「予習か復習か、それが問題だ」(調理師本科キャリアクラス)
こんにちは。調理師本科キャリアクラスの鶴見佳子です。
前回ブログを書いたのが夏。秋が過ぎ、冬となり、あっという間に2020年が明けました。
辻調での学生生活も残すところ1か月強。
ブログをサボっていた半年間、キミは何をしていたのか?
勉強していましたがな!
いやいやいや、調理実習と座学の授業の予習と復習に追いまくられ、前期の期末試験と後期の中間試験の結果に一喜一憂したり、時には絶望と希望の間をさまよっていたりしました。
辻調は、出席率8割以上、試験点数6割以上を達成しないと卒業できません。
抜け道はどこにも、ご・ざ・い・ま・せ・ん。
*復習は図書館でする
学校の授業を終えて帰宅すれば、普通の家庭人としての家のしごとが待っています。執筆の仕事や、テレビの番組のモニタリングのアルバイトがあり、友達から誘いがかかると飲みに行き、気になる店への食べ歩きは調理師学校の学生として必須です。
この1年、歌舞伎や文楽など大好きな古典芸能鑑賞を封印しているのに、時間が足りない。授業の予習・復習の時間をどのように捻出すればいいか悩みました。
調理科目は、授業前に「Tラーニング」(E 教材)で予習しなくてはなりませんが、これは前日、夕飯を食べおわった後か、当日、朝早く起きてかけこみ勉強です。いつもギリギリの綱渡りです。
座学の科目(調理理論、健康学、栄養学、衛生学など)は、普段からこまめにノートをまとめておかないと、試験に間に合いません。
4時限目の授業が午後4時20分に終わると、特別な用事がない限り、図書室に直行します。6時過ぎまで今日の授業のノートをまとめたり、宿題をしたりして過ごします。
「図書室でのみ勉強する作戦」に思い切ることにしました。
職員室とはガラスで仕切られており、「がんばってるねぇ」と学科長の可児慶大先生に初めて声をかけられたのも、この図書室の中でした。
ここでは、自分のペースで勉強でき、各種文献に当たることができ、開業したらどんなメニューにするか夢想することもできます。授業で興奮している頭を冷やしたり、調理実習で疲れた体をクールダウンできるのもいい点。
西洋料理の中川徳康先生や日本料理の眞田章仁先生が図書室に入ってこられると、自分の疑問を伝えて教えていただいたり、先生の学生時代の話を聞けたりします。
*ジビエに喜び、ふぐに泣く
夏季から秋季にかけては特別授業「別科料理研究講座」が行われ、私は「フランス料理」と「ふぐ」を選択しました。これは通常の授業のような予習・復習がいるというより、期間限定・一気集中で、その授業の中にどっぷり身を浸して体感します。
「ナベノ・イズム」(東京)の渡辺雄一郎エグゼクティブシェフCEOや、「ザ・リッツ・カールトン大阪 ラ・ベ」のクリストフ・ジベールシェフほか、4人の著名な外部講師のお話を聞き、試食できたのもゴージャスでした。
子羊、鴨、鳩、ラングスティーヌ、カエル、フォアグラなど、フレンチで王道の素材を使い、中田淑一先生に、肉や魚をさばいたり、内臓を使ったジュを作る講習を受けたことは、とてもうれしかった。
調理の出来不出来は棚にあげて、私はこの講座で「気分だけでも、オーギュスト・エスコフィエ」を堪能しました。鴨もラムもカエルも今まで以上に身近な存在になりました。
できれば、ジビエは赤ワインで流し込みたいので、せめて試食時にはノンアルコールの赤ワインがほしいなぁ...と、最終日のアンケートに感想を書いておきました(笑)。
問題は「ふぐ」。
ああ...苦い思い出がフラッシュバックします。
正直に告白しましょう、初めて生のふぐと格闘した日、私は完全に二日酔いでした。
皮をむいたら、エイリアンとしか思えないふぐ。
うろこ、皮、ほね、身、内臓、血、そしてテトロドトキシン...。
私はふぐを調理する前に、自己嫌悪という包丁で、自分をぶった切っていました。
「どうして昨晩はあんなに飲んでしまったのだろう」
わが身も、ふぐの身も、気持ち悪くて、マジにふらふら。「包丁をもって倒れちゃだめですよ!」と、先生から目をつけられる始末。
気持ちが悪くなったら包丁から手を離し、窓際に新鮮な空気を吸いにいく。最後にはとうとう教室を出て、廊下でしょんぼり休む...。
受講料の3万円、もう捨てよう、と思った時に、廊下を通りかかられたのが日本料理の濱本良司先生。
「先生、もうだめです。できない。気持ち悪い。ふぐ、あきらめます」
「大丈夫、大丈夫。ここまでやったんだから、あともう少し、続けなさい」
あの時、濱本先生が通りかからなければ、そして、あきらめるなと声をかけてくださらなければ、私は大阪府のふぐ処理登録者にはなれませんでした。
ふぐの検定料は、大阪府にではなく、濱本先生に払いたい。
調理室に戻ると、他の受講生はうんと先の工程に進んでおり、まな板にぽつんと残っていたマイふぐの、なんとあわれな姿よ。
しかし、こういう時に、天は私を見放さない(←転んでも、藁しべをつかんで立ち上がるB型気質)。比較的みんなが苦労していた「さめ皮」、案外するすると処理できたではあ〜りませんか。
「包丁"だけ"は、よく研いでますな」
松本善博先生の一言は、もうそれぐらいしか、声をかける部分がなかったことを意味しています。
は〜あ、包丁を研いでおいてよかったわい(←小さなことは気にしない、細かいことはわからないB型気質)。
私は実はだらしない人間で、学生時代も会社員時代も遅刻の常習犯でした。なのに今は、遅刻も欠席も1日もなく、風邪を引くこともない。59年間の人生で、こんなに健全な日々は初めてです。自腹で授業料を払い、人生の第4コーナーがかかっている人間の底力...でしょうか。
学校の勉強の間に、自主勉強として大学院の通信教育で「食健康科学」を科目履修したり、民間団体が主催する豆腐のセミナーを受けに行ったり。
ちょうど数日前には「専門調理師」の筆記試験を受けました。1000問の練習問題集を2度解いた自分を褒めてやりたい(誰も褒めてくれないから自分で褒める!)。
この試験は、在学中の学生が受けられ、6年後の本試験では筆記試験が免除されるそうなのですが、その時、私は「前期高齢者」なんですけど...それが何か?(笑)。
残るは最後の後期試験。特にやっかいなのは、調理の実技試験です。
現在、私は、入学以来何度目かの絶望の縁に立っています。
日本料理の課題「だし巻卵」は、いまだかつて一度も成功しておらず、エイリアンふぐよりダメダメな状況...。濱本先生、もう一度、通りかかってください。
3月、大阪城ホール(卒業式会場)は私を待ってくれているでしょうか。
次回は、「あらためて思う、おいしさとは何なのか」。
プロフィール
鶴見佳子(名古屋市出身、大阪市在住)。
新聞記者、文筆家(フリー)を経て、現在、辻調調理師本科(キャリアクラス)に在籍。50代の学生ですよ!
趣味は落語(アマチュア落語家「大川亭知どり」も私のもう一つの顔)。
目標は「食堂あおぞら」の店主兼調理人。これを人生最後のしごとにすべく勉強しています