TSPAレポート#3:静かに鳴り響く警鐘に耳を傾ける勇気(料理マスターズブランド認定コンテスト)<大阪>
私の住む町はこの時期になると、田植えが行われ鮮やかな緑色の田んぼの風景が一面に広がる。知人の農家の方が、収穫したばかりの夏野菜達を「時期のもので一度にたくさん出来るの、形は少し悪いけどおすそ分け…」と言ってどっさり下さるのだ。見た目は売り物に比べると少しは自由奔放な感じだが、味は抜群で何より取れたてならではの美味しさが詰まっており何とも贅沢だ。
私のような環境に置かれている人は現代では稀であろう。そんな私が今回、「料理マスターズ ブランド」認定プロジェクトのブランド認定品コンテスト関西大会に参加させて頂き感じた事がたくさんある。一見、コンテストと聞くと表だって明るい舞台のようだが、これはまだまだ発展途中のコンテストであり、更には実施に至る経緯に今の日本の抱える問題がたくさん隠されているのだ。
まず「料理マスターズ」顕彰制度をご存じだろうか。この制度は「食」(消費)と「農」(生産)をつなぎ、食材を生産する第一次産業を振興し、その現場である地方を、元気に活性化し日本を元気づけていく目的のもと、第一次産業の活性化に貢献している料理人を国が表彰することで目的達成を目指す取り組みである。今回のブランド認定品コンテストは、その料理マスターズ顕彰制度により表彰された現役の料理人の方々の審査の元、ブランド認定を行うコンテストである。今回は工夫を凝らし製品化された、関西地方の7品目が本選にノミネートされた。
実は、このような取り組みが実施される背景には多くの「食」に関する問題が浮き彫りになってきている現状があるのだ。
…そう今、日本の食が少しずつ軋み始めているのだ。私達日本人は大きな岐路に立たされているのかもしれない。メディアでは日々「食」にスポットを当てたテレビ番組や新聞記事、雑誌特集などが飛び交っている。消費者も最新情報をキャッチするべくアンテナを張り巡らし、敏感になっている。そんな華やかな舞台の裏で、実は徐々に問題が深刻化しているのをご存じだろうか…問題と言っても、つい最近出てきた訳ではなく長年の積み重ねや、人々の問題意識の低さから、気づけば深刻化してしまっていたという現状だ。もう目を背けてはいられないのである。私は問題が深刻化している背景には、日本という国における長い歴史の中での「食」の変遷が大きく関わっていると思う。そこで問題を知る上で、日本の「食」というものを改めて振り返って考えてみよう。
遡ること約500年…。キリスト教の伝来があり、それを皮切りに1853年ペリーの浦賀来航や、1859年の横浜・神戸・函館の開港、また長崎出島での貿易により海外の文化がぞくぞくと日本にやってきた。「食」の文化も、もちろん西洋料理として日本に入ってきた。この頃、本場とそっくりそのまま同じ食材は日本国内では揃わず、国内の物で代用したことが西洋料理から洋食へと移り変わり、本来の西洋料理から少しずつかけ離れていった。しかしそれではいけないと、本場へ技術を学びに行く動きが増え修業を積み、帰国した料理人たちの努力があり本来の西洋料理を日本でも味わえるようになった。それに伴って、海外の食材を使用する機会が増え、海外からの輸入ルートが飛躍的な発展を遂げ、海外のもの(外来種)が手に入りやすくなった事実がある。これはもちろんメリットも多いが、実はデメリットもあり国内産の食材離れの要因の一つになったのではないかと私は思う。
だが、少し視点を変えて考えてみると本場で基礎を覚え込み、修業し高度な技術を持った料理人が多く居る今の日本でなら、海外で生産された食材をわざわざ使わずとも国内産の食材を用いて、工夫し料理を創り上げていくことが可能ではないだろうか。そして、そのように国内の食材に目を向ける事が問題を解決していく鍵になるのではないかと思う。
それに一役かうのが「料理マスターズ」なのだ。生産者から消費者、消費者から生産者お互いの関係性が見えにくくなっている今、その二者を繋げる役割を担えるのが料理人だと思う。
問題を改善していくにはもちろん、どうにもできない時代背景もあるだろう。大量生産というスタイルが主流になっていたり、簡易さを追究したり、利便性が先に立つスタイルが好まれる時代になっていたり…ましてや国を挙げての外交で輸入量、輸入規制の変化があったり今話題のTTPの問題など、一個人や生産者・料理人だけでは対抗できないこともあるかもしれない。だが、目を背けず問題と向き合い、食い止めなければ私達日本人の今まで積み上げて来たものは失われてしまい、未来もないだろう。
生産者と消費者、両者が強固に結び付いていくきっかけを作り、両者で日本の「食」の問題に取り組んでいくことが現状の改善の第一歩になると思う。その為にも、広く「料理マスターズ顕彰制度」ならびに「料理マスターズ・ブランド認定プロジェクト」の存在を知ってもらいたいと思う。
このように長い年月をかけ山積してしまった問題も、今ここで改善していくことが出来れば、徐々に未来は明るいものになっていくだろうと信じたい。
慌ただしい現代社会の中で、少し立ち止まって考えてほしい。日本人として日本の風土を愛せているだろうか?この四季に恵まれた国土、地域…そこで生産される食材、生産者の苦労までをも知り、理解出来ているだろうか。生産者が汗水流し苦労を重ねたうえで、食材が作り出され私達の口に入る、この過程を忘れてしまった社会に今一度、少しでも生産者に目を向けてほしいと私は切実に願い、私自身も食に携わる者として改めて原点回帰したいと思う。
大きな事は出来なくてもいい…。まずは知ること。上辺だけの知識ではなく、本質を見つめた事実を知ることが必要なのである。そのためにも、生産過程を知ってもらえるように「生産の見える化」を目指し、若者にも興味を持ってもらえるようにしなければならない。
こうして考えると問題は山積で、高齢化によって生産が継続不可能になってしまう生産者がいる実状や、若者の農業離れによる後継者不足に直面している今、このまま先人達が培ってきた技術や想いを無駄にすることのないよう、問題解決に取り組んでいかなければならない。
今回の料理マスターズ・ブランド認定プロジェクトのコンテストに参加し現在の「食」に関する問題が深刻であることを再確認したが、それ以上に各々の取り組みや、生産者と企業・会社が歩み寄り、創意工夫し一つの製品を生み出すという姿勢を拝見すると、これから伸びゆく可能性や活力をひしひしと感じる事が出来た。このパワーが日本の「食」の問題改善にプラスに働きかけてくれればと思う。
2013.06.30.
【辻調理師専門学校】 調理本科 TSPA