日本料理体験記~vol.2 鯛平造り そぎ切り あしらい 山葵 土佐醤油
Vol.2 鯛平造り そぎ切り あしらい 山葵 土佐醤油
「日経レストラン」という雑誌に掲載されている料理評論家・山本益博さんの「イチローに学ぶプロの仕事の哲学」という連載を楽しく読んでいます。
1月号のテーマは、「仕事の再点検」。
コラムは「料理というのは頭で考えたことを手で表現する職人仕事なのだが、昨日も今日も同じ仕事を繰り返しながらも、繰り返し同じことはしていない」という一文から始まっています。毎日料理をしながらムダを省き、工夫を凝らし、完璧を目指すために必要な再点検という作業を、用具の手入れを行いながらその日の試合を振り返るイチロー選手の仕事ぶりと照らし合わせて書かれています。
さて、第3課、4課では日本料理の基本となる魚の扱い方について学びます。
お刺身というのは、買ってきたものをお皿に移してテーブルに並べるもの、という認識が一般家庭では根づいているのではないでしょうか。私自身、魚を下ろすための包丁を使ったことはこれまでほとんどありませんでした。今回、鯛と格闘しながら、何度も山本益博さんのコラムを思い出しました。
まず、下処理です。うろこを取り、内臓やえらなどをはずし水洗いした鯛の頭を落とします。
そして鯛の中骨から身をはずすのですが、この作業を「おろす」と言います。料理にあわせて、いろんなおろし方が
ありますが、今回の鯛はまず下身と、中骨のついた上身の二枚に切り分け、それから中骨を身からはずし三枚におろします。
生魚なのでてきぱきやりたいのですが、慌てると中骨の方に身が残りおろした上身と下身が小さくなってしまうので、
私は手順がしっかり頭に入るまで注意しながらゆっくりやりました。
それから、腹骨をすき取り血合いの右に包丁を入れて背身と腹身に切り分け、血合いと血合い骨も切り取り、皮を引きます。
難しく思える下処理ですが、DVDの講義では1つ1つ先生の見本をアップで確認することができます。
そして、平造り、そぎ切りにしていきます。平造りは皮目を上にして、ある程度の厚みを持って切ります。
ポイントは刃元から切っ先まで一気に引いて切ること。そぎ切りは皮目を下、尾を左にしてやや薄めに引きながら切ります。
先生によると、繊維が固く歯ごたえがある鯛の食感を楽しめるよう、平造り、そぎ切りという切り方をするそうです。
次はあしらいの準備です。
お造りに欠かせないのが大根のけんです。
けんとは主となるあしらいで、野菜の細切りのことです。
繊維に沿って切ったものは「縦けん」、直角に切ったものを「横けん」と言います。
けん以外の野菜や海藻などは、つまと言います。
今回は大根のけんのほか、青紫蘇、花穂紫蘇(はなほじそ)、独活(うど)、人参などを使って彩ります。
今回も、感じさせられたのは丁寧に調理することの大切さです。
あしらいに使った、より人参、より独活(うど)というのは、桂向きよりも少し厚く切った大根と人参を斜めに切って水に放し、箸を使ってくるくると巻いたものです。
人参が赤く大根が白いことから、「より紅白」と呼ばれます。
こういった作業をしながら、これまで何気なく食べていたお店のお造りに見せ方の工夫が凝らされていることを改めて思い出しました。
氷を器に見立てたり、醤油をホイップ状にしたり、季節の魚によってさまざまな演出があります。
生の魚を切って出すというシンプルな料理であること、コースでは最初に食べることの多い料理だからこそ、盛り付けやあしらいの彩りが大切になるのかもしれません。
また、器選びも日本料理の楽しみの一つです。
今回のお造りには以前、滋賀県の近江八幡で焼いた水茎焼(みずくきやき)の器を使うことにしました。
琵琶湖をイメージした淡い水色の焼き物です。
最後に、お造りの味ですが、先生の言葉どおり鯛の歯ごたえを楽しむことができました。
魚を切る厚みも歯ごたえの大きなポイントになるようです。
お造りは一口で食べるものですから、大きすぎても小さすぎてもいけません。
また、ほどよい厚みでなければ食感も楽しめません。
お造りの味をぐっと引き立てる土佐醤油も名脇役です。
かつおぶしやみりんなど身近な素材で作れる土佐醤油があるだけで、我が家が料亭になったかのようでした。
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