谷口博之先生「開高健とボジョレー・ヌーヴォーの会」にて講演
2024年12月9日(月)東京にて、作家 開高健氏を賑やかに偲ぶ夜として「開高健とボジョレー・ヌーヴォーの会」が開催されました(主催:公益財団法人 開高健記念会)。没後35年/生誕95年を迎える今年は、元辻調理師専門学校の日本料理教員である谷口博之先生が招かれ、「食と冒険 ―料理人が見た開高健―」と題した講演をおこないました。
公益財団法人 開高健記念会
https://www.kaiko.jp/
谷口先生は辻調理師専門学校において2018年まで教鞭をとり、日本料理の研究と後進の指導にあたってきました。学外での活動も多く、とりわけ目ぼしいものとしては、開高健氏の傑作ノンフィクション『オーパ!』シリーズ(集英社)の「オーパ、オーパ‼」隊に料理人として参加し、海外取材に同行したことが挙げられます。氏とともに旅をした奮闘を、料理人の視点から綴った『オーパ! 旅の特別料理』(集英社)は今も多くの人に読み継がれています。
この度、谷口先生(オーパ隊での呼び名は谷口"教授")が当時を思い起こしながら、開高氏の食にかける情熱と向き合い方、豪胆なイメージとは違った繊細で気遣いの人という、氏の姿が浮かび上がるようなお話をたくさんのエピソードを交えて披露しました。聞き手・進行役は、北極冒険家として名高い荻田泰永氏です。
荻田泰永氏と谷口先生
谷口先生が「オーパ、オーパ‼」隊に加入したのは、29歳のとき。辻調理師専門学校の初代校長・辻静雄とサントリーの佐治敬三氏が懇意だった縁で、若き谷口青年に白羽の矢が立ちました。同行したのは、1982~87年の6年間で8回。ベーリング海の孤島セントジョージ島、カリフォルニア、カナダ、アラスカ(ソルドビア・ソルドトナ)、アラスカ(ウガシク・イリアムナ)、コスタリカ、モンゴル・中国、モンゴル・カナダです。開高氏が隊長で、集英社の菊池治男氏、カメラマンの高橋曻氏がそれぞれ素晴らしい仕事をされたのがオーパ隊であり、裏部隊を支えた谷口先生はその中で一番若いこともあってか、ずいぶん可愛がってもらったそうです。人間・開高健の熱量に引き込まれたうちの一人として、谷口先生にとってはそのすべてが、人として、料理人として、人生においての財産となっていると語っていました。「心に通じる道は胃を通る」、「(どれだけ大変な状況でも)料理が餌になったらあかん」など、今も大切にしている開高氏のことばが沢山あり、料理を教える時にもいつも心に留めているのだそうです。
本会は、開高健記念会会員、また一般の開高健ファン向けに行われたものですので、詳細をつまびらかにすることはできませんが、もしこのレポートをお読みの方で、『オーパ!』シリーズをご存じない方がいらっしゃったら、ぜひ本を手に取ってみてください。途端にグイグイと引き込まれるに違いありません。未知の世界に足を踏み入れ、知り尽くそう貪り尽くそうとえぐり込むような開高氏の探究心に圧倒されること必至です。何かに真剣に取り組み情熱を注ぎ続けることは、時代を問わず多くの人々に、もちろん料理人にも響くことでしょう。またこれから料理人を志す方にとっても、危機的状況に置かれても光る料理の力は、魅力的に映ると思います。
開高健氏からプレゼントされたネクタイと、辻静雄から譲り受け仕立て直したジャケットを身につけた谷口先生