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辻調理師専門学校

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生のカツオから西洋のだし汁を作る!? ~全調協 調理技術教育学会 第2回学術大会~

イベント
調理師本科
調理技術マネジメント学科
高度調理技術マネジメント学科

2021.08.31

皆さん、こんにちは!西洋料理担当の紫藤(しとう)です。

先日、辻調理師専門学校(以下辻調)で「全調協 調理技術教育学会 第2回学術大会」
(以下、学会)という催しがありました。 
※会員限定のイベントで、今年度はオンラインで行われました。

この学会は調理師養成施設の教職員が主となり、食に携わる研究者、料理人、教育者等が様々なテーマに取り組み、
調理技術等の理論、並びに実践の発展と普及、調理に関する技術及び科学、
及び調理師を養成するための教育の向上を目的とした学会です。(難しいですね...)

わかりやすく言うと、皆で料理の悩みや問題、疑問に取り組み、勉強、共有、解決していこう!
という全国すべての調理師学校の取り組みです。 

今回、辻調が実施校となり、会場提供、料理デモ等すべてを執り行いました。
辻調の先生達は学生に教えるだけでなく、
料理に関して他校の先生に対しても教育活動をしています。
今回はその一部「生のカツオから西洋料理のだし汁を作る!?」をご紹介します。

学会では様々な研究内容の発表が行われました。
今回私達は「もしフランスに仏教が伝わり、四足の肉食が禁止され、
かつおという旨味の強い魚を発見していたらどうなっていたか?」という内容に
川崎 寛也先生(味の素株式会社 食品研究所主任研究員)と共に取り組みました。

その中で私達はだし汁に着目し、日本料理の一番だしに対し、西洋的作り方でカツオのだし汁を完成させるという挑戦をしました。



御存知の方も多いと思うのですが、本来一番だしというのは鰹節、
つまり乾燥したカツオと昆布から作成します。
ここで川崎先生から
「生でも乾燥でも含まれる成分は大きく変わらない、つまり生からでも問題の無い出汁ができるのでは?」
という問いかけに私達は頭を悩ませる事となりました。

本来、西洋料理の魚のだし汁は白身魚を使用します
水にさらして血抜きをし、臭みを極力無くした状態で使用する事が一般的とされています。
それを今回は赤身魚"カツオ"を使って。
しかも生から、更に西洋料理の技法でというのですから、当初は「厳しいのでは...」と半ば諦め半分でスタートしました。
何せ西洋料理的に赤身の魚は臭いやクセが強く、だし汁には適さないと思われていたからです。


試作では色々な香味野菜や魚の分量等を試し、失敗を重ねました。

特に西洋料理の魚のだし汁を作るときに行う「血抜き」「下ゆで」「炒める」等の作業は完全に逆効果で、
非常に生臭いだし汁が出来上がってしまいました。 

何度か試作を重ね、西洋料理としても十分使用できる魚のだし汁が完成しました。
しかしそれは、私達のこれまでの常識を覆すような魚のだし汁の作り方でした。

それでは実際に学会でも発表した「だし汁」の工程を紹介します。

カツオは内臓・目以外の全ての部分を使用します。


鍋にカツオ、水・昆布入れて火を付けます。すごい色をしています。


沸騰間際になると大量のアクが出てきました。強烈な臭いがします。


表面のアクを取り除いて香味野菜を入れます。
昆布の成分により、徐々に液体が透明になっていきます。


炊くこと約15分、こんなに澄んだ色になりました!
味はなんと...最初の臭みからは想像できないほど透き通った味になり、
カツオの旨味も感じられる驚く結果となりました! 
何より臭みがほとんど消えていたのは衝撃でした。

今回は血抜き等予め臭みを取り除く下処理は行わず、全ての材料を生のまま鍋に入れて炊きました。
これは約4時間かけて作る鶏のだし汁と同様の作り方なのですが、
カツオの場合は約15分と短く、それ以上炊くと酸味が増し、味を損なう結果となりました。
これには研究員の先生も驚かれており、我々職員も新たな発見となった研究結果でした。
講習中は上記の内容に合わせて研究員の先生から
「出汁の組み合わせ」「旨味の抽出時間」「それぞれの材料が持つ科学的役割」等といった説明も加わり、
料理と科学が一体となった非常に内容の濃い講習となりました。



今回はこのだし汁の他にもフードロス解決に向けた料理考案など、全国に向けて辻調の先生達が様々な研究発表をしました。

学内の授業だけでなく、辻調先生達の様々な取り組みは辻調学生にも波及しており、
先生達の活動を受け、自主的に研究に取り組む学生も年々増えています。


このように近年料理人は食、料理を通じて様々な問題の解決、情報の発信によって
世に貢献できる、自分を表現できるステージが増えてきました。
それはコロナ禍も例外では無く、ある先生は「コロナで落ち込んだこの世の中に料理の力が必要になる」と言いました。
これらは老若男女関係無く、料理人であれば誰もが可能性を秘めています。
料理人って素晴らしい!

これからも辻調は授業だけでなく、料理を通じて様々な可能性、研究、環境問題にも学校で取り組み、全国へ発信していきます! 


~プロフィール~
辻調理師専門学校 西洋料理担当
紫藤 慧
辻調理師専門学校を経て、フランス校へ進学、
フランス「ミッシェル・ゲラール」にて研修。
奈良県立なら食と農の魅力創造国際大学校(NAFIC)に出向歴あり。