フランス料理の古典料理と現代料理 ~1年生の調理理論授業より~
当時は先生になるなんて想像すらしておらず、日本史も世界史も、およそ歴史と呼ばれるものの勉強は嫌いでした。
そんな自分が今、フランス料理を学ぶ上で、古典料理と現代の料理を比べることが大切だと学生に説いているのも不思議なことに思えます。
「フランス料理ってどんな料理ですか?」という素朴な疑問に、あなたならどのように答えるでしょう。
もちろん、人によって答えは様々でしょうし、簡単に言い表すことができないからこそ、辻調の授業では何十時間もかけて教えているわけだったりします。
ただ、学びの入り口に立つ学生にとっては、長い道のりを見通すための道標となる一言が必要で、私の授業では「狩猟の獲物を丸ごと味わい尽くす料理」と説明しています。
この考え方に則った料理の1つに『舌平目のデュグレレ風』があります。
伝統的なフランス料理の料理名には人名や地域の名称を冠することが多く、デュグレレとは、この料理を考案したと言われる1800年代に活躍した料理人の名前です。
およそ200年前、日本では江戸時代後期のフランス料理とはどのようなものか、簡単に解説してみましょう。
下処理した舌平目を包丁で卸し、身と骨に分ける。
(これが舌平目)
鍋に骨と少量の野菜を入れ、白ワインと水を注いで火にかけて煮出す。
これを魚の出し汁、フランス料理用語でフュメ・ド・ポワソンという。
深さのある耐熱皿に玉ねぎ、エシャロット、パセリ、トマトの刻んだものを敷き、その上に舌平目の身を置く。
舌平目の身の厚さの半分程度が浸かるまで、少量の白ワインと共に魚の出し汁を注ぎ、耐水紙で作ったおとし蓋をかぶせる。火にかけて沸騰させ、予熱したオーブンに入れて火を通す。
舌平目の身を取り出して保温しておく。煮汁は野菜ごと鍋に移し、再び火にかけて、ほとんど水分がなくなるまで煮詰める(注)。
たっぷりのバターを少しずつ溶かし混ぜ、塩、こしょうで味を調えてソースに仕上げる。
器に保温しておいた舌平目の身を盛りつけ、身を覆うようにたっぷりのソースをかける。
(注)液体を鍋に入れ、焦げ付かないように火加減を調整しながら加熱し、水分を蒸発させることで鍋に残る液体に含まれる成分を濃縮する作業を煮詰めると言う。
フランス料理では欠かすことのできない重要な調理技術。
あまり簡単ではないかもw。
そもそもフランス料理って、調味を塩と香辛料だけで行うため、味の複雑さやうま味を増すために1品の料理を構成する食材の数が多く、食材から持ち味を抽出、濃縮する複雑な調理工程の料理が多いのが特徴です。
素材の味を活かすのは和食と言われるけれど、主材料と直接関係のないかつお節や昆布の出しを使い、みりんやしょうゆといった風味の強い調味料で味付けされる料理よりも、デュグレレ風のほうが素材を丸ごと活かし、味わい尽くす料理になっているのではないでしょうか。
実際、授業で作ったデュグレレ風を試食させると、学生たちに大好評です。
それにもかかわらず、デュグレレ風をそのままの形で提供しているホテルやレストランはありません。
辻調グループ 創設者 辻静雄は、フランス料理を調理技術の移り変わりだけでなく、歴史や文化の流れの中でとらえ、「料理は、その時代の人間の生活の中にこそあり、材料も調理法も調理器具もメニューもマナーも、さらに好みまでもが、時代とともに変わっていく。人間の歴史、文化の流れのなかには、例外なく、料理もある。」と語りました。
現代のホテルやレストランで提供されている料理だけを学ぶこと、200年前の料理だけを学ぶことにも意義はありますが、昔と今の違いは何なのか、今の形に変化してきた理由に"気づけるようになる"ことが、より価値ある学びと言えるでしょう。
(これは現代風な料理で、こういった料理をよく見かける)
そのため辻調の授業では、先生が料理を作るところをライブで見て、でき上がった料理を実際に食べて、食べ比べることで学びます。
難しく感じられるフランス料理も文字や言葉で語るだけでなく、お店では食べることのできない料理までも作って見せているのは、そういう理由があるからなのです。
故きを温ねて新しきを知るという言葉がありますが、自ら時間を費やし、古今東西を訪ねて学ぶという方法は、変化の激しい現代社会では必ずしも効率的とは言えません。
辻調では、あなたの代わりに先生が世界中の料理の現地に赴き、あなたの代わりに昔の料理書を調べ尽くしてくれています。
本来、自分で積み上げる必要のある修業期間の一部を、授業という形で先生たちが肩代わりしてくれているのです。
そんな授業を、あなたもオープンキャンパスで体験してみませんか。
高岡 和也