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辻調理師専門学校

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ルポ「マデイラワインセミナー」前編(調理師本科キャリアクラス)

在校生ブログ
調理師本科

2019.07.16

こんにちは! 調理師本科キャリアクラスの鶴見佳子です。
今回のブログは特別編。校内で開催された「マデイラワインセミナー」を2回に分けてルポします。

酒精強化ワインとして調理に使われていることでも有名なマデイラワインの歴史や製法、味わい方などを学ぶ機会を得ました。
最初に壇上に立たれたのは、マデイラワインを輸入している木下インターナショナル株式会社(本社東京、木下康光社長)の永岡清彦取締役マデイラワイン特販部長です。
まず、マデイラ島とマデイラワインについてレクチャーしてくださいました。

マデイラ島は、ポルトガルの首都リスボンから南西に970km、大西洋上にあるポルトガルの自治領です。「春の島」と呼ばれ、ヨーロッパ、特に北欧の人々の避寒地として多くの観光客を集めるリゾートアイランドで、サッカー選手のクリスティアーノ・ロナウドの出身地でもあります。
島は東西に長く、日本の佐渡島を一回り小さくした規模。長崎と同じ北緯33度に位置しています。
ワインの生産地域は北緯30度~50度、南緯30度~50度。北半球のワインベルトの南部に位置するマデイラ島がどんな土地なんだろうと想像しながらお話をうかがいました。

歴史を遡ること600年前。ポルトガル大航海時代の1419年にマデイラ島は発見されました。翌20年、エンリケ航海王子からマデイラ島の監督権を授かり、入植が始まります。ブドウや小麦、サトウキビを島に植えたそうですが、ワイン造りには土壌の質が大きな影響を与えるはず。ワインにとって島の土壌の質はどうだったのか、永岡さんにお尋ねすると、「マデイラは、ポルトガル語で『木』を意味します。島にはもともと植物が密生していて、栽培地確保のために森を焼いたところ、火は島全体を覆い、7年間も燃え続けたんだそうです。それがのちにワインを作る土壌として適していたのではないでしょうか」。

マデイラワインは、熱による酸化熟成、凝縮という独特な製法で作られます。
そもそもは、船に積まれたヨーロッパ各地のワインが、赤道近くを通過する時に高温に晒されて劣化したのに比べ、マデイラ島産のワインは逆に熱が加わることで良い熟成をしたことに端を発します。
過酷な船旅の中で、加熱による酸化熟成が起きたことで、独特の風味ができあがりました。「いわば偶然の産物として生まれたワインなのです」と永岡さんはおっしゃいます。

現在の製造法は、発酵途中で酒精強化(アルコール96度のグレープスピリッツを添加)によって発酵を止めた後、ステンレスタンク内でワインの温度を47度から50度で3か月間、人工的に加熱熟成させ、その後、3か月かけてゆっくりと常温に戻す「エストゥファ」方式か、太陽熱で温度が高くなった屋根裏部屋で、樽に詰めたワインを5年以上、自然に加熱熟成させる「カンテイロ」方式で製造されます。
そんな歴史があったことも、そんな熟成の製法があることも、私はまったく知りませんでした。

マデイラワインをめぐる歴史には、興味深いエピソードが満載でした。
まず、日本にマデイラワインの必要性を説いたのは、大正期から昭和期にかけて宮内省(現・宮内庁)で主厨長を務めた「天皇の料理番」、あの秋山徳蔵シェフ! 明治時代にフランスで修行した秋山シェフだからこそ、マデイラワインを知っていたのでしょうね。

料理に使うお酒として定着するには、辻調の創立者で、辻静雄初代校長が重要な役目を担いました。永岡さんによると、マデイラワインは、フランス料理のソースに欠かせない食材であったにもかかわらず、戦中の影響と戦後の外貨不足から輸入できるものには限度があり、当時、国内に流通していたのは〝イミテーションのマデイラワイン〟しかなかったそうです。木下インターナショナル社がマデイラワインを輸入し始めたのが1967年。
ヨーロッパの料理に精通した辻前校長が1970年、バーベイト社のマデイラワインをテストし、「これだよ!これがほしかったんだよ!」と指摘。調理師学校で初めてマデイラワインが取り入れられました。

思いおこせば4月、西洋料理理論の授業の第1回目で、マデイラワインに遭遇していました。
「今日の料理は、牛フィレ肉のロッシーニ風。マデイラ酒を使ったソース・ペリグーで作ります。マデイラといえば、ポルト、シェリーとともに世界三大酒精強化ワインですよ」と中川德康先生に教えていただきました。
この時、私は、ポルトとシェリーは今までにお酒として飲んできたけれど、マデイラはなかったかもしれないと思っていました。だからこそ、今回のセミナーをどうしても受けたかった。調理に使うお酒としてだけでなく、「飲み物として、どんな市場性と可能性があるのか」を知りたくて。

マデイラワインに使われるぶどうは、黒品種ではテインタ・ネグラ(辛〜甘口)、白品種では、セルシアル(辛口)、ヴェルデーリョ(中辛口)、ブアル(中甘口)、マルヴァジア(甘口)があり、「白品種は、ぶどうによって造るワインのタイプが法律で決められている」とセミナーで教えられ、驚きました。
アルコール飲料の食材が法律で決まっているなんて、ドイツの「ビール純粋令」を知って以来のビックリです。

セミナーでは、うれしい「試飲会」がありました。
この日は、日本料理の調理実習で鯵の三枚おろしに大失敗してヘコんでいたので、マデイラワインの試飲コップを見た時、スイッチが入りました。もちろん試飲は、成人以上の学生だけですよ。50代の私は、お代わりしたいぐらいだわ(笑)。

黒ぶどうのテインタ・ネグラのスイートタイプ(3年熟成)。
白ぶどうのヴェルデーリョを使ったミディアムドライ(10年熟成)。
白ぶどうのブアルのミディアムスイート(10年熟成)。
それぞれ香りを楽しみながらいただきます。

テインタ・ネグラのスイート残糖量は、1リットルあたり101.8グラム。エストゥファ方式で3年樽熟成しています。試飲カップから立ち上るゴージャスな甘い香り、濃い赤紫で重めのボディ、喉の奥から食道にかけてぐっと熱くなるのは、アルコール分が19.0度もあるから。

ヴェルデーリョのミディアムドライは、カンテイロ方式で10年間の樽熟成をしています。黄金色で、残糖量は1リットルあたり62.0グラム。熟した果実のような複雑な甘さとエレガントな酸味が広がります。
熟成してこそ味がでるのは、ワインも、女子も、同じよね(きっぱり)。
テインタ・ネグラのスイートに比べればドライですが、やはり豊かな甘みがあります。

ブアルのミディアムスイートも同様に、カンテイロ方式で10年間の樽熟成をしました。残糖量は1リットルあたり83.0グラムで、テインタ・ネグラとヴェルデーリョの中間的な甘さでしょうか。はちみつ漬けのレーズンを噛んだ時のように、じわじわ響いてくるような甘み。とてもおいしく感じました。

後編に続く。

プロフィール
鶴見佳子(名古屋市出身、大阪市在住)。
新聞記者、文筆家(フリー)を経て、現在、辻調調理師本科(キャリアクラス)に在籍。50代の学生ですよ!
趣味は落語(アマチュア落語家「大川亭知どり」も私のもう一つの顔)。
目標は「食堂あおぞら」の店主兼調理人。これを人生最後のしごとにすべく勉強しています♡