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料理のチカラプロジェクト

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未来を考えるプロジェクト 報告ノート(2) 山本征治シェフ

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2015.01.15

山本征治(やまもと・せいじ)さん
「日本料理 龍吟」(東京・六本木)シェフ


山本さんには、2014年11月17日にお話を伺いました。
訪問者は、辻芳樹校長、ライター:神山典士、日本料理:大引伸昭、岡田裕、企画部:小山伸二

山本征治さん。1970年香川県生まれ。四国調理師専門学校(現KISS調理技術専門学校)を卒業後、香川県内の料亭、ホテルに就職。21歳の時に徳島・料亭「青柳」に入社。「青柳」ご主人 小山裕久氏のもとで、料理に対する考え、食材の扱い方、海外(フランス)での日本料理の提供など多くの事を学ぶ。「青柳」では東京 虎の門、六本木ヒルズへの出店の主軸として活躍し。11年間の修行を経て2003年12月に六本木に「龍吟」をオープンさせる。


◎取材ノートより:

■料理人への志スタート

山本さんの料理人生スタートは小学生時代の母親の手伝いより始まる。自ら手伝うと言うのではなく、遊びなどを犠牲にしながら料理に関わる。

しかし、その中で料理の段取りを次第に身に付けていく。そのため小学校(11歳)での家庭科授業では他人に負けることはなかった。ある日、家庭科授業で学んだ「肉じゃが」など数品をお手伝いで得たお小遣で食材を購入し母親に振る舞う。その時の母の一言「美味しい」が嬉しく料理は人を喜ばせることが出来ることに感激し、この時から自分の人生はこれだと思うようになる。

その後、四国調理師専門学校(現KISS調理技術専門学校)に入学。学生時代の山本さんは、料理では他人に負けることは絶対に許されなにと考えており、常に料理本を読み勉強していた。料理本からは料理を体系的に学び、日本料理の表現を知識として得る。卒業後は、四国の料亭、ホテルで働く。ホテルでは何百人もの料理を作っていたが、自身が描くキャリアプランとは違うことに悩み退職を決意する。その当時、日本料理と言えば「吉兆」時代であったことから、吉兆への就職を夢見て何度も手紙を書くが夢は叶うことはなかった。その後「味吉兆」への就職にチャレンジする。味吉兆のご主人には話は聞いてもらえるが、結果は不採用。山本さんにとっては大きな挫折であったように感じるが、この挫折がその後の料理人生への糧になったのではないか。

夢は叶わなかったが、味吉兆のご主人と話をするために大阪に来たことがこれからの山本さんの料理人生にとって大きなターニングポイントになる。

味吉兆から香川への帰り途中に大阪難波にある「波屋書店」で青柳 小山さんの本に出会う。「味吉兆」への就職は諦めきれなかったが、現時点で出来ることと考え「青柳」小山さんに会いに行き気持ちを伝えようとするが、話も聞いてもらえずに帰されるが、再度、手紙と履歴書を送り「青柳」で働く許可を得る。

山本さんの青柳での修行時代は、小山さんの料理に対する考え方、発想力の豊かさ、食材の扱い方を学び、疑問に対しては常に勉強する毎日であり、回りからは「料理オタク」とも言われるほどであった。この努力が今日の基本になっている。そのなかでも徳島「婆娑羅」で提供される料理には大きな影響を受けたように思われます。

食材では、本物に触れることだけでなく、素材は何を語っているのか、素材を最大限に生かすためにはどうすれば良いかを学ぶ。

例えば、「造りは、魚のなかにある」と言う言葉で表現されるように、食材の目利き、そして素材に傷をつけずに美味しい部分を取り出す包丁技術が求められる。これは、木彫りの仏像と同じであり、日本料理にも通じる考えでもあると山本さんは語る。


■山本さんの料理への考え

インタビューの中で山本さんは「日本料理を自分のものにしてはいけない」と言う話がありました。この言葉に込められた意味は、人が作れないものが最も尊い。それは自然が作り出すものを人が使い、調理するだけである。また、料理は作り手によって色々な表現があるが決して食べ手を置き去りにした料理は提供してはいけない。

日本料理はしみじみ美味しさを五感で感じるものであり、「龍吟」での料理を味わって頂き日本料理の良さ(食材、演出、歳時)を感じていただきたいと常に思っている。そして日本料理を世界へ発信していくことを常に考えている。

「理り料る」と言われるように、なぜそうするのかと言う考えが理論的に持っていなくてはいけないと話す。

鱧をCT撮影したことは有名であるが、これも理論的に説明するための一つであった。それは世界料理学会での発表にある。山本さんは学会での発表課題を探す中で、日本料理の卓越した技術を見せたかった。そこで考え付いたのが「鱧の骨切り」である。発表するためには理論的証明が必要であることから、CTで骨の状況を知ると言う発想に至る。鱧を病院へ連れて行くとは本当に凄い行動力である。それにより、骨切りの角度(25度)が最適であり角度がずれることで骨は切れるのではなく潰れていることまでも証明し学会で発表する。

山本さんは常に料理に対するこだわりを持ち料理の「温度、質感、香り」を管理することの大切さを話す。そのことから店内改装時にカウンターをなくし常に調理場で指示ができる体制を作る。カウンターが存在することにより、料理の完成を見逃すことがあるためである。また、山本さんが不在になる時は店を臨時休業にする徹底ぶりです。これらの事から、山本さんは自身の想い描く最高の料理をお客様に提供することに徹していると言えるでしょう。


■最新調理機器とのかかわり

「龍吟」の料理は最新調理機器を使用し斬新なイメージがあったため、山本さんに最新調理機器の使用について尋ねてみました。

オープン当初は最新の調理機器、新しい料理への取り組みがされていたが、現在では自身が考える究極の料理を求めるツールとしての使用に変化している。

近年はすごい勢いで技術が熟成、洗練化され料理の仕上りのストライクゾーンがピンポイントになってきているため、今までの調理法では不可能であった部分を最新調理機器の使用で可能にしている。

例えば、液体窒素の使用方法でも従来は液体を急速に冷却し客前で固める調理から始まるが、山本さんの使用方法は違い、調理工程のなかで食材を冷やすために使われる。水に漬けてしまうと水っぽくなることを嫌い、気化した液体窒素を使用することで水っぽさを出さないようにしている。

また、仕事の効率化でも調理機器の活用を考えている。山本さんの最新調理機器の使用方法は非常に理にかなっているように感じました。

そのため、新しい調理機器が開発されればまずは使って見ると言う姿勢は変わらない。

山本さんは調理機器だけでなく、医療機器、日常品までも調理のツールにしている。大鰻の骨切りには医療ハサミを使い、味噌付けには「網タイツ」を使う。

これらも、常に最高の仕上りを求めていく中での結果と言えよう。

■海外での日本料理提供について

現在、「香港」「台湾」で経営をしているが、山本さんが海外で店をオープンさせることにはいくつかの理念を持っている。一つは出店する場所である、自国の料理を愛していること、そして食材の豊かな国。料理に対する愛情が無いところでは到底他国の料理を受け入れられることもないと考える。

食材では、日本から送ることはしない。自国の食材を日本料理の技術を用いて料理を作り上げていく。そのためにはその国の歳時なども学ぶことを怠らない。日本から食材を送ってしまうと、偽物を作ることになると山本さんは考える。

■育成、料理を志す人へ求めること

龍吟での育成では、常に従業員からの質問に対しては理論的に説明する。自身が持っているすべての物を隠すことなく伝え教える。そのためには伝える力、話す力も大切と話す。

また、海外研修生を受け入れることにより、海外に日本料理を伝えている。そのため、厨房内では日本語以外の言葉も飛び交う。研修の受け入れも2005年からスタートし数百人をこえる。このような環境では「英語力」もこれからは求められるように感じました。

賄い料理にも手を抜くことは決して許さない。常にガストロノミックなものしか認めない、食べる姿勢にも注意を行う。賄いだからとって料理、食べ方を怠る者は、お客様に提供する料理にも影響が出ると考える。

料理人を志す人には、まず日本料理とは何か?自国の料理に興味を持って頂きたい。その上で成功イメージ、その先にあるものを伝え目標、夢を持たせてほしい。料理はプロセスも重要ではあるが、プロセスの先に完成形があるのではなく、完成形を知ったうえでプロセスの意味を知ることが大切である。

その為には食材の持ち味、その美味しさをどのように引き出すかも考え知るべきである。また、同時に生産者の気持ち、日本料理を学ぶための心構えも身に付ける必要性があると話す。

■まとめ

今回の取材で私が感じた山本さんとは
日本料理の枠を超えた料理感を持っているように感じました。

料理では人一倍の負けず嫌いであり努力家(勉強家)であり、日本料理以外の調理法や最新の調理機器を使いこなす。

しかし、完成される料理は日本料理であり創作されたものではない。料理の中には伝統的な食材の組み合わせ、日本の歳時も組み込まれている。まさしく「伝統と革新」を絶妙のバランスで融合されているように感じます。

伝えると言う部分では、料理を世界へ発信という大きな目的を持ち、その中で料理人の育成も海外の方を積極的に迎え入れている。

発信の際には、一切技術、調理法を隠さない。それどころか解りやすく伝えることへの追及も怠らない方である。

「理を料る」の意味に込められているように、「なぜ」そうするのか、そして理論的に証明できるように常に考えているからこそ、学び手にとっては解りやすいのだと思う。

料理人を志す学生たちへの指導としては、「基礎技術力」「考える力」「語学力」などが求められているように感じました。(文責・大引伸昭)