第6回辻静雄食文化賞贈賞式より
6月10日、東京・明治記念館の相生の間で
多くの列席者のもと、第6回辻静雄食文化賞の贈賞式が行われました。
第6回となる今年は、
国際共同制作ドキュメンタリー映画「千年の一滴 だし しょうゆ」に辻静雄食文化賞が
そして、日本料理「龍吟」のオーナーシェフ山本征治氏に辻静雄食文化賞 専門技術者賞が贈られました。
はじめに、辻静雄食文化賞選定委員会委員長の辻芳樹より
「今年の受賞作品「千年の一滴 だし しょうゆ」は、私たちの列島の食文化を映画という手段で描き切った力作であり、国内外の多くの方々に観ていただけることを願っています。また、「龍吟」の山本征治氏は、日本料理の伝統を守りつつ、大胆な革新に取り組んでこられました。その進化の姿こそが日本料理の持つ、多様性という美学を実現されているのだと思います。」との紹介がありました。
辻静雄食文化賞を受賞した
「千年の一滴 だし しょうゆ」は
2013年に放送されたNHKのドキュメンタリー「和食」をベースに、日本の伝統的な食文化を支える、「うま味」=「だし」と、「発酵」=「しょうゆ」にスポットをあて、日本人と自然と食の関係を描いた秀作です。またこの作品は、海外の視聴者に向けて日本の食文化を理解してもらうために作られた作品であり、フランスおよびドイツでの放送にて大きな反響を呼びました。
海や森などの大自然からうま味を取り出す職人の姿を描いた第1章「だし:大自然のエッセンス」、麹カビをミクロの映像で紹介しながら職人の知恵を伝える第2章「しょうゆ:ミクロの世界との対話」で構成されています。
贈賞式では、石毛直道選考委員長(国立民族学博物館名誉教授)から「ドキュメンタリーの映像を超えた芸術性の高い映像に溢れた作品」との選評が述べられました。
受賞について、柴田昌平監督は
「この映画は大勢の人々のおかげでできています。また、この映画において辻静雄という名前は大きな意味を持つ名前でした。最初に、フランス人のプロデューサーから、辻静雄氏との関係を尋ねられ、ヨーロッパで辻静雄氏が和食を広めた人だということを知り、そのような縁の深い方の賞をいただくことができてとても感謝しています」と話されました。
また、この映画に関わった多くの方々も贈賞式に出席され、それぞれの方を、監督が紹介し、撮影の苦労話や食材への想いを話されるなど、本当にみなさん で受賞を喜んでいらっしゃることが感じられました。
辻静雄食文化賞 専門技術者賞を受賞した
山本征治氏は、
東京・六本木に本店を置く「龍吟」のオーナーシェフであり、「龍吟」は、2014年The S.Pellegrino Asia's 50 Best Restaurants 5位。ミシュランガイド『東京2015』三ツ星を獲得。他に香港・九龍に「天空 龍吟」(ミシュランガイド『香港・澳門2015』二ツ星)、台北・大直に「祥雲 龍吟」があります。また、贈賞式の直前に発表された2015年の「The World's 50 Best Restaurants」の29位にも選ばれました。
門上武司(「あまから手帖」編集顧問)専門技術者賞選考委員からは
「社会の目まぐるしい変化とともに、日本料理においても、常に研鑽、革新、そして変化を求めると同時に、日本料理を守らなければならないという信念のもと、進化を遂げられています。香港、台湾、そして東京において、山本さんが、世界に向けて日本料理を発信していくというめざましい活躍をされていることが、この後に続く料理に携わる人たちにとって、大きな勇気を得られているのではないかということを本当に感じました」
との選評が発表されました。また贈賞式の直前に、「龍吟」は「世界のレストラン50」の29位にも選ばれ、その活躍は、世界的にも認められています。
今回の受賞に際して、山本征治氏は、今回の受賞にかかわるすべての方々への感謝とともに、日本料理とは、『その国の豊かさを料理を通じて訴えているもの、目に見えるものではなく我々の精神』であると捉えていること、また「日本に本物があり、我々が日本人として本物を発信できるものは何だろうと考え、私は日本料理を志しました。自然界にある素材、日本の宝を価値あるものとして世の中に伝えようと料理を表現する。その心こそが日本料理のひとつのカタチだと考えます。この賞も自分だけのものではなく、将来日本料理を志す人のために、ひとつの価値として、夢や希望を私自身が伝えていけるように、これからも日本料理に、そして、この道に人生を捧げて頑張っていきたいと思います。」と、話されました。
贈賞式の会場には、「龍吟」のスタッフの方々も大勢出席され、みなさんで今回の受賞を喜ばれていました。
最後に、今回の贈賞式にご出席いただいた歴代の受賞者の方をご紹介し、昨年の第5回辻静雄食文化賞 専門技術者賞を受賞された京都・丸山「未在」の石原仁司氏より、お話をいただきました。
石原氏からは、生前、お店にきた辻静雄から出汁を何回もやり直しをさせられたエピソードが披露されました。しかし、それは「生命ある食材を、どう生かしていくか、どうお客様に喜んでもうらおうかと、最後まで使い切ってこそ、美味しくお客さんに喜んでいただいてこそ、我々の仕事を真っ当できるのではないか、そういうことを教えていただいたのではないかと思います。(受賞は)そういう心に光をあてていただいたということが一番うれしかったですね。今までずっと長い間、黒子でしたらから。昨年こういう賞をいただいて僕にとっては勲章になります。みなさん、受賞おめでとうございます。」と話されました。
今年の贈賞式は、舞台にあがる受賞者のみならず作り上げた多くの人々とともに、喜びをわかちあう心温まるものとなりました。
受賞されたみなさま、本当におめでとうございます。