「私たちは日本料理の調理法を科学的に学びます!」 ~日本料理だけを学ぶ辻調 ブログ18~
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昨年4月に日本料理本科(1年制)日本料理クリエイティブ経営学科(2年制)が
辻調理師専門学校の日本料理学科として開校しました。
この2つの学科では日本料理の会席料理を中心に学びます。
今回は日本料理クリエイティブ経営学科2年生の授業科目「日本料理理論Ⅱ」の中で
「おいしさの科学」について紹介します。
ハイ!先生質問です!なぜ料理を科学の目線で学ぶのですか?目的を教えてください!
いい質問ですね
この「おいしさの科学」の目的は、日本料理のおいしさや調理法を科学的にとらえられるようになることです。
授業ではまず、おいしさを構成する諸要素や、人がこれらを感じる仕組みを学びます。
そして、いくつかの伝統的な調理法「塩をする・煮・焼・揚・蒸」に着目して、それらが食材に及ぼす効果を検証します。
先生の話を聞くだけでなく、試食・試飲したり、実験的に調理したりすることもあります。
学外の専門家によるレクチャーもふまえつつ
調理科学の基本的なポイントと料理のおいしさがどのように確立しているかを学びます。
わかりましたか?
科学ですか・・・なんだか難しそうですね。
頭で考えるよりまずは体験してみようよ。
そうですね!
講師の紹介をしておきます。木村 万紀子 先生です!
先生は奈良女子大学家政学部食物学科を卒業後、辻調理師専門学校で料理の基礎を学ばれ卒業。
辻静雄料理教育研究所での勤務を経て独立。
現在は同校で講師を務めるかたわら、調理科学分野における執筆などを行っておられます。
へえ~木村先生って卒業生なんやぁ~なんか親しみがわくと思った
木村先生からひと言「後輩のみなさんに料理を科学の目線でわかりやすく説明しますね。」
よろしくおねがいしま~す!
1回目は塩、酢が食材に及ぼす効果について勉強しますよ。
今日の学習目標は下処理で食材に塩をする酢に漬けることにより
食感、味、香りにどのような違いがでるかを説明できるようになることです。
まず、みなさんは塩にはたくさんの種類があることをご存じですか?
塩の味はすべて同じでしょうか?
いきなりですがA、B、C、3種類の塩を食べ比べてみましょう!
塩の食べ比べ?「塩辛いってだけで差があるのかなぁ」
まずは比較してみようか!
まずはそれぞれの塩の香りを確認!
「先生、全然わかりません!」
学生は正直ですね。
先生にも香りの違いはわかりません。
では順番に一つずつ少量、舌の上にそぉ~っとのせるようにして溶かします。
「オッ!瀬戸のほんじおが一番辛い!苦みも感じる」「食塩が一番まろやかに感じるかな?」
意外と3種とも違いがわかりやすいですよね!だれか特徴を答えられますか?
ハイ!瀬戸のほんじおがとても苦く感じます。
食塩は普段実習で使うのと同じ味かな?
伯方の塩は辛いけど3つの中で一番バランスがいいと思います。
学生の感想ですが木村先生どうですか?
なかなか良い味覚していますね
みなさんは「にがり」って聞いたことありますか。名前の通り「苦い」味の成分です。
塩にはにがりが多く含まれているものと、そうでないものがあります。
食塩は今日の3つの中で一番少なく、瀬戸のほんじお(粗塩)が一番多いこととなります。
つまり、にがりが多い塩ほど食べると辛く、苦みも感じるのです。
ここまでの学びはとても簡単です(笑)
ではそれぞれ味の違う塩を使って「魚の塩焼き」の食べ比べをしてみよう!
統一条件は写真を見てね!
ハイ!「スチコンコンビ210℃、スチーム30%、5分焼く」とありますが何のことですか?
写真を見て!
これは「スチームコンベクションオーブン」といってオーブンと蒸し器を同時に機能させて
温度と時間設定ができて簡単に焼く、蒸すは勿論、ミックスして蒸し焼きもできる優れものです。
話題の低温調理もできますよ!実習授業でも使っています。
今回の鯛の塩焼きは210℃のオーブンで全体の30%は蒸気を使って鯛の塩焼きを焼くという意味です。
210℃のオーブン機能だけで焼くとかたく身がしまり美味しくありません。
蒸気を30%加えることでしっとり感が出てすごく美味しくなります。
これはスチームコンベクションオーブンで調理するからできるスゴ技なのです。
さあー焼くよ!あとは5分間待つだけ。
3種類の塩を使って焼いた「鯛の塩焼き」の違いは分かりますか?
「全部、美味しいけど食塩で焼いたのが好きかな。魚の味がわかりやすいです」
「にがりの多い瀬戸のほんじおを使うと塩辛さが強く感じます」
「香りは統一された温度と時間で焼いているけど粗塩のほうが塩の粒子が大きい分、香ばしく感じます」
塩焼きのようなシンプルな調理でも比較すると塩の違いで大きく変わるのです。
この辺で何か質問はありますか?
ハイ!木村先生、塩が魚にもたらす効果は味付けだけですか。
「いい質問、そうゆうの欲しかったよ!」
では写真を見てください。魚には生臭みがありますそれを取り除くのも塩の効力です!
魚の下準備には一般的に「にがりの多い塩を使う」とされていますが
その理由は魚の生臭み成分「トリメチルアミン」が抜けやすくなるのです。
へーそうなんや!
最近は自分で魚を買って家でも料理するので、にがりの多い塩を買えば効果的ってことですね。
木村先生談:
私が辻調の学生だった時、疑問に思っていたことがあります。
日本料理で魚を焼く場合はほとんどの場合、事前にふり塩をして30分とか1時間とか置いた後に串を打って焼く。
しかし西洋料理では魚に塩をすればすぐにフライパンで焼くケースが多かったの。
ある先生が教えてくれたことは、日本料理の場合は串を打って焼くからある程度魚の身をかたく締めないと
焼いている途中、串から身が落ちてしまう。
シンプルに塩焼きにする場合は、
サバ、アジなど生臭みが強い魚はしっかり臭みを抜かなくては焼いても臭く感じるから事前に塩をする。
逆に西洋料理はフライパンで焼くことが多いので焼いている途中で身が落ちることがないので身をかたく締める必要がない。
調理にはバターを使い味の濃いソースを上からかけるので
臭みを抜かなくてもソースの味で美味しく食べられると教えていただきました。
調理の違いによる塩の使い方もあることを覚えておいてね
次は塩を使う調理と関係が深い「酢」についてです。
日本料理ではおなじみの「酢じめ」を通じて学んでいきましょう。
まずは実験をしますね。
生卵をA水に漬ける、B塩水に漬ける、C酢に漬ける以上で比較します。
では誰か出てきて代表で卵を割って漬けてください。
「僕がやります!」
どうぞ、どうぞ
この実験で何がわかるのだろうか?
オッ!3つとも状態が変わってきたぞ!
水に漬けると卵白が白っぽくなるが、特にかたまってはこない。その後も変化なし。
塩水に漬けると卵白は透明だけど少しかたくなっています。
塩にはタンパク質がかたまるのを助ける力があります。
酢に漬けると卵白部分が一番白くなり、火が通った感じになってきています。
熱するよりも力は弱いがタンパク質をかためます。
「ヤバッ!かたまってきた」
卵白にはタンパク質が豊富に含まれていますが水では凝固せず、
塩水では緩やかにかたまり、酢に漬けるとスピーディにかたまります。
事前におもしろい実験をしてみました。これは殻付きの生卵を酢に漬けて1週間おいておきました。
結果卵の殻は酢の力で溶け始め、逆に卵白はかたくかたまっています。
「この卵、弾力があって食べると美味しいかも、でも酸っぱいだろうね」
「西洋風の濃いソースかけたら美味しいかもね」
この実験で分かったことは、タンパク質は塩をする、酢に漬けることでかたくしまることです。
魚の酢じめは一般的には卸した魚に多めの塩をして、身をしめた後、酢に漬けて再度身をしめます。
なぜ2回も身をしめるのだろうか?
塩と酢を合わせた中に漬けたらどうなるのだろうか?
先に酢に漬けた後、塩を当てたららどうだろうか?
おもしろい実験になりそうですね。実験の条件は写真を見てね!
では試食で比較をしましょう。
向かって右側の一切れは塩をして酢でしめた一般的なアジの酢じめです。
左側の手前は酢に漬けた後、塩を当てたアジです。
上側は塩と酢を混ぜ合わせた中に漬けたアジです。
見た目はすべて同じに見えますが食べるとどうだろうか?
食べるとそれぞれ全然違うぞ!
では一般的な酢じめと比較して、酢でしめて塩を当てたアジは塩味を強く感じて逆に酢の味を感じにくい。
塩と酢を合わせたヤツは表面だけに塩味を感じて全体的に味が薄く感じます。
一般的な塩をしてから酢でしめた酢じめが食感もよく、
塩味と酢の味がバランスよく感じてかたいながらも歯切れがいいと思います。
木村先生、学生の評価はいかがですか?
正解その通りです!
塩と酢どちらも酢じめには必要ですが使う順番によって、おいしさの感じ方がまったく違うことがわかりました。
木村先生、本日はありがとうございました。
科学的に料理を学ぶと「なぜそうするのか?」「だからこうする!」といったことが理解しやすいですね。
木村先生お疲れ様でした。ありがとうございました!
~プロフィール~
辻調理師専門学校 日本料理
小川 健
香川県出身。
私は今から35年前に辻調理師専門学校を卒業しました。
その当時と今も日本料理の基本は変わっていません!
揺るぎない基本をしっかり学ぶことが技術と知識を向上させる近道です。
日本料理に興味のある人、興味はあるけど自信のない人も大丈夫!
日本料理本科、日本料理クリエイティブ経営学科では
「難しいことが簡単にできるようになる」授業内容になっています。
どんな授業だ?これからも授業の様子はブログで紹介していきますよ!ご覧ください。