴょう。アワビの食感とかんぴょうの食感がおもしろい、合うと思ってのせています。下はリゾットっぽくしていて、バターも入っているし、アワビの肝のソースにコンソメが入っていて、和とも洋とも言えない感じです。

―私は今年2月に伺った時にいただいた、キャベツの料理に衝撃を受けました。

丸ごとのキャベツをオーブンに入れて、表面が真っ黒になって、中がしっとりというところまで焼いたものです。210℃で1時間ぐらいです。
少ないものはちょっとずつ使うのですが、よくとれるものは大胆に使える。1個でちょうど4人分、畑で収穫できるサイズでちょうどいいので、丸ごと焼いて、テーブルで割ってみようという。鶏の丸焼きのような感じで、野菜がメインで、香りも楽しんでほしかったので。

―火入れはわりと焼いただけというシンプルなものが多いように感じます。
火入れで意識することは何ですか?

ただ焼いているだけなのですが、焼き加減によって味が変わっていくので、そのどの段階のものと他の食材を合わせるか、というのは意識するところです。



―最近の料理をご覧いただきましょう。
まず、ひまわりの料理。この料理の食材の構成を教えてください

メインはズッキーニ。しっかり焼いたズッキーニと、ムール貝、ひまわり、クスクス、柑橘のパウダー、コリアンダーのパウダーがかかっています。これはズッキーニがおいしいという料理です。あと香り、見た目を華やかに。
天気も悪かったですし、世の中もいい状態ではなかったので、元気な皿を作ろうかなと。



―こちらは?

さっと焼いたいかとイカ墨のソースの上に、肉厚のピーマンとピーマンの花とピーマンの若葉を添えたもの。まず、ピーマンがおいしい、イカと一緒に食べることでさらにおいしいという料理です。

―皿の上の表現で意識されていることは何でしょうか?

まずは、おいしい。それは絶対的で、あとはきれいというか、美しいというか。それと野菜が主役になることでしょうか。

―以前、「切り揃えなくても自然は美しい」「自然じゃないのに自然にしか見えない表現を」とおっしゃられたと思います。

僕は写真も撮るのですが、取れた野菜そのものが美しい。切り揃えた美しさもあるのですけれど、そのままが美しいことを見てほしいところはあります。
料理にするにあたって、その組み合わせは自然じゃないかもしれないけれども、自然にしか見えない、というのも意識するところです。


3.1人で造る、2人で営む――最小単位の最大効果

―小林シェフの料理は1人で作るからこそできる料理だとも思うのですが。

1人だからこそ、直前に盛り付けとか、料理を変更することもできる。お客さんが来て、コース料理が進むにあたっても、途中で変えることがあるのですが、そういうことは1人でやっているからできることだと思います。



―料理人でシェフ経験のあるマダムと2人のユニットだからできるクオリティだと思います。マダムの貢献度は大きいですよね?

朝もいつも収穫してくれますし、仕込みも手伝ってくれますし、サービスもワインもやってくれるので。

―昨年から「ヴィラ アイーダ」は1人1客限定、固定の営業時間を設けずにゲストとの相談で決めるというスタイルにしています。夫婦2人という最小単位だからこその、自由度の高さ。クリエイションもオペレーションも、地方だから可能なレストランのスタイルは、奇しくもNEWNORMAL時代の飲食店のあり方のひとつのお手本と言っていいように感じます。
地方でレストランを開くことにしたのはどうしてでしょう。

イタリアの修業時代が大きく影響していまして、イタリアは北・中部・南といたのですけども、どこの人たちも自分たちの土地が一番と思って、誇りを持っていたことに衝撃を受けました。日本でもこういうことがやりたいなと思って、今になります。

―これからの抱負をお話しください。

自由度が高いというのは、そうしていきたいと思っています。これからは和歌山のアイーダを拠点にしながらも、国内外いろんなところを旅をして、その土地の食材とか料理人に会って、自分の経験を伝える。また、いろんなところの文化、料理人の経験を僕が吸収して戻ってきて、より新しい洗練されたものを作っていきたいと思っています。