超貴重!!プレス・ア・キャナール! 鴨のルーアン風
辻調理師専門学校の西洋料理のシミュレーション教室には、実習室を見守るかのような場所に1つの器具がおいてあります。
皆さん、これがなんだかわかりますか?
辻調の学生のみなさんも、「これって何なのだろう?」、「いつ使うの?」、「そもそも調理器具なの?」と思っていると思います。
実はこれ、『Presse à canard(プレス・ア・キャナール)』という鴨のエキス(血や鴨のジュース)を抽出する為だけの器具なのです!
このエキスは、鴨の風味をたっぷり含んでいるので、コクや味に深みを持たせたいソースを作成する時に使用します。
置いてあるレストランもあまりないので見かける機会も少ないと思います。
今回はこの器具を使って、ルーアンRouenの伝統料理
『Canard à la Rouennaise(鴨のルーアン風』という料理をサービス目線で、ひと皿仕上げていこうと思います!
因みに、ルーアンはフランスの北西部にあり、ジャンヌ・ダルクが火刑に処された終焉の町でもあり、
印象派のクロード・モネの絵画で有名なノートルダム大聖堂などがあります。
まず、Canard à la Rouennaise(鴨のルーアン風)とは・・・
鴨の名産地でもあるルーアン。ルーアン産の鴨は肉質の向上を求めて人工的に飼育された品種です。
大きなもので2.5kg~3kgになるのが特徴です。そしてもう一つ、食肉処理の方法にも特徴があります。
普通の鴨は首に傷を入れて食肉処理をし血抜きをしますが、
ルーアン産の鴨は傷を付けずに窒息させるエトフェétoufféという方法で行います。
窒息させることで血が体内に留まり、肉が赤身を帯び、より風味が高まり、身質は柔らかくなります。
このルーアン産の鴨を丸ごとローストし捌いた後に、
ガラを先ほどのプレス機に入れてエキスを絞り濃厚なソースに加えて仕上げます。
エトフェの鴨の風味を最大限に生かした19世紀末にパリのレストランから広まった伝統料理です。
では!厨房から焼き上がった鴨が届きましたので、早速捌いていきます!!
焼き上げるポイントとして・・・
皮目は焼けていますが、身は最後にソースの中で温めるのでレアに仕上げます。
では、部位ごとに切り落としていきます。
順番は、①手羽 ②もも肉 ③胸肉 です。
鴨に火が入りきっていないので、特に関節まわりはしっかり包丁を入れないと切れません。
もも肉の外し方は鶏肉と同じなので、【ローストチキンのデクパージュ】の動画を見てみてください!
切り落としたもも肉は、関節で≪スネ≫と≪モモ≫に切り離し、
≪モモ≫は厨房に戻して、再度火を入れてもらい、サラダ等と共にセカンドサービスとして提供します。
次は胸肉です。
表面の皮を取り、肩から薄くスライスしていきます。
身がしっとりしているので、薄く切るのは難しいですが、包丁を大きく動かして包丁の刃全体で切ると上手に切れます。
サービスマンもこのように包丁を扱うので、料理の知識や技術が必要になのです。
因みに、この伝統料理『Canard à la Rouennaise(鴨のルーアン風)』の普及と保護の為に設立された
「メートル・カナルディエ」という資格があります。
料理に関する知識はもちろん、ナイフさばきや作業の美しさ、仕上げの完成度が必要になってきます。
この「メートル・カナルディエ」はサービスマンに与えられる資格です。
片方の胸肉から4~5枚取れるようにスライスしていきます。
レショー réchaud(保温器)に火をつけて、バターを塗ったトレーに並べます。
先ほどのスネを土台にして、スライスした胸肉を並べます。
胸肉の最後にスライスした中心の部分は火通りが浅いので、その肉から並べる事がポイントです。
スライスした胸肉をきれいに並べながら保温していきます。
左右の胸肉をスライスできれば、次はガラを分解していきます。
はさみと包丁を使って、プレス機の中に入る大きさにしていきます。
セットし、ハンドルを回しながらガラからエキスを絞っていきます。
力のいる作業なので、【ハンドルを回す人】、【プレス機を支える人】と2人で行うこともあります。
茶こしを使って、一緒に出てくる脂の塊や、不純物を取り除きます。
このエキスをソースの仕上げに溶かし込みます。
では、ソースを作っていきましょう!!
鍋にブランデーを入れて、アルコール分をしっかり飛ばします。
そこに、厨房で作成してもらったソースベース(鴨の出汁や赤ワインを使って作る濃厚なソースのベース)を加え、味をなじませます。
風味付けでマデラ酒、酸味の補いでレモンを絞り、味を調えます。
レモンを加えることによって、濃厚なソースに爽やかなニュアンスがプラスされます。
軽く沸騰させた状態を保ちながら、絞ったエキスを少しずつ溶かし込んでいきます。
火加減が大切です。沸騰させると、ボソボソになり口当たりが悪くなるので、細心の注意を払います。
キレイに溶かし込めると、ソースが艶々してきます。
最後に、胸肉をソースの中で温めなおします。
ここで軽く火が入るので、ローストの段階ではレアで止めておく必要があります。
たっぷりのソースと一緒に盛り付けて完成です。
柔らかい鴨と、濃厚なソースの相性は抜群です!
一緒にボルドーの様な力強い赤ワインがあれば最高ですね!!
なかなか出会う機会の少ない料理かと思います。
もしレストランでメニューに載っていれば、ぜひ味わってみてください!!
※メートル・カナルディエMaître Canardier
1986年に創設者ミシェル・ゲレ Michel Gueret氏によってルーアンに設立された協会で
ルーアンの伝統料理「仔鴨のルーアン風」を世界に普及させることを目的とする。
メートル・カナルディエを名乗るにはこの協会の承認が必要であり、協会の承認も目的とする大会は2年に1度開かれている。
大会の参加者は制限時間内にお客役の審査員の前で鴨をさばき、ソースを作り、仕上げる必要があるが、
審査員からは作業中も次々と質問が飛び交い、会話力や接客態度も審査対象となるなど、
メートル・カナルディエとしての高度な資質が求められる。
カナルディエ協会支部はフランス国内のみで4支部(ルーアン、リヨン、パリ、ピカルディ)、その他日本を含め、世界に17支部ある。
(参考:【とっておきのヨーロッパだより】鴨のちょっぴり美味しい話・・・かも!?
|12<海外>とっておきのヨーロッパだより|食のコラム&レシピ|辻調グループ 総合情報サイト(tsuji.ac.jp)
~プロフィール~
伊藤健人
辻調理師専門学校 西洋料理
辻調の学生の時に、どっぷりとサービスの魅力に取りつかれてしまいました。
ワイン、チーズ、コーヒー、フランス語、、、取りたい資格も沢山あります!!!