通信教育部ブログ
日本料理 第1課・第2課 だし汁 (1)(2)
第1課 だし汁(1)
受講を決め、申し込みをしてしばらくすると、教材がイタリアの自宅まで届いた。前に受講した時は、海外には送れないけれど、日本国内に転送してくれる家族がいるなら受講可能ですといわれ、なんてフレキシブルで親切な対応なんだろう、と感動したものだったが、2019年の現代では、外国人の受講希望者も多いのだろうか? イタリアの私の家にも第1課、第2課のテキスト、DVD、副教材の本が直接届いた。
さっそく、第1課に挑戦。15年前に教えていただいただしの取り方は、イタリアでも日常的に繰り返してきたので、心配なく、滞りなく作業ができる。鰹節削り器は、前に受講した時に、包丁、ザル類、銅の卵焼き器などいろいろ揃えた日本料理の道具で、今も愛用しているものの一つ。昆布は日本へ帰国するたびに、今はなき築地へ行って羅臼昆布や日高昆布を多めに購入していたもの。日本からイタリアへ戻る私のスーツケースの中は、行商のおばちゃんみたいに、出汁昆布に鰹節、うどんにおせんべい、ヒートテックにホッカイロなど、日本が世界に誇る様々なものが詰まっているのです。
出汁のことはもう完璧!と思っていたのに、先生の授業をよく聞いていると、「昆布の表面の白い粉は甘み成分」という新発見。今まで「うまみ成分」だから洗い流したり拭き取ってはいけないと思い込んでいたのだ。危ない危ない。
昆布の火加減も10分でちょうど柔らかくなり、完璧!
とはいえ、いい一番出汁がひけた(と思う)ので、椀種は海老しんじょを選ぶ。
日本のように大きくて立派な車海老はここトリノではあまり見かけない。仕方ないのでアルゼンチン産の有頭赤エビを購入。車海老で作ったらさぞかし美味しいのだろうと想像しながら、すり鉢でする。
魚のすり身も売っていないから、たらを買ってきて、前以てすっておいたものを加える。浮き粉も当然ないので、片栗粉(というかジャガイモのデンプン粉)で代用。ないないだらけの日本料理です。それでも15年前に比べたら、随分と色々手に入るようになってきた。日本食人気のおかげです。
卵の素。余ったら酢を足してマヨネーズにしようか?
さて、全ての材料を混ぜ合わせると、生地が随分ゆるいじゃないか。えー? こんなにゆるくて、お湯の中で流れてしまわないの??と心配になる。DVDを見ながらとったメモをもう一度見直すと、あー、やっぱり。「生地の硬さを見ながら昆布出汁でかたさを調整する」とあるじゃないか! やばーい! でも「生地のかたさは持ち上げてダラーっと落ちるぐらい」とも書いてある。よし、このまま行ってみよう! 沸騰寸前の鍋に、スプ-ンですくったしんじょ生地をそっと入れると、きれいなしんじょになって鍋の底に沈んだ。よかった~。この心配になるぐらいゆるい生地だからこそ、柔らかい舌触りの海老しんじょに仕上がるのだろう。何度やっても、その度勉強になるなあ。
材料を揃え、さて、盛り付け
海老しんじょ 清汁仕立 完成
「海老芋 白味噌仕立」も作ってみた。海老芋はイタリアにはないので、中華食材店へ行って里芋を買ってきた。下茹での仕方など、海老芋と同じでいいのだろうか? と、副教材(?)の『プロのための わかりやすい日本料理』をめくってみると、里芋の下処理の仕方を発見。よかった、だいたい同じようだ。というわけで、皮をむき、まずは六角形に切り整える、のがなんと難しいことよ! プロの料理人の方々や、先生たちの手仕事の美しさ、あのレベルに到達するには、一体どれぐらい芋を向いたらなれるのだろうか??(泣)
ため息をつきながら、不恰好な芋たちを、米のとぎ汁で下茹でする。するとなんと! 角がキリッとした、なんだか美しい茹で里芋ができあがった。米のとぎ汁で下ゆでするのは煮崩れしないからということだが、本当にその通りだ。先人の知恵はすごいなあ。
白味噌に少量の出し汁を加えて溶きのばし、鍋の出し汁の中に戻し、ザルで越す。これも新しい発見。上品でなめらかな白味噌仕立ての吸い地は、夢のように美味しい仕上がりだ。残念ながら北イタリアではウニも手に入りにくいので、今日は冷蔵庫にあったカラスミで代用。日本の友人が手作りして持ってきてくれた貴重品だ。薄くスライスして軽く炙って里芋に添えてみると、なかなか悪くない。でも次回はウニを手に入れて、もう一度作り直してみたい。
里芋 白味噌仕立。
キリッと煮えたと思ったけれど、元の切り方が完璧でないので、やっぱり不恰好だ。
まだまだ修行はこれから
第2課 だし汁(2)
鯛の頭のなし割は、前回受講した時も教えていただいたのだが、料理店に勤めているわけではない私、イタリアに暮らしている私は、魚の頭をなし割りする機会なんて、本当にまれ。だから「潮汁」でなし割りに挑戦。
私の暮らす北イタリアのトリノでは、魚屋さんで鯛を探しても、真鯛にお目にかかることはほとんどない。いつでも手に入るのは「オラータ」という魚だ。日本語に訳すとヨーロッパヘダイというらしい。3枚に下ろした身は、お刺身でいただいてから、さあ、なし割り~。
背側を右にした魚の頭をまな板におき、前歯の真ん中から少しずらしたところを半分に割る。どれどれ、と魚の口を開けると、DVDで先生が見せてくれた真鯛の歯よりも、こちらのオラータ、ヨーロッパヘダイの方が、前歯がぎっしりと並んでいて、獰猛そうな感じ。やっぱりヨーロッパ人だからかしら? なんて思いながら切り進むと、優しい日本の鯛と同じように切れ、なし割り無事完了。先生はカマ下には味がついてないので切り捨てます、とおっしゃったが、こちらヨーロッパヘダイ君のカマ下には、少し肉がついているのでそのまま残す。
ちょっと煮過ぎてしまったかも?
椀づまは、最初「ウドの代わりはなんだろう? しかも吸い口の木の芽もない」と悩んだ末、冷蔵庫にあったオクラを使ってみた。塩でさっと茹で、斜めに半分に切ったら、なかなか素敵じゃないか。ところがいざ盛り付けて、吸い地を注ぐと、アラに立て掛けるように盛り付けたオクラはプカプカと浮かんでしまって、なんとも締まりのない盛り付け。そして食べてみると、なんだか、潮汁って、こんなもの? という間抜けな風味。22年のイタリア暮らしで、繊細な日本の出汁の味がわからなくなってしまったのだろうかと心配になる。しかも、オクラの味は思った以上にはっきりしていて、繊細の出汁の中で主張が強すぎるみたい。うーん? と! 吸い口を添えてなかったことに気がついた。ウドの代わりになる野菜と、木の芽の緑色の二役をオクラがいっぺんに果たしてくれたような気になって、香りのことを忘れていたのだ。しかし料理にとって、香りはとても大事じゃないか! 吸い地もアラもまだ残っているので、もう一度作り直す。
不恰好~
今度は、茹でて冷凍してあった筍を使ってみることにする。考えてみたら、潮汁も、ウドも、春のメニューだから、筍は意外と悪くない代用なんじゃないかな? なんて考えたり。さっと塩で下茹でし、穂先の方を半割りにして椀づまに。さて、吸い口は何にしよう。と考えたって、イタリアでは和の香りのものなんてネギぐらいしかない。庭に生えているタイムもローズマリーも月桂樹も、純和風の潮汁に添えることはできない。仕方なく、冷蔵庫にあった長ネギを白髪ねぎにして添えてみる。同じ2課の「虎魚 すっぽん仕立て」で見た白髪ねぎの切り方を思い出す。今回は椀種や椀づまがプカプカ浮いてしまわないよう、吸い地は少なめにはる。
味も見かけも満足!
のつもりだったけれど、写真で見るとネギが太いのがバレバレ~!
包丁をもっと研いで、練習しないといけませんね
まあまあ満足のいく盛り付けができ、写真も撮ったので、さて試食。すると今度は、さっきと全然違う美味しさだ。たった少しのネギを添えただけで、こんなにも風味が変わるなんて。料理の全ての工程や材料には、大きな意味があることを今更ながらに実感して、第1課、第2課を終了したのでありました。