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料理のチカラプロジェクト

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未来を考えるプロジェクト 報告ノート(1) 生江史伸シェフ

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2015.01.15

生江史伸(なまえ・しのぶ)さん
「レフェルヴェソンス」(東京・表参道)シェフ

生江さんには、2014年5月28日と11月7日にお話を伺いました。
訪問者は、辻芳樹校長、フランス料理:高岡和也、若林知人、永井利幸、製菓:山﨑正也、企画部:小山伸二

生江史伸さん。1973年神奈川県生まれ。国際基督教大学高等学校を卒業後、慶應義塾大学を卒業。大学在学中のアルバイトと卒業後のレストランでのサービス経験などを経て、店を転職しながら独学で料理人としての自分のキャリアをデザインした。

大学を卒業後、イタリア料理店(アクアパッツァ・グループ)のサービスから本格的に仕事をスタート。
まずは、イタリア料理から学んだ。
その後、フランス人シェフ、ミシェル・ブラスの本に出会うことで、フランス料理の世界に飛び込むことになる。
ちょうど日本でオープンした北海道・洞爺湖「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」に2003年、就職することに。
さらに、イギリス・ロンドンのミシュラン三ツ星「ザ・ファット・ダック」で働き、帰国後、2010年に現在の「レフェルヴェソンス」をシェフとして立ち上げた。

◎取材ノートより:
生江さんは、料理の専門的な教育を体系的に学校で学んだのではなく、大学時代のアルバイトから始まって、飲食業界のなかに身を置きながら技術を身につけ、同時に多くの料理関係の本を読み、作り方だけではない、料理人としての「哲学」を独学で学びとった。

ガストロノミーの世界で、グローバルに料理人たちが交流しはじめている現代において、英語が堪能な彼は、料理哲学をダイレクトに交流できるのは非常に大きな強みである。

彼が、フランス料理に出会う以前の時代、新規店舗開業のためにアメリカ西海岸の調査・視察に出かけた時に出会ったのが、アリス・ウォーターズの「シェ・パニース」。ここで、オーガニックで環境にも配慮した新しい料理の世界を体感したという。この体験は後の彼の料理にも大きな影響を与えたようだ。

そして、ミシェル・ブラス。ニューヨークの料理専門書店で出会ったブラスの本を手にとって、当時、自分が抱いていたイメージを先取りする形のフランス料理がそこにあった。そのイメージとは、様々なソースや調理技法で素材が「見えなく」なってしまうフランス料理ではなく、きちんと素材が素材のままに存在感を失っていない、「シンプル」なフランス料理。これは、自分が求めていた(やりたかった料理)だと直感したとのこと。

それまで、主にイタリア料理を中心に働いてきた生江さんは、ここで初めてフランス料理を選ぶことにする。

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2001年に日本で開業した「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」では、当初は、戸惑うことだらけだったが、やがて、フランス人シェフと英語でコミュニケーションすることで、ブラスの「フランス料理哲学」の一番の理解者として、信頼されるようになる。

ここでフランス料理でのキャリアのなかった彼を支えたのは、彼自身の独学者としての向上心と、知らないことをしるための「勉強法」を知っていた、ということだったのでは、ないだろうか。

洞爺湖に勤務中に本国のブラスでも働く機会のあった彼は、ミシェル・ブラスの謦咳に接することもできた。

従業員に自らの料理哲学を、まさに哲学的に語りかけるブラス。そのなかで、「誠実であれ」という言葉は、料理人として、人間として生江さんには大きな影響を与えた、という。

洞爺湖の「ブラス」のあと、彼は、ブラス時代のアメリカ人の同僚の紹介で、イギリスのヘストン・ブルメンタールの「ザ・ファット・ダック」で1年間、働くことになる。

ブラスからブルメンタールへ。一見、突拍子もない飛躍のようだが、ハロルド・マギーの『マギー キッチン・サイエンス』の影響を受けたヘストン・ブルメンタールは、分子ガストロノミーの雄として活躍しているが、ブルメンタール自身は、そのキャリアの出発において、きちんと本流のフランス料理に対するリスペクトから出発している点では、独学者ブラスが、その出発点に現代フランス料理の古典ともいうべきエスコフィエの『ギッド・キュリネール』にもっとも価値を置いていることと通じるものがあるかもしれない。

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生江さんは、「ザ・ファット・ダック」では、調理を科学的なアプローチで理解できるようになったという。また、アレルギーや宗教、そしてベジタリアンやその他さまざまな客の嗜好に対応して料理を出すことも学んだという。
これは、国際的なガストロノミーを標榜する現在の東京の店にもいかされた体験だっただろう。

食材については、まずなにより生産者との「人間的な信頼関係」を重要視すると語る。単に無農薬、自然農法、地産地消だからとか、食味テストだけでは決めない。むしろ、その生産者と食の価値観が共有できるか、自分の言葉を持っているか、というあたりで、とりわけ野菜の生産者とはつながっている、という。

そのなかで、とくに千葉県八街市のエコファーム・アサノの浅野悦男さんとは信頼の絆で結ばれている。浅野さん自身、自分は「レフェルヴェソンス」の一員だと思ってくれと話すほど、生江さんに信頼を寄せている。

とにかく、自分の料理を「言葉」にできる。そしてその言葉にできた料理をスタッフたちに共有するための努力を惜しまない。

料理の世界ではフランス料理がプラットフォームになり得る。それを踏まえた上で、日本の素晴らしい食材を再発見し、世界に発信していくこともできると考えると、生江さんは考える。また、他ジャンルの料理人たちとの交流や、世界の料理人たちとのコンフェランスに参加したり、食の持続可能性、食を取り巻く様々な課題を共に考え、実行するための活動にも着手している。

単に皿の上にガストロノミーを表現するだけではなく、従業員の育成、職場環境の整備、料理人の社会的な役割などについても、まさに、「誠実」であろうとする真摯な態度を持っている。(文責・小山伸二)


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